ZENAK-ゼナック-
7.古代の遺物
……
「おやじー! 帰ったぞー!」
「んんー? ちっ、デキの悪い息子が帰ってきやがってんだ…ったく」
「初めまして私はメイ・リーナと申します。こちらは照さまです。私たちは旅の途中でこの街に来たのですが、もし良ければ一晩泊めさせていただけないでしょうか…?」
「んん? んんーーーー?? おい!こんなべっぴんさん、おめぇどこから連れてきやがった!」
「橋のところだよ、親父。何か困ってるみたいだしさ、一晩くらい別にいいだろ?」
「いいも何もない! いいに決まってるだろ!このバカ息子!…ったく」
…とまぁ、成り行きでこういうことになったんだが…。
かいつまんで説明すると、橋の下で財布の次はパンを盗もうとした少年の名前は、ヴァンと言う名前らしく、
ヴァンはパンを3つとスープを2杯も要求した結果、満足したのか、リーナにお礼がしたいと申し出てきたのだ。
…俺が買ったパンなんだが、まぁ良いとしよう。
リーナは俺たちが旅でこの街に来たこと、着いたは良いが資金が底をつき、食料以外の物が無くなってしまったと事情を説明する。
さすがに初対面の子どもに全てを話すわけにはいかないだろうと判断した、リーナなりの配慮の仕方で。
すると少年は、話しを聞くなり着いて来いと、俺たちを家まで案内してくれたって経緯だ。
「ところで、そこの兄ちゃんはさっきから何でなにも喋らねんだ?」
「それがなんかの病気らしーぜ?」
俺が声が出せないことについては、リーナが病気のせいであるとヴァンには説明していた。
「…気の毒なこったな。おいヴァン! この美人さんにお前のベッドを貸してやれ!文句なら一人前になってから聞いてやる!」
「えー? …ちっ、まぁいいけどよー? ほら姉ちゃん、こっち案内してやるよ」
「口の利き方には気をつけろ!ヴァン! リーナさんだ!…ったく」
「へいへーい。リーナさんこちらですよー」
「ふふっ。私はお姉ちゃんでも構いませんよ?」
…確かに、端からみると優しい姉と照れ隠しに強がる弟って感じだな。
「…それでよう兄ちゃんは…あれか?」
ヴァンとリーナが部屋の奥に行くと、ヴァンの父親が俺に話しかける
「……?」
「これ…イケる口かい?」
酒瓶をゆらゆらと揺らしながら言うおじさんに、俺は笑みで返答した。
◇ ◇ ◇
__バルムダール/アルタン王国/南の街サウム/ヴァンの家__
「ほんっ――っとに! 兄ちゃんの魔法にはビックリだ!」
「だろだろ?! 何でこんなこと出来るんだろうな!すげーよ!」
「ほんとですー。私もこんな力があれば、もっと多くの人を救えることができるのに…」
パンや肉、魚だけでなく、料理済みのチャーハンや焼きトウモロコシまでぽんぽんと空から降ってくる光景に、3人がそれぞれ歓声をあげる。
「んん!? こりゃなんだ!?」
それはコンビーフです
と紙に書いて見せる。
「つまみには持ってこいだなこりゃ!」
あぁ…せっかく貯めたポイントがどんどんと減っていく…。
まぁこの喜びようを見てると、これが善意として受け止めてもらえたのは一目瞭然だし、その分ポイントが増える時もあった。
というかこれ、永久機関じゃね??
「がはは! こんな豪勢なメシ、滅多に食えねえぞ!どんどん食え!なぁヴァン!」
「…んん! もがもが…んぐ! ごほっ!」
「あらあら、もっとゆっくり食べないと…」
喉につまらせたヴァンの背中を優しくさすってあげるリーナ。
そんな騒がしい食事風景を見ながら、先ほどヴァンとおじさんが話してくれたことを思い出す。
……
それは2人の過去の話だった。
ヴァンは5歳まで東の街で親子3人で暮らしていた。
父であるグランと母は、有名な鍛治職人として腕をふるっていた。が、ある日、原因不明の事故で母は他界してしまう。
母が死んだショックで仕事に身が入らなくなったグラン――おじさんは、次第に酒に溺れるようになる。
ヴァンが5歳になり、おじさんは友人の紹介で南の街に移住し、新しい仕事を始めたがそれも長続きはしなかった。
そんな環境で育ったこともあり、ヴァンが物心つくころには東の街に出稼ぎに行っていたんだと。
その出稼ぎっていうのがただの盗みだっていうのは、おじさんは知らないようだった。
おじさんは今は、金が無くなれば遺跡の発掘員として仕事をし、酒を飲む毎日だと言う…。
「遺跡の発掘員はとても重労働で大変なお仕事だと聞きます…」
時折咳き込むおじさんを見て、リーナが心配そうな目でそう話す。
「どうってことねぇ。ただの死にたがりの俺にとっちゃ仕事なんて何でもいいのさ…ごほっ!げほっ!」
俺はおじさんに、遺跡ではどんなものが発掘されるのか尋ねる。
「あぁ俺にはよく分からんが、オーパーツって呼ぶみたいでな。大抵デカい奴は調査隊が持っていっちまうからなぁ…」
そう言っておじさんは席を立つと、古びた戸棚の方へ向かい、引き出しを開ける。
「こういう小せぇやつなんかは、どうせ捨てるか市場で売るくらいしか価値がねぇから、たまにクスねてくるんだけどよ…ほらよ!」
おじさんが俺に何かを投げる。
「…? 何かの部品でしょうか?」
それは黒い土が付着していたが、8センチくらいの筒状の物体で、片方の先端には突起物がついていた。
これは――まさか…
俺はすぐにおじさんの元に行き、引き出しの中を見せて欲しいと手振りで要求する。
「んん? 遺物がそんなに気に入ったのか? どうせ捨てるんだ。欲しいなら持って行ってもいいぞ?」
俺は最後まで聞き終わることなく、引き出しの中を漁り始める。
「…って聞いちゃいねぇか…ったく」
古代の遺物…か。
確かに何も知識がない人にとっては、役に立たないガラクタか、興味のある人にとっては格好の研究対象になるはずだ。
なにせ俺が見たものは全て、生きていた頃によく目にしていた――電化製品だったからだ。
ラジオや電気ポット、テレビのリモコンやデジタルカメラ…そしておじさんが俺に渡したもの――乾電池なんかが引き出しには大量に入っていた。
この世界にはまだ機械はおろか、電気の発明がされていないのは転生してすぐに知っていた。
なのに何故、古代の遺物と呼ばれ、この世界に存在するのか。
この世界にはまだ知らない隠された秘密があるのかもしれない…。
そんな事を考えながら電化製品の山を漁っていると、俺はある物を見つける。
…これはひょっとしたら、使えるかもしれない。
俺は一人笑みを浮かべながら、奴に仕返しする方法を考えていた。
……
◇ ◇ ◇
ヴァンの家に厄介になってから、3日が過ぎた。
最初は一晩だけのつもりだったが、俺はあることをするため時間が欲しかったので、おじさんに頼んでもう暫く居させて欲しいとお願いすると…
「がはは!そんなこたぁ気にするな! ただしメシだけはお前達で用意するんだな!…ったく」
と、快くOKしてくれたのだった。
ヴァンは自分のベッドが使えなくて少々不満があるようだったが、リーナが「あらあら、じゃあ私と一緒に寝ますか?」と尋ねると、顔を真っ赤にして「うるせー!好きにしろっ!」とまんざら嫌なわけではなさそうだった。
今、ヴァンとリーナは買い物に出かけている。
なるべくスラムから離れないよう2人には念を押しておいたので、追っ手に捕まる心配はないだろう。
くそっ…これでも動かないのか…!
その間俺は――コレを修理するために格闘していた。
専門的な知識は分からないが、現世にいた頃はよくおもちゃを分解して中を見るのが好きだったし、簡単なパソコンの修理なんかもできる程だったのだが…。
基盤はどうやら綺麗に残っているみたいだが、導線部分がところどころ切れているせいで使い物にならないのだろう。
俺はカタログから工具を購入し、導線の切れた部分を繋げ、絶縁テープで補強する。
それでも動かないということは、基盤との繋ぎ部分が剥がれている可能性がある。
しかしそれを再び接着するには、半田ごてが必要になるのだが…。
カタログにはあるはあるが、なにせ電気が使えないとなると意味がない。
さてどうするか…。
「ちっ、もう酒が切れちまったよ…ったく」
ふと昼間から酒を飲んで机につっぷしているおじさんを見る。
たしかおじさんは、元鍛冶職人だったって前に言ってたな…。
俺はおじさんの元に行き、細い棒を高熱にして長時間保てる方法は無いか尋ねてみた。
「んん? あぁそれなら、炉が必要になるなぁ…ひっく」
おじさんの話によると、かなり前から使っていない炉が作業場にあるらしい。
……
俺は作業場に行き、使えそうな物がないか探してみると――
ある、ある、ある…。
俺は瞬時に可能性を見いだし、必要な物を揃え始めた。
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