自害阻止スキルと自然治癒スキルを与えられた少年は、異世界転生からリタイヤ出来ない!
選定戦
神宿たちに視線が集まる中、貴族たちの列の中でカルデラとカフォンはことの成り行きをただ黙って見つめるしかできなかった。
そして、選定戦として選ばれた神宿。
その対戦者であるガルアを見つめるカフォンは複雑な表情を浮かばせながら、
(……ガルア)
今現在たる彼ではない、かつての幼き面影のあった少年の事を思い浮かべていた。
選定戦
それは勇者である資格を持つ者同士たちが競い、誰が真の勇者であるかを決めための公式戦でもある。
そして、本来なら規則に応じて神聖なる場所での試合が基本とされている。
だが、しかし。
「だから、今から場を要した、もう一度選定戦をやってみようかと思うの?」
王族貴族。
その第二令嬢たる聖女ことミーティナの発言によって、その決まりは無効となってしまった。
そして、王族貴族の特権によって、神宿と
ガルアの選定戦が学園のグラウンドにて行われることになってしまったのだった。
前回と同様に、真四角の結界によって区切られた試合場となるグラウンド。
「……勇者相手に臆せず来たな。そこだけは褒めてやる」
「……別に男から褒められたって嬉しくもなんともねぇよ」
ガルアと神宿は今、共に向かい合いながら対峙している。
その手に武器一つ持たない神宿に対して、ガルアの手には紅一色に染められた一本の大剣が握り締められている。
(…近接戦闘が得意、ってわけか?)
神宿自身、こんな茶番に付き合うつもりはなかった。
だが、王族貴族の発言の力は強く、半ば強制的に参加せざる状況に追い込まれてしまったのだ。
そして、
「試合形式は対人戦。この結界内にて行われるものとします。ただし、殺しは許可していません」
時間は待たずして、結界の外から審判役として選ばれた男性教師の声が聞こえ、グラウンドの端側から観客たる貴族たちの視線が集められる中、
「それでは両者、始めてください!!」
選定戦が始まった。
先手に出たのは、神宿だった。
「ウォーター《ボム》」
手を前にかざし、神宿は水の魔法を放つ。
その真っ直ぐ飛ぶ攻撃は弊害なく対戦者へと迫りくる。
だが、対するガルアは静かにそれを睨みつけながら、
「ふん」
その一息と同時に全身に魔力を纏わせた。
そして、その発動と同時に発生した余波に小さな攻撃を簡単に相殺させてしまった。
(武器なんて使う必要すらないってか、ならッ!)
次に神宿は片腕に風の弓を作り、もう片方の手に水の矢を作る。
そして、特性を担わせた一撃、
「ウォーター《スクリュー》!!」
貫通性を持たせた一矢を放つ。
そして、風による促進力を纏わせた一撃は、ガルアの右肩。
その一点を貫こうとしていた。
しかし、それもまた次の瞬間。
バシュという音と同時に相殺されてしまった。
「!?」
「そこそこは、やるみたいだな」
神宿の攻撃をことごとく防ぐもの。
それはガルアが纏う、まるで鎧そのものでもあるかのような強固な魔力、そのものだった。
「次は、俺の番だな」
「っ!?」
そして、ガルアのその言葉に応じて構える神宿。
対するガルアは片手で大剣を持ち上げ、それを軽い調子で前に振り下ろした。
次の瞬間。
「!?」
それはまるで鈍器で殴られたかのような衝撃が神宿の右肩を襲い、後方に吹き飛ばされてしまった。
「ッ、ぅ」
「待っててやるから、さっさと立て」
地面に倒れ、痛みに顔を顰める神宿。
そんな彼に対し、ガルアはそう言って追撃をしてこようとはしない。
ーーーー舐められている。
強者たる立ち振る舞いをするガルアに対し、そう感じる神宿は足腰に力を入れて、立ち上がりながら、その手に弓の魔法を纏わせた。
(どうする……あれを使うか?)
現状、神宿は未だカスタムチェインなるアーチャーウィンドを使ってはいなかった。
それは敵の力量も分からない、この現状で使うべきではないと考えたからだ。
しかし、ガルアという男の力は未だ底すら見えず、またこのままでは確実に負ける、という自覚すら神宿の心に芽生えつつあった。
「……っ」
だが、これ以上目立つ行動は神宿自身の首を締めることになる。
そう、それは女神によって転生させられた勇者候補の一人であることを、明るみに出さないためにも、このままーーーーーー
「確かに、俺は勇者であり、そして、貴族でもある」
ーーーと、そう神宿が思考を巡られせていた。その時だった。
大剣を構えるガルアが、その重い口を動かしながら神宿を睨み付ける。
そして、
「だが」
未だ力を隠す、神宿に対してガルアは言ったのだ。
「この俺を、あのギアンとかいう屑野郎と一緒にするなよ」
そして、ガルアがその場で大剣を振り下ろした、その次の瞬間。
ガッ!!!! という強烈な音と共に、
「ッ!?!?!?!?!?」
神宿の体がくの字に折れた。
そして、その体はそのまま後方に吹き飛ばされ、結界内の壁に直撃する。
「ガッ、ァ!?!」
壁から地面へと大きく倒れた神宿の口からは少量の血を吐き出され、激痛によってその顔が大きく歪む。
そんな中で、
「貴様の事なぞ、こちらは既に知っているのだ」
ガルアはそう言って、一歩、また一歩と歩み寄って行く。
そして、地面に倒れる神宿を見下しながら、大剣を地面に突き刺さし、
「貴様が本当に勇者というならばーーーーーこの俺に隠すことなく貴様の力、その全てを見せてみろ!」
ガルアはそう言葉を言い放つのだった。
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