Aprikosen Hamlet ―武蔵野人狼事変―

スライダーの会@μ'sic Forever

第3回「政府の数・門司式」

キミとつながる?ラノベADV
『Planet Blue geographia』
メシア暦2016年3月15日(火曜日)



 あの日々から数年後、天下の情勢は著しく変動した。数多の英雄達が現れては、滅び去った。消費増税を延期せざるを得ないほどの垂直落下式世界大恐慌(原因は忘れた)により財政破綻した三鷹公国は、隣接する武蔵野共和国への侵略を開始、世に言う「武蔵野戦争」が勃発した。瞬く間に国土の大半を三鷹軍に占領された武蔵野政府は、東京同盟に救援を求めた。しかし同盟は、豊島台池袋などを支配するアフィリランド王国の反乱に苦しめられていた。この頃、諸事情(詳細は忘れた)により同盟軍化物係バケモノガカリに任命されてしまった私は、落合隊長・橘立花と共に、栃木人民共和国との交渉に向かっていた…戦闘機で。

「本当に宇都宮の連中は味方になってくれるでしょうか?」

「そんな事より『バトルフロント(仮)』の新しいイベント、もうやった?」

「僕はまだだけど、やった奴はみんな『運営マジで死ねばいいのに』って言ってたよ」

「ゲームなんかやってる暇があったら、任務に集中しろ」

「それより『ボーイズ&タンカァー』の最新刊買った?」

「愚者めが…戦争は武道でもスポーツでもないと、何度言ったら分かるんだ?」

「そんなんだから、猫司令官は恋ができないんだよ…」

「黙れ。天候悪化により視界不明瞭。やむを得ん、陸路で戦場ヶ原溶岩を突破する!」

「ちょ…ちょっと待ってよ司令官! 戦闘機で凍結した道路を走るのって、ダンジョンに出会いを求めるのよりも間違っていると思うんだけど!」



  第3回「政府の数・門司式」



 19世紀後葉、明治維新・戊辰戦争によって、江戸幕府は滅び、七百年間に及ぶ「武士の世」は終わった。250~300地域の藩が割拠し、更に維新軍(討幕派)と幕府軍(佐幕派)とに分断されていた日本列島は、朝廷を戴く新政府によって統一された。西南戦争などの士族反乱も次々と撃破される中で、新しき時代から取り残された武士達は、やがて歴史の陰影へと消え去った。そして、それから百五十年の歳月が過ぎた。

 数多の戦争・災害と、先般の「武蔵野事変」による混乱を乗り越えた現代日本は、長期安定政権の統治下、オリンピックに象徴される好景気によって、来たるべき新元号の時代を夢想しながら、一時の平和と繁栄を謳歌し、国際的にも、東方アジアの緊張緩和が模索されていた。だがしかし、数十年来の積弊である膨大な借金と、社会保障・教育無料化・五輪開発などの巨額歳出、そして赤字国債の際限なき濫発は、国家予算を未曾有に圧迫し、遂に財政破綻・大恐慌の悪夢を現出した。日本政府の国際的信用が失墜する中で、東京・武蔵野・三鷹・栃木・伊豆・沼津など関東・東海地方の諸都市は、軍産複合国家アフィリランドの支援を背景に、自由都市としての独立性を強め、事実上の小国家群を形成しつつあった。かくして、我が国は再び分裂の危機と、再統合への挑戦、その岐路に立たされる事となった。

 一方、数年前の大震災から復興しつつあった東北地方では、ヒトの姿でありながら人肉を捕食する、「食人種」と呼ばれる人喰い族の出没が、相次いで目撃されていた。この情報を把握した、一部の都市国家や軍需産業は、食人種の生態を研究し、生物兵器として軍事利用する計画を進めていた。その結果、人間をゾンビ化させるウイルスが開発され、それはやがて、「第二次武蔵野戦争」と呼ばれる武力衝突を引き起こす事になる。正体不明の未知なる侵略者に対し、都市同盟軍は決死の迎撃を試みるが、食人種ウイルスがパンデミックし、流言蜚語が錯綜する混沌の中で、各地域の住民同士が、互いを「ゾンビ感染者」ではないかと疑心暗鬼し、魔女狩りのように拷問・処刑するという、凄惨な「リアル人狼ゲーム事件」が頻発する。

 こうした中、私自身も教会騎士団の一員として、要塞化された東京湾に面し、羽田国際空港を擁する大森・蒲田の軍管区で、戦闘に参陣する事となった。そして、緒戦から最終決戦へと至る中で、比類なき活躍を魅せた謎の義勇軍、通称「アプリコーゼン中隊」の存在を知るに至った。元号が変わりつつある今、生き残った私は、この英雄達の言行録を軸として、武蔵野戦争の軍記編纂に参画し、記憶継承に携わり続けようと決心した。私達は何を得て、何を喪失し、なぜ戦わなければならなかったのかを解き明かし、それこそが、今となっては遠き日に旅立った戦友に対する、最大限の祝辞と成り得る事を祈って…。



【スライダーの会】
Planet Blue geographia
Aprikosen Hamlet
―アンズと呼ばれた村の悲劇―

「現代アクション」の人気作品

コメント

コメントを書く