自害阻止スキルと自然治癒スキルを与えられた少年は、異世界転生からリタイヤ出来ない!

goro

◆偽りの宣言



魔族。
その名は、この世界において人類の敵とも言える存在の名だ。
モンスターとは違った、人に近い知識を持ち、また人やモンスターよりも強い魔力を持つーーーーそんな存在と神宿は今、邂逅を果たしていた。







砂煙が次第に落ち着く中、神宿たちの目の前で聖女ミカナの側近だったはずのシンバがその姿を変え、魔族としての肉体を取り戻しつつある。
そして、その肉体から漂う驚異的な魔力に対し、神宿は頬に汗を伝わせながらもミカナを背後に移動させ、


「いいか、絶対に俺の後ろから離れるなよ」


神宿が現時点で持つ最大の攻撃体勢。
アーチャーウィンドを展開させながら、神宿は矢を構え、目の前にいるシンバに対して言葉を投げ掛ける。

「……どうして魔族が偽の聖女なんてものを作ろうとしてやがる?」

本来なら聖女とは魔族にとって天敵とも言える存在であり、魔を討ち払う者と皆から崇められる。それほどの神聖な存在として認識されているモノのはずだった。

だが、それなのに、そんな天敵であるはずの存在を魔族が自分たちで作ろうとしている。

神宿にはそれが全く理解ができなかった。だからこそ、その真意を確かめなければならないと神宿は思ったのだ。

だがしかし、完全に魔族の姿へと変貌したシンバは剥き出しになった獣の見せ、言葉を発す。

「ハッ、キサマらニンゲン風情に、この我が話すわけがないだろ?」
「……」
「だが、それよりも」

シンバにとって、そんな問い掛けなぞどうでもよかった。
何故なら、彼にはどうしても確かめなければならないモノがそこにはあったからだ。

それは、現状においてもなお神宿の周囲を移動して展開し続ける一つの魔法陣。
その陣から漏れ出る、その力は魔族がもっとも天敵として目をつける存在の力だったからだ。
それは、女神が持つ神の魔力。
そして、それを与えられる者は……、



「キサマ…………まさか本当に勇者なのか?」



シンバの言葉に対し、神宿の後ろにいたミカナが驚いた表情を見せる。
だが、対する神宿は顔色を一つ変えることなく、

「…………それこそ、俺が答えるとでも思ってるのか?」

そう言ってシンバを嘲笑う手前、神宿は密かにセットした矢に特性を備え付けていた。

風の音が聞こえる風の矢。それにつけ足したのは、ホーミングとボムの特性だ。
そして、シンバが一歩でもその場を動いた瞬間、神宿はその矢を放つ、そのつもりだった。
ーーーーそう。


「……そうか、なら」


視界の中で、シンバが動いた、その瞬間を狙う。
ーーーーはずだったのだ。




「そのまま口を開かずに死ね」




次の瞬間。
シンバの姿が忽然と消えた、その直後。
至近距離の右耳からその声が聞こえてきた。
そして、神宿の視界が追いつくよりも早く、シンバの鋭く伸びた爪がそのほっそりとした喉元を貫こうとした。
だが、その刹那に、

「「ッ!?」」

神宿の意思とは関係なく防壁の魔法陣が動き、その攻撃を弾く。
そして、再びその円陣たる形を変え、大鎌となったその刃でシンバを切り裂こうとした。

「チッ!!」

だが、シンバは後ろに飛び退き、その攻撃を回避する。
そして、再び神宿たちから距離を取った。


(ッ……見えなかった)


神宿は今の短い死闘の中、その光景に愕然としていた。
何故なら、今この瞬間にも警戒を怠ったつもりはなかったからだ。
そして、十分視界にもシンバの姿を捉えていた。
万全の構えだった。ーーーーそのはずだった。
だが、

(クソッ、速すぎて見えないんじゃ攻撃の当てようがねぇ。それに、次の攻撃を完璧に防げる保証もないのに)

神宿の持つ間合いを掻い潜り、シンバは再び攻撃を仕掛けてくるだろう。
そして、一回目は変質した自害阻止スキルによって急死の一生を得れたが、その次がまた成功するとは限らない。

この一時の判断ミスで、今度こそ神宿の頭と胴体がまっ二つに切り飛ばされてしまうかもしれない。

(どうするッ? このままじゃ)

焦りと戸惑い、それらを混ぜ合わせたような瞳で神宿はシンバを睨みつける。
だが、そこで、

「トオル様……」

不安を思い入り混ぜた、ミカナの声が聞こえてきた。
……危機的状況が脱っせていないのだ。それは仕方がないことだった。
だが、神宿はその声に対して、歯を噛み締め己の力不足に苛立つ。
師匠のように自分がもっと強ければ……彼女にそんな声を出させずにすんだ、とそう思ったからだ。
……だから神宿は、

(……ああ、そうだよな。今はアイツを倒す事なんかより、先に)

一度、シンバを倒そうとした考えを捨て、今は何としても後ろにいるミカナを守る事を思考の中、一番の優先にさせた。

「(ミカナ、一旦下がるぞ)」
「え……」

そして、神宿は自身の足元に向けて弓を構え、新たに特性を上書きさせた矢を放つ。


「ダブルボム!!」


次の瞬間。
神宿たちの足場に大きな爆発が起き、またその場一帯には大きな砂煙が巻き上がり、それは上空まで登り詰めていく。
そして、その隙をつき、

「走るぞ!」

神宿はミカナの手を掴み、その場から走り出す。

砂煙の向こう側では微かに、シンバの声が聞こえるが、まだ油断はできない。
またいつ瞬時に接近するかもわからないからだ。
だが、それでも、

(これだけ騒げば、きっと)

ダブルボムの爆発音に気づき、学園内の警備隊たちがこの場に駆けつけて来てくれるかもしれない。
そして、

(その隙に何とかミカナだけでも逃して、師匠に)

魔族との戦闘経験のある賢者アーチェに助けを借りよう。
そう、神宿は考えていた。
ーーーーしかし、その時だった。



「どこへ行くつもりだ?」



今度は真横ではない。
上空からその声が放たれる。そして、それに繋がるようにして、

「ッ!?」

直後。
レーザーにも似た閃光が上空から神宿に向かっては放たれた。
しかし、それらの攻撃は全て防壁の魔法陣によって防がれてしまう。
だが、

「きゃあああーーっ!?」
「っ!?」

その一瞬の隙をつき、上空から地面へ急接近したシンバはその長く生えた尻尾を伸ばし、ミカサを拐う。
そして、砂煙に視界が悪い中で神宿が直ぐ様矢を構え、その声の方へ攻撃を放とうとした。
だが、

「動くな」
「!?」

次の瞬間。
神宿が見たそこには、シンバによって前に盾にされるミカナの姿がそこにはあったのだ。

「っ!!」
「一歩でも動いてみろ。その瞬間、この女の命は消えると思え」

その言葉に神宿は、その場に立ち尽くすことしかできず、歯を噛み締めながら手を握り締める。
だが、そこで。
神宿はある異変に気づいた。

「……ミカナ?」

さっきまで悲鳴を上げていたはずの彼女が今は何も発さず静かに拘束されている。
最初は気を失ったのかと、そう神宿は思った。
だが、



「……フッ、なるほど。キサマの側から離れれば、呪いは元に戻るのか」



ミカナの容姿を見つめていたシンバがそう言葉を口にしたのだ。
その瞬間、神宿は動揺した様子で彼女に視線を向けるが、そこには、

「…………」

心が灯らない虚な瞳をした聖女ミカナの姿がそこあるのだった。


それはまさに、変質した自害阻止スキルの力によって無効化させれていた呪いが再び彼女の心を呑み込み、操り人形へと変えてしまった瞬間だった。

「ッ、この」

神宿は歯を噛み締め、怒りの表情をシンバに向けて放つ。
だが、対するシンバはそんな神宿の様子を眺めながら、



「…… そうか。こちらにこの女が戻ってきたのなら、フフッ、ちょうどいい」
「!?」


シンバが悪魔の笑みを浮かべ、自身に体を変質させる。
そして、その体を再び人間へと戻した、ちょうどその時だった。



「貴様たち、そこで何をやっている!!」



学園内の警備隊が仲間を引き連れ、やっと中庭へと集まってきた。
神宿は顔を上げ、直ぐ様シンバの正体を皆に知らせようした。
ーーーーだが、その次の瞬間。




「皆さん、助けてください!! この者が、聖女様に危害を加えようとしているのです!!」
「!?」



神宿より先に、シンバがその言葉を口にしたのだ。
そして、神宿が反論するよりも早く、

「さぁ、聖女様も! 今起きた事実を皆に向けて語るのです!!」

シンバは目の前に立つ、拘束を解いたミカナに向けて、ニタリと笑みを浮かばせながらその言葉を囁く。

「お、おい……ミカナ……」

神宿は動揺した様子で声を掛ける。
だが、


「!?」


ゆっくりと顔を上げたミカナの瞳には、光が灯ってはいなかった。
そして、その死んだ瞳で神宿を見据えながらーーーー彼女は言った。



「はい、その者は私に危害を加えようしました。だから皆さんーーーーどうか、その者を捕らえてください」



本心ではない偽りの言葉が、その場にいた全ての者に向けて放たれてしまった。

そして、この時をもって、


「クソッ……!!」


神宿 透は『聖女を襲おうとした犯罪者』という名のレッテルを貼られ、皆から狙われる、追われるの身になってしまったのだった。



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