自害阻止スキルと自然治癒スキルを与えられた少年は、異世界転生からリタイヤ出来ない!
被害者×1
「それで? アーチェはまたファーストに連れていかれたって事か?」
「は、はい……」
時刻は過ぎ、夕方。
神宿が男子寮に帰ってくると、そこにはテーブル上でグッタリとした様子で倒れるカルデラとカフォンの姿があり、どうやら筋肉痛プラス魔力切れスレスレで、へばっているらしい。
後、昼から行われた大賢者ファーストの長い修行(地獄メニュー)の話やアーチェの話などを聞かされた。
……危うく、男の尊厳を失う羽目になりかけた事も。
「…………はぁ」
神宿は重いため息を漏らしつつ、未だグッタリとした少女二人を眺めながら、
「まぁ、アイツは師匠のそれまた師匠だからな。仕方がないっていえば、仕方がないんだろうけど」
「っ……ちなみに、トオルもあんなキツイ修行をしたんですか?」
親の仇を見つめるかのごとく、睨みつけてくるカルデラとカフォン。
神宿は口元を手を当てながら、
「ん〜。……いや、俺のはもうちょっとオブラートだったような」
「ずるいっ!? 私たちだけ酷いなんてっ!!」
「仕方がねぇだろ。お前ら、アレに直接目をつけられたんだから」
と、呆れた様子で言葉をつく神宿。
対して少女二人はというと、
「ねぇ、こんな事なら、あの時あの人に潰してもらえばよかったんじゃない?」
「うん、私たち、余計なことしたよね」
と、カフォンとカルデラがコソコソ話で不吉な事を口走っている。
「………」
神宿は短い沈黙の後、小さく息を吐きつつキッチンへと向かっていく。
そして、
「なぁ、お前ら飯抜きでも」
「助けてよかったわよね! カルデラさん!!」
「そうですね! カフォンさん!!」
手のひら返しのように、カルデラたちは笑顔を振りまくのであった。
ーーーーそうして、小話も終え、神宿たちはやっと寛ぐ時間の中、夕食にありつくのであった。
そして、その頃。
ランプの明かりが一つだけ、となる。
暗い室内の中、
「あ、あのー?  し、師匠ー? 」
「ん?なんじゃ?」
未だ手足を縄でぐるぐる巻きにされているアーチェは、震えた声で大賢者ファーストに尋ねる。
「……な、何、つくってるんですー?」
アーチェが見たもの。
それは大賢者ファーストがキッチンの前に立ち、フライパンを振るう姿だった…。
ーーーー後、フライパンからは紫色の湯気が出て、
「ふむ、いやな。ちょっとの間じゃが、小僧の料理を食べているうちにワシも料理というものに興味を持ち始めたんじゃが」
「!?!?!?!(必死に縄を解こうともがくアーチェ)」
「試しにモンスターどもに試食させてみたんじゃが……どいつも即死してしまうんじゃよ」
更に無茶苦茶不吉な発言が飛び出てきて、激しくもがくアーチェ。
だが、魔法で強化された縄が解けることはなく、
「何、大丈夫じゃ。それからワシも少し料理の腕が進歩したんじゃぞ?」
「ぅ、っ、うう…ど、どこまで?」
「モンスターたちが、ゲロ吐いて一晩気絶するぐら」
「トオルくんーーー
っ!! 助けてーーーーっ!!!」
ジタバタ激しく動くも縄は解けない。
そうしている間にも、大賢者ファーストは手に持つフライパンから具材を皿に乗せ、スプーンで一口分をすくい始め…、
「心配する必要はない」
「っ、何が」
「きついのは、最初だけじゃ」
ズボッ!!! とアーチェの口内に向けてスプーンが突っ込まれた。
「むっ………ぅぅ…ぅううううううううううううううううううう〜!?!?!?!」
こうして、アーチェの一日は顔面蒼白気絶で幕を閉じるのであった。
「ん?」
「どうしたんですか、トオル?」  
「あ、いや、何か…師匠の悲鳴が聞こえたよう気がしたんだけど…まぁ、気のせいか」
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