死にたがりな美少女(ボク)と残念貴族
Ⅲ.具体的なコト
「えっと……ですね……」
さあ、困った。どこから突っ込みを入れたら良いのか分からない。取り敢えず、
「女子校ってどういう事ですか……」
女性は首を斜め45度にして、
「そのままの意味よ?」
「いや、それは分かるんですけど……僕は男ですよ?」
「知ってるわよ?」
「だったら、女子校に通うっておかしくないですか?」
「そうね」
漸く意図が、
「だから、女装するの」
伝わってなかった。
「いやいや……駄目でしょう」
女性は「何を言ってるんだろう」という顔で、
「あら、何で?」
「だって、女子校ですよ?女装したからオッケーっていう問題じゃないでしょう。まさか審査基準が顔って事は無いですよね?」
首肯。
「ええ。ちゃんと性別は確認しているわよ」
「だったら」
「その私がオッケーを出すのだから大丈夫よ」
「いやいやいやいや」
ないないと否定する。すると女性は、
「あら、それじゃあ受けてくれないのかしら?」
「そ、それは」
「残念だわ~……寮生活なら生活に困る事も無いのにな~服だって用意してあげるし、何なら実費も出すんだけどな~」
「う」
女性はちらちらと蓮の方を見ながら、
「でもしょうがないわよね~だって、女子校で生活するって事が受け入れられないみたいだものね~それならこの話は無かった事に」
「ちょ、ちょっと待ってください」
「あら、どうしたの?」
「べ、別に駄目とは言ってないですよ?」
女性は不思議そうに、
「そう?女子校に通う事は許せないみたいだったけど」
「そ、それは」
逡巡したのち、
「ち、違うんです。ただ、」
「ただ?」
「ホントに大丈夫なのかなって、思っただけで」
「あら、大丈夫よ。学園長は私なのだから」
「で、でも、普段の生活でバレたりしないですかね……?」
女性は笑って、
「それはまあ、これから数か月の間で慣れてもらうしかないわ。でも、」
そこまで言って隣に立っていた銀髪少女の肩をぽんと叩き、
「いざとなったらこの子が何とかしてくれるわよ」
「は、はあ」
蓮は意味が分からず気の無い返事をする。何とかって、一体どうするのだろうか。記憶でも消し去ってくれるのだろうか。
そんな反応が不満だったのか、
「あ、信じてないわね。言っとくけどこの子は凄いのよ?」
「そ、そうなんですか?」
女性は胸を張り、
「そうよ。この子はね、望月昴っていうんだけど、なんとね、忍者の末裔なのよ」
両手を結び合わせる。忍者のポーズでも取っているつもりなのだろう。
「に、忍者って」
トンデモなおとぎ話。本来ならそう片づける所だ。しかし、蓮の脳裏にふと浮かぶ彼女の姿――厳密にはチラシを渡した後、蓮の元から去る時の姿――は忍者という言葉がふさわしいような気がする。
「まあ、それは本当か分からないけど」
「おい」
謝れ。一瞬でも本当かもと思ってしまった僕に謝れ。
「でも、それっぽい事が出来るのは本当。だから、大丈夫よ」
「大丈夫って……記憶でも消すんですか?」
昴と呼ばれた少女が漸く口を開き、
「求められれば」
出来るらしい。思ったよりハイスペックだった。
「ま、そういう訳で。もしバレたとしても心配はしなくて大丈夫。まあ、積極的にバラすのは止めてほしいけどね。それをやられたら、貴方を放りださないといけなくなっちゃう」
「そんな事しませんよ……」
女子校に男子が居ると知って喜ぶ人間など早々居ない。メリットが無さすぎる。女性は「うむ」と頷いて、
「それなら、受けてくれるという事で良いのかな?」
手を差し伸べる。蓮はそれを握らずに、
「その前に、少し確認をして良いですか?」
女性はやや不満顔で、
「まだあるの?良い条件だと思うんだけど」
「まあ、良い条件だとは思いますけど……」
当たり前だ。しかし、今の世の中、甘い話ほど何らかの裏が有る物だ。蓮の眼前にある“それ”は蓮だけにメリットが大きすぎる。
「えっと……ですね。まず、ひとつめは僕がする事の確認です。僕がするのは、紫苑さんの観察と制御で、良いんですよね?」
「そうよ。後者はまあ、出来ればで構わないわ」
「分かりました。それじゃあ、観察って具体的に何をしたらいいんですか?」
「何をって言われても、そのままよ。あの子と同じ学校に通って、同じクラスで学園生活を送って、その間に、あの子の行動を観察して、分かった事とかを貴方なりに報告してくれればいいわ」
「そんなんでいいんですか?」
「ええ。だから、言ったじゃない。そのままだって」
考える。一緒に生活して、見て、感じた事を報告する。はっきりいって大したことでは無い。積極的に関われ、という事でも無いらしい。仲良くなれ、となると相手の有る事だ。でも、観察するくらいならまあ、問題は無いだろう。
「それなら、ふたつめは生活面の事です」
「生活面?」
「はい。僕は寮生活という物が良く分からないので」
嘘だ。寮生活自体をしたことが無いのは事実だ。しかし、本当の所知りたいのは条件面。つまり報酬として位置付けられている寮の部屋や、食事等に問題が無いかといった部分である。無いとは思うが、あてがわれた生活が奴隷の様でした、では話にならない。しかし、
「寮なんて普通よ、普通」
回答は何ら役に立たなかった。
「普通と言われても……」
そこで女性ははっとなり、
「あ、もしかしてアレ?変なとこに押し込まれるんじゃないかって思ってた?」
ばれた。
「そんな事しない……って言っても信じては貰えないわよね。良いわ。その辺の話は後で纏めておくわ。ただ、取り敢えず、変な所に押し込んだりはしないって事だけは保証するわ」
「はあ」
反応が鈍いのが気になったのか、
「あ、それじゃあ誰かに知らせてから」
そこまで言って気が付き、
「と、言うか、あれじゃない。親御さんに連絡しないと」
蓮はあわてて、
「あ、僕両親居ないんですよ」
女性は目をぱちぱちさせて、
「あら、そうなの?」
「ええ」
と、いうか、ぶっちゃけそれだから声を掛けた物だとばかり思っていた。身寄りが無いなら編入だってそこまで難しくない。しかし、両親が居るのならば、そちらも説得しなければいけない。その時にもまさか「女子校に編入するんですよ」と言うつもりだったのだろうか。
「そっかー……えっと、それじゃあ他の親戚に、」
「あ、それも居ないです」
沈黙。やがて女性が、
「えっと……なんかゴメンね」
「別に、良いですよ。事実ですから」
蓮はこの手の「気まずい空気」が嫌いだった。言った相手はしまったと思うらしいのが、当人としては全然気にしていなかった。両親が死んだのがかなり早かったからというのも関係しているのだろうか。
女性は首筋を掻きながら、
「えっと……それじゃあ、どうしようか」
「そうですね……あ」
「ど、どうしたの?誰か思いついた?」
「はい」
蓮はふと、思いつき、
「隣に住んでた旭っていう人なんですけど」
隣人の名前を上げる。
「あさひ……さん。その人とは仲良いの?」
蓮は頬を掻きながら、
「仲良いって言うか、暫くの間居候してました」
「そうなんだ……えっと、じゃあ、その人に知らせておけば大丈夫かな?」
「そう、ですね」
蓮は頷く。流石に生活面で頼る事は出来なかったが、旭本人は善意の塊のような人間だ。蓮が酷い目に遭っているかもしれないと分かれば、迷わず対抗手段を取る人だろう。
「よし。後、何か問題はある?」
蓮は少し考え、
「大丈夫だと、思います」
本当はまだ信じ切れた訳では無い。しかし、ここまで話した感じでは、今すぐ死ぬよりは良いだろうという事だけは分かった。だから、
「……三菱蓮です」
そう言って手を差し出す。最初はきょとんとしていた女性も意図を理解したのかその手を握り、
「鮎川雅。宜しくね」
握手を交わした。
さあ、困った。どこから突っ込みを入れたら良いのか分からない。取り敢えず、
「女子校ってどういう事ですか……」
女性は首を斜め45度にして、
「そのままの意味よ?」
「いや、それは分かるんですけど……僕は男ですよ?」
「知ってるわよ?」
「だったら、女子校に通うっておかしくないですか?」
「そうね」
漸く意図が、
「だから、女装するの」
伝わってなかった。
「いやいや……駄目でしょう」
女性は「何を言ってるんだろう」という顔で、
「あら、何で?」
「だって、女子校ですよ?女装したからオッケーっていう問題じゃないでしょう。まさか審査基準が顔って事は無いですよね?」
首肯。
「ええ。ちゃんと性別は確認しているわよ」
「だったら」
「その私がオッケーを出すのだから大丈夫よ」
「いやいやいやいや」
ないないと否定する。すると女性は、
「あら、それじゃあ受けてくれないのかしら?」
「そ、それは」
「残念だわ~……寮生活なら生活に困る事も無いのにな~服だって用意してあげるし、何なら実費も出すんだけどな~」
「う」
女性はちらちらと蓮の方を見ながら、
「でもしょうがないわよね~だって、女子校で生活するって事が受け入れられないみたいだものね~それならこの話は無かった事に」
「ちょ、ちょっと待ってください」
「あら、どうしたの?」
「べ、別に駄目とは言ってないですよ?」
女性は不思議そうに、
「そう?女子校に通う事は許せないみたいだったけど」
「そ、それは」
逡巡したのち、
「ち、違うんです。ただ、」
「ただ?」
「ホントに大丈夫なのかなって、思っただけで」
「あら、大丈夫よ。学園長は私なのだから」
「で、でも、普段の生活でバレたりしないですかね……?」
女性は笑って、
「それはまあ、これから数か月の間で慣れてもらうしかないわ。でも、」
そこまで言って隣に立っていた銀髪少女の肩をぽんと叩き、
「いざとなったらこの子が何とかしてくれるわよ」
「は、はあ」
蓮は意味が分からず気の無い返事をする。何とかって、一体どうするのだろうか。記憶でも消し去ってくれるのだろうか。
そんな反応が不満だったのか、
「あ、信じてないわね。言っとくけどこの子は凄いのよ?」
「そ、そうなんですか?」
女性は胸を張り、
「そうよ。この子はね、望月昴っていうんだけど、なんとね、忍者の末裔なのよ」
両手を結び合わせる。忍者のポーズでも取っているつもりなのだろう。
「に、忍者って」
トンデモなおとぎ話。本来ならそう片づける所だ。しかし、蓮の脳裏にふと浮かぶ彼女の姿――厳密にはチラシを渡した後、蓮の元から去る時の姿――は忍者という言葉がふさわしいような気がする。
「まあ、それは本当か分からないけど」
「おい」
謝れ。一瞬でも本当かもと思ってしまった僕に謝れ。
「でも、それっぽい事が出来るのは本当。だから、大丈夫よ」
「大丈夫って……記憶でも消すんですか?」
昴と呼ばれた少女が漸く口を開き、
「求められれば」
出来るらしい。思ったよりハイスペックだった。
「ま、そういう訳で。もしバレたとしても心配はしなくて大丈夫。まあ、積極的にバラすのは止めてほしいけどね。それをやられたら、貴方を放りださないといけなくなっちゃう」
「そんな事しませんよ……」
女子校に男子が居ると知って喜ぶ人間など早々居ない。メリットが無さすぎる。女性は「うむ」と頷いて、
「それなら、受けてくれるという事で良いのかな?」
手を差し伸べる。蓮はそれを握らずに、
「その前に、少し確認をして良いですか?」
女性はやや不満顔で、
「まだあるの?良い条件だと思うんだけど」
「まあ、良い条件だとは思いますけど……」
当たり前だ。しかし、今の世の中、甘い話ほど何らかの裏が有る物だ。蓮の眼前にある“それ”は蓮だけにメリットが大きすぎる。
「えっと……ですね。まず、ひとつめは僕がする事の確認です。僕がするのは、紫苑さんの観察と制御で、良いんですよね?」
「そうよ。後者はまあ、出来ればで構わないわ」
「分かりました。それじゃあ、観察って具体的に何をしたらいいんですか?」
「何をって言われても、そのままよ。あの子と同じ学校に通って、同じクラスで学園生活を送って、その間に、あの子の行動を観察して、分かった事とかを貴方なりに報告してくれればいいわ」
「そんなんでいいんですか?」
「ええ。だから、言ったじゃない。そのままだって」
考える。一緒に生活して、見て、感じた事を報告する。はっきりいって大したことでは無い。積極的に関われ、という事でも無いらしい。仲良くなれ、となると相手の有る事だ。でも、観察するくらいならまあ、問題は無いだろう。
「それなら、ふたつめは生活面の事です」
「生活面?」
「はい。僕は寮生活という物が良く分からないので」
嘘だ。寮生活自体をしたことが無いのは事実だ。しかし、本当の所知りたいのは条件面。つまり報酬として位置付けられている寮の部屋や、食事等に問題が無いかといった部分である。無いとは思うが、あてがわれた生活が奴隷の様でした、では話にならない。しかし、
「寮なんて普通よ、普通」
回答は何ら役に立たなかった。
「普通と言われても……」
そこで女性ははっとなり、
「あ、もしかしてアレ?変なとこに押し込まれるんじゃないかって思ってた?」
ばれた。
「そんな事しない……って言っても信じては貰えないわよね。良いわ。その辺の話は後で纏めておくわ。ただ、取り敢えず、変な所に押し込んだりはしないって事だけは保証するわ」
「はあ」
反応が鈍いのが気になったのか、
「あ、それじゃあ誰かに知らせてから」
そこまで言って気が付き、
「と、言うか、あれじゃない。親御さんに連絡しないと」
蓮はあわてて、
「あ、僕両親居ないんですよ」
女性は目をぱちぱちさせて、
「あら、そうなの?」
「ええ」
と、いうか、ぶっちゃけそれだから声を掛けた物だとばかり思っていた。身寄りが無いなら編入だってそこまで難しくない。しかし、両親が居るのならば、そちらも説得しなければいけない。その時にもまさか「女子校に編入するんですよ」と言うつもりだったのだろうか。
「そっかー……えっと、それじゃあ他の親戚に、」
「あ、それも居ないです」
沈黙。やがて女性が、
「えっと……なんかゴメンね」
「別に、良いですよ。事実ですから」
蓮はこの手の「気まずい空気」が嫌いだった。言った相手はしまったと思うらしいのが、当人としては全然気にしていなかった。両親が死んだのがかなり早かったからというのも関係しているのだろうか。
女性は首筋を掻きながら、
「えっと……それじゃあ、どうしようか」
「そうですね……あ」
「ど、どうしたの?誰か思いついた?」
「はい」
蓮はふと、思いつき、
「隣に住んでた旭っていう人なんですけど」
隣人の名前を上げる。
「あさひ……さん。その人とは仲良いの?」
蓮は頬を掻きながら、
「仲良いって言うか、暫くの間居候してました」
「そうなんだ……えっと、じゃあ、その人に知らせておけば大丈夫かな?」
「そう、ですね」
蓮は頷く。流石に生活面で頼る事は出来なかったが、旭本人は善意の塊のような人間だ。蓮が酷い目に遭っているかもしれないと分かれば、迷わず対抗手段を取る人だろう。
「よし。後、何か問題はある?」
蓮は少し考え、
「大丈夫だと、思います」
本当はまだ信じ切れた訳では無い。しかし、ここまで話した感じでは、今すぐ死ぬよりは良いだろうという事だけは分かった。だから、
「……三菱蓮です」
そう言って手を差し出す。最初はきょとんとしていた女性も意図を理解したのかその手を握り、
「鮎川雅。宜しくね」
握手を交わした。
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