自害阻止スキルと自然治癒スキルを与えられた少年は、異世界転生からリタイヤ出来ない!

goro

multiplication sword



その変化は、カルデラにとっても想定外の出来事だった。

見慣れぬ髪留めに加えて、身体中から湧き出るようにして迸る魔力。
そして、その手に持つ藍剣が今や、細長い藍刀へと変わっている。


(どうなってるの…?)


今の自分がどういう状態なのかすらわからないず、ただ立ち尽くすカルデラ。
しかし、その時。



「行きなさい! デボルクの盾!!」



その言葉と共に、宙を浮く盾が再びカルデラに向かって襲いかかってくる。

その開かれた口からは水ではない微かな放電が見えた。
ルティア自身が電撃の魔法を取り込ませたのだろう。


(避けなきゃ…ッ!)


カルデラは間近に迫る盾を前にして、足に力を込める。
ーーーーーだが、気づくのに遅れた為、回避する時間はなかった。


「っ!?」


そして、その直後。
寛大な音と共に電撃を玉が放たれ、カルデラのいた場所に激しいスパークが炸裂する。






眩い放電がその場一帯を純白に染め上げ、観客側にいた誰もがカルデラの負けを確信した。
ーーーだが、その時だった。





「…………ぇ?」







そんな疑問の声が結界の内側、すれすれの場所から聞こえてきたのだ。

そして、生徒たちの視線がその声に導かれるよう振り向かれた、その先で……



「…な、何これ…?」



ーーーそこには、回避した体勢で構えるカルデラの姿があった。
そして、彼女自身。一体何が起きたのか理解できずにいた。







「あの剣、確か、multiplication swordって言ってたよな?」


カルデラの異変を見つめながら神宿が、そうファーストに尋ねる。

「うむ、確かにそう言っておったが、それがどうしたのじゃ?」
「とぼけんなよ。……アレ、そもそもアンタが作った武器だろ」

その言葉通り、カルデラやカフォンの魔法具は大賢者ファーストが自ら作り出した武器である。
そして、カフォンの武器同様に、カルデラの武器にもまた細工が施されていた。


それが、multiplication sword というシステム…。


「確かにアレはワシが作った武器じゃ。でも、本来なら早々に起動するよう設定しておったんじゃぞ? じゃが、中々とアヤツとのシンクロが悪くて」
「…………」
「だからワシのせいじゃないから、そう睨むな!?」

神宿の視線に耐えかね、そう叫ぶファースト。
どうやら冗談で言っているようではない様子だが、

「………ああ、わかってるさ。だけど、それよりも、あの、multiplication って言葉は確か」
「っ、そうじゃな。お主の世界の言葉を借りるなら、乗算という意味になる」
「乗算?」

そう語るファーストは口元を緩ませながら、カルデラの武器を観察するように見据え、


「簡単に言うなら、アレは力を重ねる武器なんじゃよ」



その言葉を口にした、その直後。
ーーーーーー戦況は動いた。





「ッ!!」

地面を蹴飛ばし走り出すカルデラ。


どう言う理由で今の状態になったのかなんて分からない。
あの電撃も、ただ逃げなきゃと思い逃げた。
ただそれだけだった。

ーーーーしかし、それでも今のカルデラには負ける気は一つも起きなかった。
まるで藍刀自身が自信を分け与えてくれているかのように、カルデラは刀を強く握り締めることが出来た。


だからカルデラは走り出した。
今までの分を溜まった思いを全てぶつける為に、全力で走り出したのだ。






「っ!? 何なのよ、貴女っ!!」


ルティアにとって、その光景は信じられないものだった。




何故なら、それまであった形勢が逆転したかのように。

ゲボルクの盾から次々と放たれる電撃の魔法。それら全てを回避するカルデラの姿があったからだ。


(どうなってるのよ!! こんなのッ、ありえないッ!!!)


そして、カルデラは着実とこちらに近づいてくる。
その事に恐怖を覚えたルティアは、

「っこのッ!!!!!」

電撃を纏わせたムチを彼女目掛けて放とうとした。
しかし、それと同時にカルデラは片手を前にかざし、


「ウォーター!!」


カルデラは、水の魔法を唱えたのである。








「力を重ねるって、どういう」

ファーストの言葉に未だに怪訝な表情を見せる神宿。
だが、対する彼女は面白そうに口元を緩ませながら話を続けた。

「そのままの意味じゃよ。あの刀自身には特別的な力ない。言わばただの武器じゃ」
「…………」
「しかし、それとは別に、アレには使い手の力を重ねがけさせるシステムを組み込んでおいた。その結果、あのような素早い動きをすることが出るようになったんじゃよ」
「…………」
「そして、乗算されるのは何も身体だけではない」


カルデラが水の魔法を放つ。
その様子を見据えながら、ファーストは言った。





「力に関連するものなら何でも重ねがけされる。ーーーーつまりは魔法もまた乗算されておるのじゃよ」





その次の瞬間。

ファーストの言葉を証明するようにーーーー乗算されたカルデラの魔法が、ルティアの体は後方へと吹き飛ばしたのだった。




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