捨て子少女のほのぼのライフ

ノベルバユーザー283545

少女に家族が出来る

  暗く、音もなく、でも暖かいそんな世界に私は存在していた。今まで眠っていた感覚から騒がしい周りの音に次第に意識が覚めてくる。目を開ようとすると、そこは眩しくて目を開けていられなくてすぐに目を閉じた。

  先程まで暖かい感覚から急に肌を刺すような冷たさで泣き声が出る。空気を一度にたくさん吸い込むと、冷たい感覚が身体の中を支配していく。

  寒くて痛くて叫び声は、泣き声になり響いている。誰かに触られる感覚から何かに包まれる感覚に変わる。目覚めたばかりなのに身体がひどく疲れてしまった私は再び眠りについてしまった。


  土の匂いに目が覚めると、木々に囲まれた所に、薄汚れた籠の中に綺麗とはいえない布に包まれ寝かされていた。木の葉に邪魔され日の光りは少ししか入ってこないので、薄暗い場所に少し冷たい空気と静けさが私の心を不安にさせていく。空腹と寒さに襲われ、私は気が付くと泣き声を上げていた。誰か助けてと叫ぶように。

  しばらく泣いていると何かが擦れる音が聞こえて誰かが近寄ってくる気配に、安心感と恐怖感が私を襲ってくる。

  私を見つけたそれは、私の元で立ち止まり私を見ているようだった。突然襲う浮遊感に驚いて泣き声を止めた。残念な事に私の目からは何が私を連れていこうとしているのか見えなかったけど、一定の間隔で揺れているのが心地よく、また眠りについてしまった。


  暖かい空気と優しい木の匂いに目が覚めると空腹感が襲いまた泣き声が出ていた。不意に顔に影が出来たと思ったら優しく抱き抱えられ目の前にガラスで出来た容器に白色の液体の入った物を口元に付けてきたので、私はそれを勢いよく吸い付くと、白色の液体が身体の中に入ってきて空腹感が少しずつ満たされていくのがわかった。

  中身が空になる頃には身体が満たされていた。身体の向きを縦抱きに変えられると、背中を優しく叩かれお腹に溜まっていた空気が出てきた。その後綺麗な肌着を着せられ木の柵がついたベッドに寝かされると綺麗な毛布を胸の辺りまでかけてくれた。私は満足感からそのまま眠りについた。


  下半身の違和感で私はまた目が覚めた。食事をすれば排泄をする。自然の事だけど不快感に泣き声がまた出る。足音が聞こえて毛布を優しくどかすと、下半身が綺麗にされて新しい布に包まれると不快感から解放された。

  この時初めて私は彼女を見た。尖った長い耳が印象的で薄い緑の眼、腰まで伸びた金色の髪を後ろで一つに纏めて縛っていた。彼女と目が合うと彼女は優しく微笑み私の頭を撫でてくれた。その心地良さから私はまた眠りについてしまう。


  しばらく飲む、出す、寝る、泣くの生活になれてきた頃に初めて彼女以外の声が聞こえてきた。それは少し歳を感じさせる男の人の声だった。

「しばらく留守にして悪かったな」

「大丈夫ですよ今回は一人ではありませんから」

「手紙に書いてあった子じゃな」

「えぇ今連れてきますね」

  彼女が私に近づいてくると優しく横抱きにされ「彼を見ても泣かないでね」と少し困った顔をして笑った。

「お待たせしましたこの子です」

「おぉ小さいの」

「赤ちゃんですからね当たり前ですよ」

  男の人はは中年くらいで黒髪に白髪の混じった長髪。目は茶色で耳は尖っても長くもなかった。男の人は私に「可愛いのう」とか「将来美人になる」とか言っているのを彼女は少し呆れ顔で見ていた。

「して、名前はつけたのか?」

「いえまだ付けていません。今は保護という形ですからね。それでどうします?このまま育てますか?それとも施設に送りますか?」

  彼女の声は少し不安で抱っこしている手に少し力が強くなるのを感じた。私も彼女の声に不安になり小さな手で彼女の服を握りしめた。

「ずいぶん気に入られているようだな」

「そうでしょうか?」

「そうだとも、そうじゃ養子として迎えるのも悪くはないのではないか?」

  男性は私を引き取ってくれるようだ。彼女も嬉しそうにしているが少し不安そうだった。

「よろしいのですか?貴方の名に傷がつくかもしれませんよ?」

「ワシの名などその子の前では関係ないじゃろ?それに遠慮して子を成すことを諦めたお前の為でもあるぞ」

  男性は今までの事を話し始めた。二人は夫婦だけど彼女はエルフで男の人は人間。子供が出来ない訳じゃないけど、男性は大賢者として地位があり彼女はエルフの中でも下の方で格差婚として周りから嫌がらせを受けていたらしい。

   子供を諦めたのは男性にもう一人奥さんがいるからだった。貴族のお嬢様を王命で側室として迎えている。人間との優秀な子供を作らなければならないと周りに言われて仕方なく婚姻。この国では一夫多妻制が認められているので反対も出来ず、一緒に住むことも出来ないため王都から離れたこの森に家を建て一人でひっそりと住んでいるのが彼女。

  男性と貴族のお嬢様の間に子供が出来た頃には頻繁に彼女に会いに来ることも出来なかったが、子供が10歳になり次の年には学園の宿舎に行くとの事で男性は彼女と過ごすために戻ってくる予定で、子供は双子で二人とも男の子だったので跡取りとかの問題は今の所はないそうだ。

「すまなかったな今まであまり一緒に居られなくて」
  
   男性は申し訳なさそうに彼女に頭を下げているが彼女は気にしていないように振る舞っている。

「私は平気ですが、本当に引き取ってよろしいのですか?」

「上から何か言われたら辞めるだけだからな気にするな」

  もう十分に役目は果たしたと男の人は言うので彼女は渋々納得していた。

「三人で一緒に居られるなら亡命でもなんでもするから安心しておけ」

  男の人は彼女を安心させるように側に来て寄り添うように肩を抱き私の顔を覗きこんだ。

「名前をつけてやらねばな」

「でしたら一つ考えてた名前があるのですが」

「なんという名だ?」

  彼女は私の目を見つめ私に語りかけるように名前を呼んだ。

「セレス。セレスと名付けたいと思います」

「セレスかいい名だ」

 セレスはセレスタイトという天青石が私の瞳の色に似ているからと彼女は嬉しそうに何度も私の名を呼んだ。

「セレス今日から私達がお父さんとお母さんですよ。これからよろしくね」

 彼女に 頭を撫でられ嬉しくなって手を上に上げて思わず「あーうー」と声を出した。男の人は返事が出来るのか天才だとまた彼女を呆れさせていた。

  産まれて捨てられ、拾われて優しいお父さんとお母さんが今日出来た。名前も付けてもらえて、こんな日が続いていけばいいなと思いながら二人の様子を眺めていた。

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