自害阻止スキルと自然治癒スキルを与えられた少年は、異世界転生からリタイヤ出来ない!

goro

アーチャーウィンド




風の弓兵。
その名を称するかのような容姿を表した神宿透。

だが、そんな彼の姿よりも先に皆の意識は彼が発する魔法に注目が集まっていた。
何故なら、彼が口にした魔法名自体が、


「オリジナル…魔法…」


この世界に存在しない、新しい魔法だったからである。


ーーーーだが、



「いや、あれは違うな」



その時。
その言葉を発する者が突然と現れた。
それはカフォンの直ぐ側。

「っ!? ファーストさん」

大賢者ファーストがテレポートの魔法を使って、再びこの場所へと戻ってきたのである。
そして、そんな彼女は隣に座り込むカフォンの姿を見据え、

「ほれ、それでも羽織っておれ」

肌身を隠させる為、自身の上着を手渡しつつ、ファーストは視線を神宿へと戻した。


そして、その小さな唇を緩ませながら、


「しかし、あの小僧め」



小さな冷や汗を頰に垂らしながら、ファーストは言うのであった。


「流石、あの馬鹿弟子の教え子といったところじゃな」









緑色に光る瞳で目の前に立つギアンを睨みつける神宿。
そして、自身の手にある武器を見つめながら、神宿はその時。自身の魔法が成功した事を確認した。


「な、何なんだよ……それっ」
「………」
「ふっ、ふざけん、じゃねぇぞ!!」

対峙するギアンが動揺と怒りを交えた言葉を吐く。
だが、その問いに対して神宿に答える意思はなかった。

ただ、腕を動かし。

「ウォーター」

ただ、その手に魔力を溜め。


「《スクリュー》」



そしてーーーーー目の前の敵を撃つ為に、神宿はその言葉を繋ぐ。


「《ホーミング》」


次の瞬間。
ギアンに目掛け、必殺の矢が放たれた。
まるでバネから弾け飛ばされたように、その矢は驚異的な速度でギアンを射抜こうとする。

しかし、それは目前と迫る手前で彼を守る魔法具によって阻まれる。


ーーーーーーーそれが今までの結果だった。

「!?」

その直後。
縦によって塞がれようとした一矢が突然と方向を変質させ、盾を避けたのだ。
そして、再びギアンを射抜こうとする。
それも、驚異的な速度を維持したままで、


「ッ!?」


だが、キィン!!! という金属音と共に、間一髪の差で鎧の腕によってその一矢の直撃は免れ、水の矢はそこで四散した。

ーーーーだが、


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁッ!」


その一撃は、無駄撃ちにはならなかった。

後少し遅ければ、確実に矢はギアンに直撃していた。
その事実が、ギアンの顔に恐怖を刻み込んでいったのだから。








目の前で起きた戦闘に目を奪われていたカフォン。
だが、そんな状況の中でも彼女は、微かに声を漏らしていた。

「今のって…」
「おそらく、あの小僧に纏う風のオーラのおかげじゃろう」


カフォンの声に答えるファースト。
だが、



「風の、オーラ…? ぇ、でも」



風のオーラ。
それは魔法使いなら誰でも使える魔力を身に纏う魔法の事でもある。
しかし、神宿が今見せるその姿と風のオーラとでは合致する点が全く見受けられなかった。
だからこそ、カフォンは疑問の声を漏らしてしまったのである。

だが、対するファーストは呆れた様子で口を動かし、


「だから言ったじゃろ? あれはオリジナルの魔法ではないと」


カフォンにもわかるよう、説明を始めるのだった。





「おそらくアヤツは全身に纏う魔力に特性を組み合わせたんじゃ」
「と、特性……」


それは神宿が使うプラスチェインの事を指し示していた。
そして、それは上位の魔法を使えない彼が、それを補うために手に入れた技法とも言えるものだった。


「そうじゃ。……じゃが、今回のアレはいつものそれとは少し違う。…….とびっきり危険な賭けじゃったろうがな」


ファーストはそう言って、再び視線を神宿にへと戻す。








「ッ!! な、舐めんじゃねぇぇえッ!!!



恐怖に駆られたギアンは動揺を隠すかのように武器に攻撃の指示を飛ばそうとした。
だが、

「ウォーター」
「ッ!?」

剣と弓。
そして、近距離と遠距離。
その差によってーーーーー先に攻撃の先行を取ったのは、



「《スプレッド》《ボム》」



神宿だった。

その次の瞬間。
弓から放たれた一矢がある一定の間隔をもって、散弾し、爆発する。


「ぅっあああああああああああああ!?!?」


避けきれない攻撃に対し、悲鳴を上げながら盾の後ろに隠れるギアン。
それによって視界が盾に塞がれ、



「アース」



だからこそ、神宿の次の手を確認することが出来なかった。


「《ダブルボム》」



そしてーーーーその直後だ。
神宿の放った一撃が強烈な爆発と共に、盾諸共ギアンを後方へと吹き飛ばしたのだった。











「アヤツの魔法、いやプラスチェインには一つの欠点があった」
「ぇ…」
「それは強弱の調整がつけられんことじゃ」

ファーストは以前から、神宿の使う魔法。その異端となる要因に密かに気づいていた。

「それって、どういう」
「…この世界において『特性』というものには、魔法のような上位、最上位といった段階が正確には定まってはいないのじゃよ」
「え?」
「まぁ、言われれば気づくかもしれん事じゃが………普通に考えて上位を使えんアヤツが何故上位に匹敵する初期魔法を使うことが出来ると思う?」
「!?」


神宿が今まで見せた攻撃は初期魔法の上、もしくは上位に匹敵する攻撃力をあった。
だが、それ自体がそもそもおかしいことだったのだ。


上位を使えない。
つまりは魔法使いとして下のレベルである存在の者が、そのレベルに見合ってない力を使っている。


それはつまり、釣り合いが取れていない、という事を指し示していた。



「魔法なら常識が適用される。じゃが、特性に関してはその常識のタガ、つまりは上限がないのじゃよ。そして、術者自身の思いが強ければ強いほど、特性の質もより強く向上していく」
「……………」
「そして、何よりもその証拠がアヤツが今なっている状態についてじゃ。確かアーチャーウィンドとアヤツは言っておったが、その本質は違う」


アーチャーウィンド。
その力が完成する手前に起きたその暴走現象。それこそが、特性の異質。



「アヤツはオーラの魔法に『風』の特性を付け足したのじゃよ。そして、それが異分変質して出来た……それこそがアーチャーウィンドの正体じゃよ」



特性の危険性を指し示していた。


「本来ある結果が捻じ曲げられ出来た異分変質。それほどに風の特性は危険なものじゃった。何故なら、この世界において四つのエレメンタルの内に入る一つとも言える力じゃからな。人間どころかこのワシですら、その力場が全く見当もつけんものじゃった」
「…………」
「そして、だからこそアヤツの魔法が完成する手前であのような暴走現象が引き起こったのじゃ。仮にオーラのような小規模な魔法ではなく上位の魔法にかけていたならば、この場一帯が確実に吹き飛んでたじゃろう」
「で、でも! トオルはそれを完成させたんですよね! それって、凄いことじゃ」
「それは違うのじゃよ」
「え…」
「本来なら確実に失敗する魔法じゃったんじゃ。生死に関わることじゃったからな。そして、………アヤツもそれは十分にわかっていたはずじゃ。じゃからあの力を今まで使おうとはしなかったのじゃから」


褒めてはいけない。と、その思いを乗せながら言葉を使うファースト。

神宿は間違いを犯した。
だからこそ、そこで彼の行いを認めてはいけない。
そう、ファーストは言っているのだ。


「……………」


危険を冒してまで、その力を使おうとした。
それはこの場にいるカフォンのために。

「……………」

自分のせいで、とそう思い込んでしまいそうになるカフォン。
だが、そんな中でファーストはそんな彼女の頭に手を置きながら、

「まぁ、運があった。というが結論じゃが、それより簡単に言うなら相性が良かったんじゃろうな」
「相性?」
「うむ。まぁ、その件については後々、授業で習うことになるじゃろうから、それまでの宿題じゃな」

そう言ってファーストはカフォンに対し、微笑むのだった。
だが、その裏側で、


(じゃが、本当の意味では答えるなら、運や相性だけでは成功はしなかったじゃろう)


目の前で目を見開くカフォンを見つめながら、


(お主を助けたい……その想いの強さがあの魔法を成功させたんじゃよ)



ファーストは心の中で、その答えを呟くのであった。





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