自害阻止スキルと自然治癒スキルを与えられた少年は、異世界転生からリタイヤ出来ない!

goro

起動




防御する間も無く放たれ一撃は、カルデラの右肩に大きなダメージを与えた。

「っ…!」

苦痛の表情を見せるも、何とかその場から後方へと跳び距離を取るカルデラ。
しかし、その息遣いが荒く、激痛に耐えている様子が見て取るように理解することができた。






「カルデラ…」

結界の外からカルデラを心配する神宿。
助けに行こうにも、正式な決闘である以上、手を貸すことができない。

「ッ!」

ただ見守るしかできない。
そのことに苛立ちを隠せない神宿は、歯を強くて噛み締めることしかできなかった。


ーーーーすると、その時。
神宿の背後から、



「おぉ、やっておるな」



気配もなく、突然と大賢者ファーストが姿を現し、


「ファースト…」
「ふむ。見た限りじゃと、剣豪の小娘の方がちと劣勢みたいじゃな」


共に見守るように、カルデラへと瞳を見据えるのであった。









最初に受けた一撃があまりにも大きかった。

右肩の痛みによってろくに剣も持てないカルデラは左手一本で剣を持ち、構えている。
だが、そんな彼女に対し、

「来ないのなら、次はこっちからいくわよ?」
「ッ!!」

ルティアはその手に持つムチに対し、魔法を唱えた。


「ボルト」


その直後、ムチ全体に電撃の魔法が備わる。

その激しいスパーク音から直撃は不味いと感じたカルデラは直ぐさま距離を取ろうとした。
しかし、


「デボルクの盾、行きなさい」


ルティアの言葉によって、宙を受く盾がその単身のまま襲いかかってきた。
思いもよらない攻撃に反応が遅れたカルデラは、咄嗟に魔法を反撃しようとした。


「!?」


だが、その直前に彼女は思い出す。

あの盾が、自身の水の魔法が吸収し、そのまま跳ね返したことを。


「ッ!」


手を引っ込めるカルデラは歯噛みした。

魔法はダメだ。
しかし、片手による剣戟では到底防げない。

躊躇した事によって思考が狭められたカルデラは、飛び跳ねるようにして盾から逃げるように真横へと回避した。





だが、その動きをした事自体がーーーー罠だった。




何故なら、回避したその直後。
カルデラの足首に電撃を帯びたムチが絡みついたのだから。





「っ、あああああああああああああああッ!?!?」





全身に行き渡る電撃によって、悲鳴をあげるカルデラ。
激しい電撃によって木霊する音が、その威力を重々しく観客側にいた生徒たちに見せつけていた。


「……っ、ぁ」


全身に魔力を纏っていたおかげもあって、生死には影響は及ぼさなかった。
だが、それでも確かなダメージが貫通していた。

ムチが離れた後、地面に倒れるカルデラ。そんな彼女の体からは小さな煙が漏れだしていた。






「カルデラ!!」

神宿が結界の外から声を上げる。
カルデラは、その声に反応したように、手を動かしその場から立ち上がろうとした。

しかし、


「ぐ、ぅあ!?」


グシャ、と。
歩んでいきルティアの足によってカルデラの手が踏みつけられてしまった。



「あら、どうしたの? 私に勝つんじゃなかったの?」
「ぁぁ、っ!」


痛みと悲鳴。
それらを交えながら荒い息を吐くカルデラ。
対するルティアは、カルデラの持つ藍色の剣を見据え、


「……見た限りじゃ、特注品の魔法具みたいだけれど……使い手がこれじゃあ、ほんと宝の持ち腐れよね?」
「っ、はぁ、はぁ、ッ」


挑発的な言葉を言い続けるルティア。
カルデラが必死に意識を手放さないよう歯を噛み締めていた。
だが、そんな最中で、


「まぁ、あのボロ雑巾みたいな廃貴族の代わりに出るくらいだから、弱いのは仕方がないのかしら」


ルティアは侮辱した。
この場にいない、カフォンの事を。


「ッ!」


カルデラは顔を上げ、ルティアを睨みつけた。
だが、



「何? その眼」
「ぁっ!?」
「ッ、生意気なのよ!! この弱者風情が!!」


その瞳が気に入らなかった。

ただそれだけの為に、ルティアはカルデラの足を更に踏みつけ、その上彼女の顔面を靴で蹴り上げたのである。


「ぁっ、ッ!?!」


真横に蹴り飛ばさたカフォンの鼻からは血を流れ、力なく倒れてしまう。
そんな彼女に対して、ルティアは更に続けて言葉を吐く。



「あぁ、早々。貴女に良いことを教えてあげるけど、私あのトオルって男子が気に入ってるのよ」
「っ、はぁ、はぁ…」
「特に、あのイケすいた顔が凄く素敵でね」


そう言って、クスクスと笑うルティアは更に唇を緩ませ、





「私、あの顔が惨めにも壊れていく様を間近で見てみたいの。だから兄様に無理を言って私のものにしてもらうようにお願いしたのよ?」
「!?」



ーーーそう言ってルティアは自身の真意を語り始めた。


「ねぇ、見てみたくない? 涙を流して助けてくださいって嘆く様を?そこらへんにいる動物みたいに首輪で繋がられる様を?」
「……………」
「楽しいわよ? 絶対に?フフフッ、はははっ!!!」



高らかに笑い出すルティア。
お淑やかなど微塵もなく、彼女の頭の中では、既に勝ちは揺るぎないものになっていた。

そして、この後手に入れたオモチャでどういたぶって遊ぶか。

それしか考えていなかったのだ………。












「……ふざけ、ないで」








ーーーその時。
その言葉と共に、ガツッ、と地面に剣を突き立て、震える体を起き上がらせるカルデラ。
鼻から血が流れ、体には今も電撃によって負わされた火傷の痕が至る所に残っている。

だが、そんな危機的状況の中でも、カルデラは目をそらすことなくルティアを睨みつけ、言葉を吐いた。


「……確かに、貴女には権力があるかもしれない。お金でほとんどのものが買えて、笑える立場なのかもしれない」


貴族として、権利や財力で何かを手入れる。それは誰もがやっている事だ。
しかし、それでも、


「だけどッ!」
「………………」
「私たちは、貴女たちのモノなんかじゃない!! カフォンさんを、トオルをッ、これ以上、私の友達を侮辱しないでッ!!!」



許せなかった。
自分の大切な友人たちが罵られる事が。


そして、許せなかった。
こんな奴に、負けようとしている己自身が。




「フッ、偉そうに…何がモノじゃないよ? 現実がわかっていないのかしら? まぁ、好き勝手言うのは勝手だけど」


ルティアはそう言って再びムチに電撃を纏わせる。
そして、今度こそ己に対して無駄口を叩けないよう、



「そういうことは、私に勝ってから言いなさいよ!」



カルデラの首元に向けて、ルティアはムチを放ったのである。









「カルデラッ!!」


神宿が声を上げ、彼女の名を叫ぶ。
周囲からも生徒たちの悲鳴が聞こえてくる。




だが、そんな状況の中でカルデラは願った。

『勝ちたい』

それは純粋な願い。


『大切な友達を、カフォンさんを、トオルを、守るために!』


懸念を通り越して、心の底から願った。
そして、様々な思いを無視して、ただ一つの願いだけを、




『私は、アイツに勝ちたいッ!!!』





ーーーーーーカルデラは願ったのだ。








『ええ、だって、この剣は』

その言葉は、半日分だけ修行を見てくれアーチェの言葉だった。

そしてーーーーアーチェは、次にカルデラに対して、こう言葉を言ったのだ。



『ーーーーー貴女自身なんだから』










迫るムチ。
伸ばされた先端が、カルデラの首元へと触れようとした。

ーーーーーその次の瞬間だった。


「!?!?」


バチッ!!! という音と共に眩い藍色の光がカルデラを包み込み、そして、同時にムチを後方かな跳ね飛ばした。





「…おい、アレって」

結界の外からその異変に対し、神宿が呟く中、大賢者ファーストは静かに唇を緩ませ、言葉を呟く。


「………ふむ、やっと起動したようじゃな」











藍色の光に包まれるカルデラ。
だが、その状況の中で、


《システム発動ガ受理サレマシタ》


機械的な声が藍剣ーーーーいや形を変えたジグザグの装飾が施された藍刀から放たれる。

そして、その言葉と共に光が弾けたーーーーその中で、


「……………」


刀についていた装飾に似た髪留めが彼女の髪を一括りに纏め上げる。
また全身には今も淡い藍色の光が纏われ続けていた。

そしてーーーー



《ヨッテ、multiplication sword ノ発動ヲ許可シマス》




そこには、藍色に光った瞳を見開くカルデラの姿があった。


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