自害阻止スキルと自然治癒スキルを与えられた少年は、異世界転生からリタイヤ出来ない!

goro

手に入れたもの



決闘を終えた翌日。
学園から離れた場所にある神宿が住まう男子寮。
その玄関先にて、


「ほれ、魔力の維持が遅れておるぞ」
「「……はい」」


神宿とカルデラ、二人は今。
にっこり笑う大賢者ファーストによって、お仕置きを受けている真っ最中であった。

ーーーしかも、正確には無茶苦茶きつい修行であるのだが…。


「(何でこんなことになるんですかーっ!)」
「………」

事の経緯は、お日様が登ろうとした早朝に時間は少し巻き戻る。






それは早朝。
いつものように朝食の準備をしようとしていた神宿は、その日何故か早くに目を覚ましたカルデラと廊下でかち合った。

「おはよう」
「おう」

そして、共に軽い挨拶を交わしながらリビングへと行き、椅子に腰掛けながらゆったりとした平和な朝を過ごしいた。

「「ふわぁ…」」

目に見える傷は昨日のうちに既に完治している。
だが、決闘での疲れもあって、後まだ少し眠い。

神宿とカルデラの二人は、もうちょっと寝ようかなぁ、とそんな事を考えていた。



ーーーーそんな時だ。


「おーい、小僧ー? 起きておるかー?」


玄関先から突然と呼び声が聞こえて来た。
神宿とカルデラは共に頭に?を浮かばせながら、一先ず玄関先へと向かった。
そして、向かった開口でーーー


『お主ら、今からお仕置きじゃぞ』



と、可愛っこぶった口調で話す大賢者ファースト。
後、付け足すなら言葉と口元は笑みに包まれているがーーー目が笑ってない。

「「ッ!?」」

その直後、全身を震え上がらせるような悪寒を感じた神宿とカルデラは直ぐ様逃げようとした。
しかし、


「どこにいくつもりじゃ?」
「うわっ!?」
「ちょっ!?」

ファーストが即座に召喚した白い植物に拘束されて、二人はこうしてあっけなく捕まってしまったのであった。






そして、話は戻り今となる。
二人はお仕置きと言う名の修行をやらされているのだが、


「ぅぅー! き、きつぃー!!」
「馬鹿たれ。お主にはこれからそれを毎日日課でやってもらう予定なんじゃぞ? これぐらいでへこたれてる間などあるか」
「そ、そんな〜っ!!」

カルデラは剣型魔法具を起動させた状態で、重りをつけた剣での素振りを何回もさせられている。
………ちなみに、その重りの量というのが10キロ近くあるらしいのだが、


「ほれ、小僧の方も魔力維持が疎かになっておる。集中せんか」
「………あ、ああ」

対する神宿に至っては先日新たに手に入れた力、アーチャーウィンドを展開させたまま、他属性の魔法の維持する修行をやらされていた。

全身に風の魔法を纏わせたまま、更に加えて地と水、それら三つの魔法を同時展開させつつ持続させる。
これまでやって来た修行に比べて、明らかにハイレベルな修行だけあって、神宿の全身からは今もびっしょりと汗が流れ落ちていた。


「本来なら、お主らにはもう少し緩めに修行をつけてやろうと思っておったのじゃが、お主ら二人はちと目を話すと危険な事ばかりする傾向がある」
「「………」」(…心当たりのある二人)
「危険な魔法は自分だけでなく、周りにも被害を与える。じゃから、その危険性を十分理解してもらうためにも、お主ら二人にはこれからも継続して自分の力のコントロールする修行をやってもらうつもりじゃ」


さすが大賢者なだけあって、言ってることはド正論だった。

「ほれ、集中じゃ」
「「…は、はい」」

神宿とカルデラは何も反論出来ず、渋々と修行を続ける。
すると、ちょうどその時だった。


「ただいまーーーーって…な、何やってるの?」


昨夜、自分の屋敷へと帰っていたカフォンが偶然にもそのタイミングで男子寮に帰ってきた。
そして、目の前で修行させられている二人を見つけ、そう尋ねる。

ーーーーーだが、その最中で、


「うむ、帰ったか。あ、そういえば、お主の屋敷含めた借金はワシが全額払っておいたぞ」


ファーストが気にする様子なく、淡々とそんな言葉を発したのである。
カフォンは、ありがとうございます…、と返事返し………、




「「えーーーーーーーーーーーっ!?!?」」




ーーーーー流石にそれを聞き流すことは出来なかった。








リビングへと場所を移した神宿たちは、そこでファーストから事の経緯を聞かされていた。



カフォンの借金に関して、それはサーギルの屋敷にあった財宝を金に変換して手に入れたものだったらしい。
そして、その財宝の所持者だったサーギルと、その息子のギアン。
その二人は消息を絶ったという。

ちなみに、あの後ギアン以外の他の者たちは牢屋に牢獄させられ、後ギアンの妹に関しては別の土地へ永久追放させられたと、ファーストは語ったのだが、



「で? 絶対それだけじゃないよな?」
「さぁーね〜? まぁ、色々とだよ〜?」


いつの間にか男子寮に帰ってきていた賢者アーチェに問いかけるも軽い調子で話をはぐらかし、神宿の背中に抱きついてくる。

神宿自身は、それが邪魔でしかたがなかったのだが、

「…………」
「…………」

カルデラとカフォン。二人からの無茶苦茶冷たい視線がもの凄く痛い…。

一方で、ファーストはそんな呆れた状況に溜め息をつきながら、話を元へと戻し、

「というわけで、まぁ、後数十年ぐらいは金には困らんじゃろ。じゃが、借金は返せたとしても、やはり世に出回った悪評までは回復できんのが現状じゃ」
「………」
「まぁ、それもふくめて名を取り戻すなら、やはり後数ヶ月先にあるダンジョン攻略をして名声を上げるのが手っ取り早いじゃろうが」


このまま悪評気にせず暮らす選択もあると、説明するファースト。
無理に危険な道を取らずともよい、と彼女は言っているのだ。
ーーーしかし、

「………やります」

対するカフォンの瞳には妥協の色は見受けられなかった。

…こんな自分のために、手を貸してくれた人たちがいる。

これまで自分を支えてくれた屋敷の使用人たち、そして、カルデラや神宿、アーチェやファースト。

そんな人たちに顔向けするためにも、そして、何よりこれまでの自分を変えるためにも、


「ダンジョンを攻略して、今度こそ私がみんなを助けてみせます」


例え厳しい道であろうとも進んでいく。その覚悟が彼女にはあった。



「ふむ、ならその方向で決まりじゃな」

ファーストは口元緩ませ、良き答えに笑みをこぼす。
そして、その一瞬のうちに張り詰めていた空気が四散する中で、

「あ、あの」
「む?」
「あ、ありがとうございました!! ここまで色々と手助けしていただき」

そう言って、カフォンは改めて礼を言おうとした。
ーーーーーーーーーーーーその時。





「言っておくが、タダではないぞ?」






ーーーー平然とした様子で、ファーストがその言葉を口にしたのだ。



「「「「へ?」」」」



その言葉に、その場にいた全員から間の抜けた声が漏れる。
対し、周囲の様子など気にすることなくファーストは笑みを浮かばせたまま、

「お主には、代わりとして代価をいただこうと思っておる」
「え、っ、ちょっ!?」

ずい、とカフォンに顔を近づけた大賢者はそのまま口を動かし、





「お主には、ワシの弟子になってもらう」





ーーーーそんな、爆弾発言を告げたのだった。





「「えーーーーーーーーーーーっ!?!?」」


今度はカルデラとアーチェが悲鳴を上げ、直ぐ様ファーストに詰め寄る。

「どういう事なんですか!? ってか、何でっ!?」
「師匠!? 私もそれについては凄く理由を聞きたいんですけどっ!?」

アーチェに至っては口調が素に戻っていたが、一方のファーストはとくに気にする様子なく、その理由を話す。


「いやー、何というか、弟子にすらなら試しにお淑やかなヤツをと思ってな」


そう言ってファーストは、ジロリとアーチェとカルデラを睨みつけ、

「だって、ワシの周りにいるヤツらは皆天邪鬼ばっかじゃし。例えば、外見はお淑やかに見えて、中は脳筋ばりのやつもおるし」
「うっ」(アーチェ)
「ワシのこと、散々馬鹿にする小娘とかもおるし」
「うっ」(カルデラ)

ファーストの指摘にたじろぐ約二名。
そんな二人を見つめる神宿は、あー、と呟きながら、


「トオルも、なるほどー、って顔しない!」


言われて納得する約一名もいた。

ファーストはそんな彼らに溜め息をつきながらも視線を戻し、カフォンを見据え、

「それに比べてコヤツは何やかんやで実のところお淑やかなんじゃぞ?」
「え? どこが?」
「ちょっ、トオル」

余計なことをいう神宿を無視して、ファーストはそれは見事なまでに、


「そうじゃな〜。例えばじゃが、毎朝通学途中の脇道でノラの子猫たちに餌をあげてやったり」
「ちょっ!?」
「後、部屋着も実のところ、可愛いい系が多いんじゃよ。タンスの奥底に隠しているつもりのようじゃが」
「な、なな何で知ってるのっ!? ってか、私の個人情報漏らさないでーーーっ!?」


色々と暴露してくれた。






「それで? どうする?」


色々知られて顔真っ赤のカフォン。
そんな彼女を面白おかしく見つめながら、ファーストはもう一度問う。

大賢者の弟子になってみないか、と。


「…………」


周囲の視線が集まる中、カフォンは考える。
そして、小さく唇を紡ぎながら、その問いに対して、



「……わかりました。その話、お受けします」



ーーーーーーイエス、と答えた。
良き答えに満面の笑みをこぼすファースト。
だが、

「…だけど、その…一つだけお願いしてもダメでしょうか?」
「む?」

そう言ってカフォンは、首をかしげるファーストに対し、小さな声でその願いを口にする。




「その……学園を卒業してからでは、ダメですか?」




やっと手に入れた大切な時間。
それをもう少しだけ、実感し、大切にしたい。
それが、カフォンの願いだった。

そして、その願いに含まれた、もう一つの願い。
それは、ちらりと神宿に視線を送る仕草も見せ………、




「……ふふっ、そうかそうか」



ファーストはその意図を読み、ケラケラと笑う。
そして、そんな可愛らしい願望を夢見る少女に向けて、


「よい。お主にとっても貴重な学園生活なんじゃ。十分に満喫するとよい」


その願いを聞き入れたのだった。


「っ! ありがとうございます!!」


カフォンは元気よく返事を返し、後ろにいる神宿たちに振り返る。
そして、




「これからも、よろしくね! カルデラさん! トオル!」



カルデラと神宿に向けて、彼女はその満面の笑みをこぼすのだった。

ーーーーーそして、それは神宿たちにとって、未来ある勝利を手に入れた何よりもの褒美であるのだった。








ーーーーそして、

「さて、こっちの話は済んだ事じゃしーーーーーー後は、コヤツらのお仕置きじゃが、もう少しレベルを上げ」

その言葉に、再び逃走する神宿とカルデラなのであった。





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