自害阻止スキルと自然治癒スキルを与えられた少年は、異世界転生からリタイヤ出来ない!
魔法音
最初は牽制のつもりで魔法を放った。
避けるための時間を作る、そのつもりで魔法を放ったのだ。
「………」
しかし、その予想を大きく翻し、水の魔法はルティアを後方へと吹き飛ばした。
今までの魔法とは比べものにならないほどとに、明らかに威力も速さも違う。
突然の異変に対し、カルデラは驚きを隠せずにいた。
「っ、こ、このッ!!」
だが、その一方で、歯を噛み締めながら体を起こたルティアが苛立ちを爆発させた。
吹き飛ばされた際に出来た擦り傷や、惨めな自身の姿。
それら全てに怒りを怒号を上げる彼女は再びムチを放とうとした。
だが、
「ウォーター!!」
カルデラの放つ魔法によって再びムチの勢いは殺されてしまう。
しかも、
「ウィンド!! ファイア!!」
続けて、カルデラが片手から二つの魔法を放つ。
ルティアは咄嗟にデボルクの盾で攻撃を防ごうとした。
だが、
「っあ!?」
その威力の余波全てを殺しきる事が出来なかった。
盾から逸れてしまった魔法がルティアは直撃し、再び彼女の体は地面へと吹き飛ばされてしまったのだ。
天地をひっくり返したかのような光景は、その場にいた全員の言葉を黙らせる。
だが、それは比例するように、その場にいた誰もがカルデラの勝利を確信した瞬間でもあった。
ーーーーーーーしかし、その時だった。
「調子にッ、乗るなぁああーーーッ!!!
」
ルティアの絶叫がその場に響いた、次の瞬間。
『!?!?!』
彼女の周囲を浮いていたデボルクの盾が、突如として光を纏い始めたのである。
そして、顎門らしきも口を何度とかく開け閉めしながら、周り始め、
『ガ、バァ、アマラ、ハラマカマ!?!?!』
それは突然に起った。
ゲボルクの盾が全方向に向かって魔法を放ち始めーーーーーーーーー暴走を始めたのである。
盾から発せられた異様な言語に続き、魔法を吐き出すその姿はまるで兵器そのものだった。
「っ!?」
「……ふむ、どうやら暴走してしまったようじゃな」
観客側で観戦するファーストは目を細め、その盾の真下にいるルティアを見据え、そう呟いていた。
「おい、暴走って一体」
「…魔法具とは確かに便利な代物でもある。…じゃが、それを扱うにおいて十分に気をつけないといけない事があるのじゃよ」
「?」
「言わば、相性と使用者のレベルじゃよ」
無造作に今まで吸収してきた魔法を吐き出し続ける盾。
だがしかし、それらが全てーーーー無条件で放てるわけではない。
「魔法具の質によって吸収量も左右される。強力な魔法具ほど、それに吸収される魔力量が桁違いに大きなものになるのじゃ」
「っ……それじゃあ…」
「……うむ。じゃから、このまま進めば………アヤツはいずれ」
魔法具の真下で立つルティア。
そんな彼女を見つめながら、ファーストは言った。
「ーーーー確実に死ぬはずじゃ」
盾から放たれ続ける魔法はあまりにも無鉄砲なものだった。
しかし、それでも少なからず迫ってくる魔法に対しカルデラは回避を続けていた。
だが、ルティアに視線を向けた、その時。
「!?」
カルデラはもう一つの異変に気づいたのである。
ーーーーーそれは、ポタポタ、と鼻血を流すルティアの姿。
目は充血し、荒い息に続けて体を震わせている。
そして何より、彼女の魔力らしきオーラが今も頭上で暴走を続ける盾に吸収されている様をカルデラは見てしまったのだ。
「ッ!? それ以上はダメです!! このままじゃ、貴女の体が」
「うるさいッ!!!!」
カルデラは必死に止めようと声を出した。
だが、それをルティアは許さなかった。
「私は貴族なのよ! たかが一般の貴族風情が、私に指図するな!!」
「…貴女」
「ぅ、あああああああーーーーッ!!!」
ルティアの叫びに応じ、盾の暴走は激しさを増す。
このままではいけない。
そんな事は分かっていた。
だが、それでも。
ルティアの中にあるプライドが、敗北を許さなかったのである。
「ゲボルクの盾ーーッ!! 私にッ、力を貸せえええええええーーーッ!!!!」
ルティアの叫びが放たれた。
その次の瞬間。
バタッと、彼女の体は地面へと倒れた。
しかし、それと同時にもう一つの異変が盾自身に起きたのである。
それはまるで彼女の願いを聞き受けたかのように、ゲボルクの盾が暴走をピタリと止め、カルデラに姿勢を向ける。
そして、その開いた顎門から、
『コロス、コロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロス!!!』
ゲボルクの盾が、ガクガクと顎門を震わせ始め、そして、その直後にーーーーーーーーーーーー盾は、強大な魔法を放つ為のチャージを開始し始めたのである。
その余波は周囲に風を吹き上がらせ、地響きを発生させる。
結界の外で退避を叫ぶ教師の姿もあった。
だが、そんな状況の中で、カルデラにはそれよりも先に目を離せないものがあった。
「ッ…」
ーーーそれは盾に魔力を今もなお吸収され続けているルティアのことだ。
立つことすら出来なくなり、地面に倒れる彼女。
すでに使い手は倒れ、勝敗は決まった。
このまま続ければ、カルデラの勝利は確実なものになるだろう。
そして、勝利した上でーーーーーーー確実に彼女は死ぬ。
「ッ!!」
そんな結末によって得られる勝利などーーーーーカルデラは何一つ望んではいなかった。
(そんな事、させるもんかっ!!)
だがら、彼女は逃げなかったのである。
カルデラは刀を地面に突き立て、ルティアを。そして、ゲボルクの盾を見つめる。
そしてーーーーーカルデラは思い出す。
アーチェに教えてもらったもう一つの魔法。
それを使用する、決意を固めたのだ。
「…カルデラ?」
逃げることを止め、立ち尽くすカルデラに怪訝な表情を見せる神宿。
だが、そんな時。
『faーーーーーーーーーー』
ーーーそれは突然だった。
カルデラがゆっくりと口を開き、歌声のように音を出し始めたのだ。
そして、それと同時に、
「!?」
隣に立つファーストの表情が凍りついた。
まるで不味いものを見てしまったかのように目を大きく見開き、
「カルデラの奴、何を」
「お主ら、全員体に魔力を纏わせるのじゃ!!」
突然とそんな事を言い始めたファースト。
「ファースト?」
その異様な彼女の叫びに驚く神宿。
だが、対するファーストは歯を噛み締めながら、カルデラを見つめ、
「あの馬鹿弟子が」
そう言葉を呟くのだっだ。
結界の中、完成間近のチャージを続けるゲボルクの盾。
だが、その一方で、カルデラは目を伏せながら歌い続ける。
『faーーーーdoーーーーーーーreーーーーーsoーーーーーfaーーーーー』
まるで祈りの歌を歌うように。
ゆっくりと地面から刀を抜き取り、真上に振り上げーーー武器を構えた。
ーーーーーそして、その時。
蛍のような光が彼女の全身から漏れ始める……。
ーーーそして、その時。
光は刀に吸収されるようにして、集まる……。
そして、その時。
眩き巨大な光の刀がカルデラの手に委ねられた…。
そしてーーーーその次の瞬間。
『!!!!』
『faーdoーmiーーーーfaーーーッ!!!』
ーーーーー二つの魔法は放たれた、一つの魔法が、全てを吹き飛ばした。
『                             』
衝突の後、やってきたのは無音だった。
そして、その後にやってきたのは、破壊によって塗り替えられた結末の光景だった。
観客側を守るはずの結界が破壊され、その場周囲にいた生徒たちが地面に転がり倒れている。
だが、その中で、
「はぁ……はぁ、はぁ」
刀を片手に持つ、カルデラだけがーーーーその場に健在と立っていたのであった。
ゲボルクの盾を打ち破った魔法。
それは破壊をもたらす音を混ぜ合わせて放つ技ーーその名は魔法音。
周囲に漂うこの世界の魔力。
それらを音によって纏め合わせて放つ、砲撃魔法の一つであり…。
そして、その技は魔法使いの中でも特殊かつーーーーー賢者アーチェが持つオリジナル魔法の一つでもあったのだ。
「勝者ーーーカルデラ!!」
倒れていた教師が起き上がり、勝者の名を叫ぶ。
その次の瞬間、その場にいた生徒たちから激しい拍手や歓声の音が木霊する。
だが、そんな賑わう声が聞こえる中、カルデラは朧げな意識のまま、体が傾く……
「大丈夫か?」
ーーーーそんな彼女を、そっと抱き止めたのは神宿だった。
「トオル……」
薄れかける意識の中、神宿を見上げるカルデラは小さく口元を緩ませ、
「私、勝ちましたよ…」
「ああ」
そう、小さな声でカルデラは言ったのだった。
そして、そんな彼女に対し、神宿は口元を緩ませながら、
「後は任せろ」
「……はい」
その言葉を伝えた。
カルデラは嬉しそうに笑い、そして……神宿の腕の中で、彼女は眠るように意識を手放すのであった。
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