Lost Film

いのまん。

Film№11 怠惰の心とケアレス・ミス



ギリギリのところで学校に間に合った俺らはそれぞれのクラスで授業を受ける。

放課後、俺らは集合してまた美來さんの家へ訪れる。
だが、今回は美來さんではなく、過に逢いに行くのだ。




「ピンポーン!こんにちはー!」

こいつはいつも、人の家を訪ねるのにチャイムは押さない。
というのは、自分の口で言った方が早いと思っていて、そしてその声のデカさを自負しているというのだ。

(まぁ、何も言わずに入るよりは100倍マシだが…)

しかし、だからといって押さないのもやはり、おかしい。

「ばかか、お前は。口で言うならちゃんと押せよ。」

そう言って俺は彼女の代わりに過の家のチャイムを鳴らす。
だが、彼女はチャイムが成り終わるのを待たずにそのまま扉に手をかけようとする。

「お邪魔しまー…」
「いや!まてまてフォルティーナ!過はまだ俺たちを知らないんだから勝手に入ったら、不審者扱いで警察送りだぞ?俺ら。」

「えー!サツはもうやだよ〜。怖いし、あのおっさんたち。」

「サツって言い方はもう既に犯罪者だな…」

彼女は一度とは言わず、何度も彼らにお世話になっている。
以前にも、彼女が猫を追いかけて迷子になるならまだしも、そのまま人の家の敷地内へ侵入、数々の物品をを壊し、挙句の果てに猫が入っていった狭い路地に追いかけようとして自分も身をはめて救急隊出動ということがあった。
彼女のエキセントリックな行動が法を犯すのは、普段からしているこういう行為の延長だろう。
そこのボーダーだけは早くわかって欲しいのだが…

そんなことをしているうちに、俺らが玄関前でドタバタしていることを家の中の誰かが察知したらしく、階段を降りてくる音が聞こえた。
そして玄関の扉を開けたのは、過だった。

「あ。こんにちは。」

「え、あ、あの、どちら様ですか?」

俺は過と目が合う。
すると、過は察したようにこう言った。

「あー、姉のお知り合いでしたか。姉はまだ帰ってませんが…どうぞ、上がってください。」

そういえば彼は既に第三者経験掌握パスト・グラスプを姉から享受している。
だから俺たちがここに来るまでの経緯は今、俺と目が合った時に把握されたのだった。

だが、俺はそこまで重い話をする気は無い。
ただ、美來さんがパンドラの箱を異様に怖がっているので、それを過に預けたのは誰かと、問うだけでよかったのだ。

「いえ、ひとつ聞きたいことがあってきただけなんです。あなたが先日、箱のようなものを貰ってきたと美來さんは言いましたが、それは一体誰から貰ったものですか?」

「あー。姉がパンドラの箱だーって騒いでいたアレですか。あれはえーと…確か姉と同じ高校の生徒から貰ったと思います。パーカーの下に着ていた制服が同じだったので。」

(なんだ、同じ高校の生徒からじゃないか。)

「それは姉に預けて欲しいと頼まれたのですか?」

「いえ、特には。でも、何故かフードをしていて顔は見えなかったですけどね。」

「いや、充分です。でも、フードを被った人から箱なんてよく受け取りましたね。」

(さすがに怪しいだろ。)

「えぇ、まぁ。でも、何だかこの人は安心できるって言う感じだったんですよ。なんかいつも一緒に居るみたいに違和感のない人で…」

「…そうですか。ありがとうございました。」

「あ、はい。それだけですか?」

「はい。これで全ては解決です。」

「……?」

「もし気になることがあればこの住所に来てください。俺たちの事務所です。」

と、俺はポケットからサッと名刺を取り出して過に手渡す。
そして、俺らは彼に別れを告げて足早に事務所へと戻った。




五日後…
美來さんは失踪した。
俺らはどこかで何か、大事なものを見落としたのだろうか。

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