死にたがりな美少女(ボク)と残念貴族
Ⅶ.初めての服選び
と、いう訳で、現在二人はこうして炊飯器を買いに来ているのだった。
「気に入ってる、ねえ……」
呟く。「蓮を気に入っている張本人」は数歩前に居た。その服装は相変わらずなのだが、上に羽織っているダッフルコートのおかげで、受ける印象は大分ましになっていた。
「蓮」
その昴が突然振り向き、
「もう用事は終わった?」
「ん?そうだなぁ……」
さて、どうしよう。本当の事を言えば食材も買っておきたい。どうやらかなり長い期間昴の家で世話になるらしい。そうなると、当然数か月間料理をする事になるし、ある程度買い込んでも問題は無い。しかし、
「終わった……かな」
断念する。その原因は大体手元にある炊飯器である。家具、それも最新式で高性能なものを買ってしまったので、ぶっちゃけ重い。その上かさばる。体力に自信が無い訳でもないが、ここに更に食材の買い出し、というのは正直きつい。もしかしたら昴に頼めば食材位は持ってくれるかもしれないが、それは流石に男としてのプライドが邪魔をした。一応彼女はショルダーバッグを持ってきているので、野郎とと思えば出来なくはないのだろうが、そこまで切羽詰まってはいない。何なら、一度マンションの部屋に炊飯器を置いてからもう一度出かければいい。
そんな蓮の返答を聞いた昴は、
「分かった」
了承して、
「それなら、少し付き合って欲しい」
「付き合って……って、どこか行きたい所でもあるの?」
「そう」
「ちなみにどこ?」
昴は無言で背を向けて、
「付いてきて」
それだけ言って駆け出した。
◇ ◇ ◇
「ここ」
目的地にたどり着いたのか、昴がくるっと振り向いて、片手で背後の店を指し示す。そこに有ったのは、
「……え、服?」
洋服屋だった。店名は筆記体の横文字で書いてあって良く読めない。有名な店なのだろうか。そして、そんな事よりも重要なのは、
「えっと、昴?」
「何?」
「服を、買うの?」
「そうだけど?」
当たり前だろうと言ったテンションで返されてしまった。なるほど。どうやら昴はこの店で服を買うらしい。それは良いだろう。年頃の女の子なのだから、服のひとつやふたつ位買ったっておかしくない。おかしくはないが、
「でも、昴が普段着てるのって、」
「雅が買ってきたやつ」
「だよね……」
やっぱり。エプロンの下りから薄々そうじゃないかとは思っていた。どうもあの人は他人の服を選ぶという事に関して絶望的にセンスが無いらしい。自分の着ている服はいたって普通なのに。
「でも、だったら何で突然服を買いに行こうと思ったのさ?」
昴は少しの間をおいて、
「……雅が言ったから」
「えっと、雅さんが……何を?」
「服を、蓮に選んで貰えって」
「え」
えええぇぇぇー……とは流石に言わなかったが、心の中では開いた口が塞がらない。だって、おかしいだろう。蓮はれっきとした男子だ。勿論春からは女装をして女子校に通う事にはなるが、それとこれは話が別である。幾ら今昴が来ている服のセンスが壊滅的だとしても、女装男子(予定)よりは幾分マシなのではないか。そもそもの問題として、蓮は女性物の服についての知識が皆無である。これを機に身に付けろ、という事なのだろうか。
暫くして昴が、
「……別に、嫌なら強制はしないけど」
そうフォローを入れる。反応が無かったのが気になったのだろう。蓮は片手をぶんぶんと振って否定し、
「い、嫌では無いよ!でも、えっと……本当に僕でいいの?」
首肯。
「それなら、まあ、良いけど……でも、僕のアドバイスとか参考にならないと思うよ?」
「大丈夫。来て」
昴はそれだけ言って、店内へと入っていく。はぐれてはまずい。そう思い、蓮も後を付いていった。
◇ ◇ ◇
「選んで」
店内に入って、昴から最初に言われた言葉はそれだった。
「と、言われてもなぁ……」
蓮は思わず後ろ頭を掻く。まさか丸投げされてしまうとは思わなかった。
「えっと……なんか、こういうのが欲しい、とかない?」
助け舟を求めるも、
「特には」
バッサリ切り捨てられる。
「うーん……」
蓮は唸りながら棚を眺める。ここにある品々は着る対象が違うだけで、全て衣服だ。勿論、レディースにしか無いような物もあるにはある。しかし、基本的な所は変わらない。だったら、蓮が感覚で選んでも問題は無いだろう。と、いうか、そうしないと先に進めない。
「まあ、取り敢えず選んでみますか」
蓮は一つ呟いて、
「えっと、昴?」
「何?」
「何か、こういう感じが良いとかある?」
昴は少し考え込み、
「……動きやすいやつ」
「動きやすい、ね。了解」
さて。動きやすい服、というのは何だろうか。単純にそれだけを追求するならジャージで良いが、恐らく昴(というか雅)が求めているのはそういう物では無い。きちんと女の子らしい服だろう。その上で動きやすいとなると、
(やっぱこの系統かなぁ……)
手に取ったのはスキニーパンツ。昴の「動きやすい」がどれほどを指すのかは分からない。しかし、初めて出会った時の足の速さなどを見る限り、スカートよりもこっちの方がいいのではないか。そんな気がする。
そうと決まったら、
「えっと、昴?」
「呼んだ?」
「うん。えっと……サイズってどの位なのかなって」
「……待ってて」
昴は突然スイッチが入ったようにバッグの中を探り、
「はい」
一枚の紙を差し出してくる、
「えっと……これは?」
「サイズ、書いてある」
内容を確認してみる。なるほど確かに並んでいる文字列は服のサイズの様だった。ヒップ、ウエスト、バス、
「ちょっと待った」
昴が不思議そうに、
「どうしたの?」
「いや、どうしたのじゃなくて……これ、スリーサイズも書いてあるんだけど?」
今度こそ首を傾げて、
「そうだけど?」
「いや、そうだけど?じゃなくて……これってそんな簡単に見せて良い物じゃないと思うんだけど」
「でも、見せないと選んで貰えない」
「それは、まあ」
そこまで言って止まり、
「え、って事は、スリーサイズが必要になる物も僕が選ぶって事?」
「そう」
いやいや。いやいやいやいやいや。おかしいだろう。百歩譲って蓮に服選びを手伝わせるのはまあいいとしよう。明らかに人選ミスだとは思うが、流石に雅よりは良い物が選べるはずだ。
しかし、これは無いだろう。アウターを選ぶのとインナーを選ぶのでは大きな違いがある。女性の下着姿なんてそうぽんぽん見て良い物では無いはずだ。彼氏彼女の間柄ならいざ知らず、蓮が昴の下着を選ぶのは明らかに間違っている。
「えっと、流石にそれを僕が選ぶのは……」
「駄目?」
「えーっと……」
困る。正直な事を言えば昴がそこまで言うならば選んであげたくはある。恐らくあのセンスは下着にもいかんなく発揮されているだろう。それをある程度「まあ、いいかな」という許容ラインまで持っていく事は蓮でも出来る。
しかし、 蓮と二人で来ているとは言え、男性の恰好のままで下着を選ぶ、というのはちょっと気が引ける。今はそこまで混んでいないものの、正直周りの視線も気になる。
なので、
「えっと……下着は別の機会でいい、かな?」
妥協点を探る。すると昴は、
「私はそれでも構わない」
案外あっさりと折れてくれる。
「ありがと」
「また今度、選んでくれる?」
蓮は一つ頷いて、
「勿論」
快諾した。
「気に入ってる、ねえ……」
呟く。「蓮を気に入っている張本人」は数歩前に居た。その服装は相変わらずなのだが、上に羽織っているダッフルコートのおかげで、受ける印象は大分ましになっていた。
「蓮」
その昴が突然振り向き、
「もう用事は終わった?」
「ん?そうだなぁ……」
さて、どうしよう。本当の事を言えば食材も買っておきたい。どうやらかなり長い期間昴の家で世話になるらしい。そうなると、当然数か月間料理をする事になるし、ある程度買い込んでも問題は無い。しかし、
「終わった……かな」
断念する。その原因は大体手元にある炊飯器である。家具、それも最新式で高性能なものを買ってしまったので、ぶっちゃけ重い。その上かさばる。体力に自信が無い訳でもないが、ここに更に食材の買い出し、というのは正直きつい。もしかしたら昴に頼めば食材位は持ってくれるかもしれないが、それは流石に男としてのプライドが邪魔をした。一応彼女はショルダーバッグを持ってきているので、野郎とと思えば出来なくはないのだろうが、そこまで切羽詰まってはいない。何なら、一度マンションの部屋に炊飯器を置いてからもう一度出かければいい。
そんな蓮の返答を聞いた昴は、
「分かった」
了承して、
「それなら、少し付き合って欲しい」
「付き合って……って、どこか行きたい所でもあるの?」
「そう」
「ちなみにどこ?」
昴は無言で背を向けて、
「付いてきて」
それだけ言って駆け出した。
◇ ◇ ◇
「ここ」
目的地にたどり着いたのか、昴がくるっと振り向いて、片手で背後の店を指し示す。そこに有ったのは、
「……え、服?」
洋服屋だった。店名は筆記体の横文字で書いてあって良く読めない。有名な店なのだろうか。そして、そんな事よりも重要なのは、
「えっと、昴?」
「何?」
「服を、買うの?」
「そうだけど?」
当たり前だろうと言ったテンションで返されてしまった。なるほど。どうやら昴はこの店で服を買うらしい。それは良いだろう。年頃の女の子なのだから、服のひとつやふたつ位買ったっておかしくない。おかしくはないが、
「でも、昴が普段着てるのって、」
「雅が買ってきたやつ」
「だよね……」
やっぱり。エプロンの下りから薄々そうじゃないかとは思っていた。どうもあの人は他人の服を選ぶという事に関して絶望的にセンスが無いらしい。自分の着ている服はいたって普通なのに。
「でも、だったら何で突然服を買いに行こうと思ったのさ?」
昴は少しの間をおいて、
「……雅が言ったから」
「えっと、雅さんが……何を?」
「服を、蓮に選んで貰えって」
「え」
えええぇぇぇー……とは流石に言わなかったが、心の中では開いた口が塞がらない。だって、おかしいだろう。蓮はれっきとした男子だ。勿論春からは女装をして女子校に通う事にはなるが、それとこれは話が別である。幾ら今昴が来ている服のセンスが壊滅的だとしても、女装男子(予定)よりは幾分マシなのではないか。そもそもの問題として、蓮は女性物の服についての知識が皆無である。これを機に身に付けろ、という事なのだろうか。
暫くして昴が、
「……別に、嫌なら強制はしないけど」
そうフォローを入れる。反応が無かったのが気になったのだろう。蓮は片手をぶんぶんと振って否定し、
「い、嫌では無いよ!でも、えっと……本当に僕でいいの?」
首肯。
「それなら、まあ、良いけど……でも、僕のアドバイスとか参考にならないと思うよ?」
「大丈夫。来て」
昴はそれだけ言って、店内へと入っていく。はぐれてはまずい。そう思い、蓮も後を付いていった。
◇ ◇ ◇
「選んで」
店内に入って、昴から最初に言われた言葉はそれだった。
「と、言われてもなぁ……」
蓮は思わず後ろ頭を掻く。まさか丸投げされてしまうとは思わなかった。
「えっと……なんか、こういうのが欲しい、とかない?」
助け舟を求めるも、
「特には」
バッサリ切り捨てられる。
「うーん……」
蓮は唸りながら棚を眺める。ここにある品々は着る対象が違うだけで、全て衣服だ。勿論、レディースにしか無いような物もあるにはある。しかし、基本的な所は変わらない。だったら、蓮が感覚で選んでも問題は無いだろう。と、いうか、そうしないと先に進めない。
「まあ、取り敢えず選んでみますか」
蓮は一つ呟いて、
「えっと、昴?」
「何?」
「何か、こういう感じが良いとかある?」
昴は少し考え込み、
「……動きやすいやつ」
「動きやすい、ね。了解」
さて。動きやすい服、というのは何だろうか。単純にそれだけを追求するならジャージで良いが、恐らく昴(というか雅)が求めているのはそういう物では無い。きちんと女の子らしい服だろう。その上で動きやすいとなると、
(やっぱこの系統かなぁ……)
手に取ったのはスキニーパンツ。昴の「動きやすい」がどれほどを指すのかは分からない。しかし、初めて出会った時の足の速さなどを見る限り、スカートよりもこっちの方がいいのではないか。そんな気がする。
そうと決まったら、
「えっと、昴?」
「呼んだ?」
「うん。えっと……サイズってどの位なのかなって」
「……待ってて」
昴は突然スイッチが入ったようにバッグの中を探り、
「はい」
一枚の紙を差し出してくる、
「えっと……これは?」
「サイズ、書いてある」
内容を確認してみる。なるほど確かに並んでいる文字列は服のサイズの様だった。ヒップ、ウエスト、バス、
「ちょっと待った」
昴が不思議そうに、
「どうしたの?」
「いや、どうしたのじゃなくて……これ、スリーサイズも書いてあるんだけど?」
今度こそ首を傾げて、
「そうだけど?」
「いや、そうだけど?じゃなくて……これってそんな簡単に見せて良い物じゃないと思うんだけど」
「でも、見せないと選んで貰えない」
「それは、まあ」
そこまで言って止まり、
「え、って事は、スリーサイズが必要になる物も僕が選ぶって事?」
「そう」
いやいや。いやいやいやいやいや。おかしいだろう。百歩譲って蓮に服選びを手伝わせるのはまあいいとしよう。明らかに人選ミスだとは思うが、流石に雅よりは良い物が選べるはずだ。
しかし、これは無いだろう。アウターを選ぶのとインナーを選ぶのでは大きな違いがある。女性の下着姿なんてそうぽんぽん見て良い物では無いはずだ。彼氏彼女の間柄ならいざ知らず、蓮が昴の下着を選ぶのは明らかに間違っている。
「えっと、流石にそれを僕が選ぶのは……」
「駄目?」
「えーっと……」
困る。正直な事を言えば昴がそこまで言うならば選んであげたくはある。恐らくあのセンスは下着にもいかんなく発揮されているだろう。それをある程度「まあ、いいかな」という許容ラインまで持っていく事は蓮でも出来る。
しかし、 蓮と二人で来ているとは言え、男性の恰好のままで下着を選ぶ、というのはちょっと気が引ける。今はそこまで混んでいないものの、正直周りの視線も気になる。
なので、
「えっと……下着は別の機会でいい、かな?」
妥協点を探る。すると昴は、
「私はそれでも構わない」
案外あっさりと折れてくれる。
「ありがと」
「また今度、選んでくれる?」
蓮は一つ頷いて、
「勿論」
快諾した。
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