自害阻止スキルと自然治癒スキルを与えられた少年は、異世界転生からリタイヤ出来ない!

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未完の魔法




ーーーーそれは、カフォンを苦しめていたギアンとの決闘の後から数日が過ぎた時の事だった。


「………ふぅ…っ」


その日、男子寮に誰もいない事を知った上で神宿は賢者の中でもトップである彼女、大賢者ファーストを修行場へと呼び出していた。
そして、そこで神宿は彼女に一つの魔法ーーーいや、魔法とは未だ呼べない『未完』の魔法を見てもらっていたのだ。


「はぁ、はぁ……それで、っ、どう思う?」
「うむ………」


修行場の中央で、手を前にかざしながら魔法を解く神宿。
その全身からは大量が汗を流れ落ち、肩で息をつくほどだった。
しかし、その一方でファーストは、目の前で見せてもらった魔法について考え込み、そして、口元に手を当てながら短い沈黙ののちに、





「危うい、のぅ」




そう、答えたのだ。
だが、対して神宿はこれといって落胆した様子もなく、それはまるでそう答えられる事を見越していたかのように、苦笑いを浮かべていた。

「今みた限りでは、まだ完成はさせておらんのじゃろ?」
「……っ、ああ」
「なら、それで正解じゃな」


大賢者であるファーストですら、そう言葉をつく。
だが、それは完成を求めてきた者たちにとっては、その意思そのものの苦しめるようなものであった。
しかし、



「…………そう、だよな」



神宿は、反論しなかった。
それは、神宿自身もまた十分に危険を理解していた上、何よりも大きかったのが、不安があったからだ。




何故なら、この『未完』の魔法は本来、絶対に完成しないとされていた魔法だったからだ。








完成することない魔法。
それは、女神によって与えられた二つのスキル。
それらが起こす上位の魔法が使えないリスクによって引き起こされた障害だった。


しかし、そんなある時。
未完の魔法が完成に至る、そのきっかけとなる魔法を神宿は偶然にも見つけてしまったのだ。


それは、ギアンとの決闘の最中で発現する事に成功した魔法。


ーーーアーチャーウィンドだった。


風という強大な属性を組み込み、生み出されたその力をきっかけに、神宿は一つの可能性に気がついた。
そして、その可能性を経て、『未完』の魔法は完成間近へと近づいた。




ーーーーーだが、そこである問題が発生してしまったのだ。







誰もいない修行場の中、神宿は『未完』の魔法を完成させようとしていた。
だが、完成間近に近づいた、その次の瞬間。


「っ!?」


弾かれたかのように、神宿は突然と魔法の完成を中断させてしまったのだ。

「………」

突然の中断によって周囲には形成に必要とされていた魔力が四散し、小さな風が吹き荒れる。
だが、そんな事すら気にできないほどに、未だ震える手を見つめる神宿は、動揺していた。




……全身がこれでもかというほどの危険信号を放ち、強烈な悪寒が走った。
そして、その瞬間に神宿は気付いてしまったのだ。


ーーーーこの魔法は、完成させてはいけない。



と。







完成させてはいけない。
その言葉に同意する神宿を見つめるファーストは、諭すように言葉を添える。


「……確かに、この魔法は強力じゃ。その上、お主以外、誰それと使える魔法ではないじゃろう」
「…………」
「じゃが、リスクを考えるなら、これはあまりにもアンバランスすぎる」
「…………」


ファースト自身これ以上責めるような言葉を言いたくはなかった。
だが、それでも



「…………だが、それより危険なのは、お主の身の方なんじゃ。……何故なら、下手をすれば、お主は」



言わなければならなかった。
それほどに、この魔法は、




「………魔族よりも、厄介な者たちを敵に回さなければならん事になるかもしれんのじゃ」





危険すぎたのだ。
そうなる可能性を十分に秘めた、いわば爆弾に近いもの。
それが神宿が生み出そうとしていた『未完』の魔法だったのだ。



「………」

そして、ファーストの言葉が終えた後、その場に沈黙が落ちる。
だが、そんな中で神宿は小さく口を開き、

「ああ………わかってる」

そう答えた。
だが、


「……だけど……その上で、俺からアンタに一つ、頼みがあるんだ」
「……………」
「これは、アイツらや師匠じゃ頼めない。………アンタにしか頼めないことなんだ」


答えた上で、神宿はファーストにある一つの頼み事を依頼した。













それは、この場の空気を一瞬にして凍えさすような内容を秘めた言葉だった。
大賢者であるファーストでさえ、目を見開き、動揺を隠せずにいた。


しかし、そんな状況の中で神宿だけが小さく笑みを浮かばせながら、


「なぁ、頼めるか?」


そう言葉を言ったのだ。
それはまるで何かを察しているかのような、そんな顔だった。

「…………」

ファーストは目の前に立つ少年を見つめながら、小さく唸り声をあげつつ考え込む。
そして、重い息をつきつつ、



「………わかったのじゃ。一応は了解しておこう」
「……ああ、たすか」
「ただし! 一応じゃからな? わかっておるな? ワシ自身も善処はするが、お主自身も善処するのじゃぞ? いいな!」
「………ああ、わかったよ」



こうして、誰にも知られない二人だけの秘密が共有されることになったのであった。




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