自害阻止スキルと自然治癒スキルを与えられた少年は、異世界転生からリタイヤ出来ない!
◆密戦
学園の端に生える林の奥には小規模な森林がある。
だが、そんな森林の木々を次々と薙ぎ倒しながら、そこでは激しい戦闘が繰り広げられていた。
「ッ!!」
神宿は全身にアーチャーウィンドを纏いながら、後方に向けて魔法を放つ。
だが、
「ダーカー」
もう一人の転生の勇者、シグサカは背後に慕わせた黒い影に向けて問い掛けると同時に、神宿の魔法は着弾する間もなく、その黒き鉤爪によって消失させられた。
その存在は女神から授けられたスキル『ダークネスカーズ』
そして、その能力は、
(確か、生命力や魔力、その他の力を奪い取るって前に言ってたな……ッ)
聞くだけに対人戦闘でさえ困難な敵とも思える。
だが、それ以前にも、神宿の師匠でもあるアーチェの暴走、その時出現した戦乙女ワルキューレの力を一時的に無力化させるほどの力を持っていた。
神にでさえ退けを取らないその能力。
その事を踏まえ、神宿が逃げながら対策を練る。
対等は望めない。
それなら、
「ウォーター《ダブルボム》」
神宿はシグサカ、ではない。
その彼の足元目掛けて爆発の魔法を放つ。
そして、地面に着弾した直後、その場一帯に水蒸気の霧が四散する。
だが、その中で、
「ウィンド《ダブルホーミング》」
神宿は追尾型魔法のニ矢、別々の方向に向けて放つ。
それらはどれも的外れな方角へと突き進んでいる。
しかし、そのどちらにも既にシグサカに向けたロックオンが施され、その命令に従って矢は不規則な動きで狙いに向けて突き進む。
霧によって視界を塞がれたシグサカ。
その前方と後方から、奇襲を掛けるように、
(これなら、ッ)
だがしかし、
「……ダーカーを、甘くみ過ぎてるよ」
シグサカの言葉と同時に、ダークネスカーズは高らかな奇声をあげた。
そして、その全身を丸めたと直後、
「全てを貫け、ダーカー」
黒い影の身体から突如生え始めた黒き棘、それらは外側に向けて、針鼠を連想するかのようにその場一帯にあるものを貫いたのである。
そこにある地面や水蒸気や木々。
前方と後方から向かってきた魔法でさえもだ。
ーーーーそして、
「……ッ」
後数センチという距離で、黒い棘は尻餅をついたような体勢で倒れた神宿の喉元を貫くのを止めた。
それはまるで、いつでも殺せた、と言っているかのようだった。
「さぁ、ここら辺で終わりにしようか」
シグサカはダークネスカーズを従わせながら、ゆっくりと歩む。
その一方で、喉元に向けられた棘のせいで一歩も動けない神宿。
そして、神宿を見下ろすようにシグサカが後一歩という距離まで近づき、
「ダーカー、やれ」
シグサカは無惨にも、ダークネスカーズに命令を下した。
◆
森林から聞こえた戦闘音。
それに釣られたように、兵士たちが集まってくる。
だが、そこには、
「誰もいない、どうなっているんだ!」
周辺に残された戦いの跡のみが存在し、その他にあるはずの二人の姿は見つけられなかった。
兵士の中でもリーダー格の男は声を上げながら、
「探せ! まだこの森の中にいるかもしれん!!」
捜索の命令を下す。
男に言われ、ついてきた兵士たちも血眼になって捜索を続行する。
だが、その場にいた誰もが見つける事が出来なかった。
そう。
兵士たちが必死になって捜索する。その直ぐ側で座り込む、神宿とシグサカの姿を。
「上手くいったようだね」
「…………」
にこやかに笑うシグサカ。
その一方で不機嫌な神宿。
このような状況を作ったのは、シグサカのスキル、ダークネスカーズの力によるものだった。
あの時、シグサカが命令したソレは『幻想を作れ』というものだった。
幻惑といえば簡単だろう。
だが、その命令に従いダークネスカーズが作り出したソレは、そこにあったはずの何もない空間だった。
例え、そこに触れたとしても、誰も気づけない偽の空間を作り出したのだ。
しかし、その能力を聞いたとしても、
「どういうつもりだ」
シグサカが何故、このような手の込んだ事をしたのか。
それが神宿にはわからなかった。
だから未だ警戒も解けずにいた。
「いや、本当なら直ぐにでも君と話したかったんだけど、僕自身も彼に疑われている身だったからね」
「?」
 
彼という言葉に首を傾げる神宿。
だが、シグサカはその名を答える事わせず、
「……後、色々思うところあるのはこちらとしても重々わかってるつもりだよ。でも、今回だけは、僕たちは君に頼らなければいけない状況でもあるんだ」
シグサカは、神宿に向けてある人からの受けた指令を、
「状況って、何言って」
「これは聖女ミーティナからの指令だと言ったら、聞いてくれるかな?」
「ッ!?」
神宿 透。
その個人に向けた、言伝をシグサカは神宿に伝えた。
「聖女ミーティナから君に協力要請が出ている。『偽の聖女ミカナ奪還に協力してください』とね」
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