ZENAK-ゼナック-
11.意外な訪問客
◇ ◇ ◇
__バルムダール/アルタン王国/南の街サウム/ヴァンの家__
「ついに…ついにできちまった! 完成したぞ!」
「うん。ちゃんと動くし、大丈夫そうですね」
「こりゃ高く売れる! これで億万長者だああ!」
「おじさん、あの約束…覚えてますよね?」
「あぁもちろんだ! まったく、何者なんだお前さんはよぅ!ったく!」
俺とグランじいさんは、完成したモノを目の前にして歓喜していた。
「ところでよ、コイツの名前は何ていうんだ?」
「んーそうだなぁ…」
俺は少し考え、
「【テルバイク】なんてどうかな?」
「テルバイクか…良いねぇ! なぁ兄ちゃん、早速コイツを走らせたくてウズウズしてるんだがよ?」
「えぇ良いですよ。たくさん宣伝してきてくださいね?」
「おう! ちょっくらその辺行ってくるわ!」
そう言って、おじさんはテルバイクに跨がり、颯爽と外に出る。
「きゃっ! な、何ですか?いまの…」
すごいスピードで飛び出して行くおじさんに、リーナが驚きの声をあげる。
「自転車ですよ」
「ジテン…シャ?」
……
神父の一件の後、ヴァンとおじさんにお礼も兼ねて、俺はある設計図を用意した。
それを見たおじさんは、目の色を変えたと思えば、すぐに作業場へと行き必要な材料をかき集め、一心不乱に金槌を振り始めた。
俺はおじさんが元鍛冶職人だと聞いたときから既に、おじさんにお願いしようと決めていたんだけど…。
ちょうど良いから、お礼ということにしておこう。
テルナールがある程度普及した今、次は何でポイントを稼ごうか考えていたとき、この世界では馬車でしか移動手段がないことをリーナから教えてもらった。
俺はそれを変えてやろうと思う。
「先ほどグランさんが乗っていたのが、ジテンシャという物ですか?」
「うん、ちょうどさっき完成してね。人力で時速30キロ、もっと軽量化できれば40キロ以上は出る人類最速の乗り物ですよ」
ここまで形にするのに丸々一ヶ月かけ、ようやく公道を走れるぐらいにすることができたのだ。
「よ、40キロ…ですか」
いまいちピンと来ないのか、リーナは首をかしげる。
「グランさんが戻ってきたら、リーナさんも乗ってみますか?」
「わ、私は…ちょっと怖いので遠慮しておきます…」
「なるほど…では3輪の自転車も需要がありそうですね…。荷物も運搬できるし…」
ブツブツとつぶやく俺をリーナは不思議そうに見る。
「あ、いや! こっちの話です」
「は、はぁ…」
リーナは「食事の準備ができましたよ」と教えてくれ、俺は一旦作業をやめることにした。
……
◇ ◇ ◇
リーナと共に作業場から家に戻ると、ヴァンが誰かと話している声が聞こえてくる。
「誰か来ているのでしょうか?」
「さぁ…?」
俺には心当たりがなかったので首をかしげてリーナに返答する。
「あ、照の兄ちゃん! この人が兄ちゃんに用があるみたいなんだけどさー」
ドアの向こうには自分より少し背の高い男が立っており、きらびやかな鎧を身に纏い、腰には長めの剣を下げている。
胸のあたりに刻まれた紋章は、どこの街でも良く見かける――アルタン王国の紋章だろう。
男は羽のついた兜を被っている為、頭の上のポイントは見えない…か。
あの神父との一件から、街を歩くにしてもやたらと人の頭の上を気にするようになった。
かくゆう俺も、家にいる時意外は何かしら帽子を被り、隠すようにしている。
「初めまして。あなたが天笠照さん…ですか?」
「…はい。そうですけど、あなたは?」
爽やかな顔で挨拶をされ、俺は多少警戒しながらもなるべく不自然じゃないように名前を尋ねる。
「私はアルタン王に仕える直属の聖騎士、アルフレッド・クロムと申します。突然お伺いして申し訳ない」
そう言ってクロムは頭を下げる。
「王直属の…。照様、私たちの知らないところで何かされたのですか?」
焦るリーナに、俺はまた「さぁ」と首をかしげる。
「何もいきなり捕らえようという訳ではありませんのでご安心ください。今回伺ったのはのは…ここではなんですから、ちょっとよろしいですか?」
そう言ってクロムは俺を家の外に招く仕草をする。
「照様…」
「大丈夫。リーナさん達は家で待っていてください」
不安そうにするリーナにそう伝え、俺は招かれた方へ向かう。
……
「さて照くん。さっきの自転車は君が作ったんだよね?」
リーナ達の耳に入らないと分かった途端、クロムは口調を変え俺に尋ねる。
「ええ。まだ試作段階ですが」
一目みてあれが自転車だと分かるってことは、コイツも転生者か…。
俺は警戒しながらもあえて普通に返すことにした。
「この世界は不便だよね。馬車は揺れるし、トイレも水洗じゃないし」
クロムはまるで以前から友達だったかのように、軽い感じで転生者にしか分からない話題を話し始める。
「…ええ、そうですね」
「君もそう思うだろ? ところで自転車が完成した暁には、僕にも一台わけて欲しいんだけど」
つらつらと話すクロムに適当に相づちを打ちながら、俺は考える。
転生者はお互い敵対していると思っているのは俺だけだったのか?
俺にはクロムの意図が分からなかった。
ただ直感だが、俺を騙そうとしている感じではない。
「用っていうのは自転車のことですか?」
俺はクロムの意図を探るためにも、本題の方へ話題を変える。
「以前から君のことは興味があってね。【テルナール】のことも知っているよ」
「用がないって言うなら、俺は――」
「まぁそう慌てるなよ。僕を信用できないというのであれば…君に奥の手を教えても良い」
奥の手? スキルのことか?
「別に信用してないわけでは…」
「僕はただ、君と話がしたいだけなんだよ」
本心なのか、クロムは身振りで自分には害がないことをアピールする。
「…話って?」
「うん。裏の大陸に現れた――魔王のことさ」
◇ ◇ ◇
__バルムダール/アルタン王国/王都/王立庭園__
「明日、王都で待っているよ」
昨日、クロムはそう言い残してスラムを去っていった。
――魔王。
俺はバルムダールに転生したときに貰ったパンフレットに書いてあったことを思い出す。
特別事項
1
2
3、転生者は魔王を討伐した報酬として、200万徳ポイントとスペシャル特典を帰還時に手に入れることがきます。
…この世界に魔王が存在していることは知っていた。
そして、魔王を倒すことが唯一、ポイントと記憶を維持したままバーヌムに帰還できる方法であることも。
ただ、今の俺は善行でポイントを貯めている段階であって、魔王討伐どころか、街のゴロツキですら相手にできないほどステータスは貧弱だ。
そもそも魔王がどこに居て、どんな姿をしているかも分からない。そんな俺に魔王討伐の話が来るとは思えなかった。
クロムは俺の意思で決めてくれて構わない、と言っていたが…。
「聞くだけ聞いても損はしないよな」
俺は自転車を適当な茂みに止め、待ち合わせに指定された場所へと向かった。
……
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