自害阻止スキルと自然治癒スキルを与えられた少年は、異世界転生からリタイヤ出来ない!

goro

故に大賢者である者



激しい戦闘音が鳴り響く状況の中。
長く続く館の通路を走っていた神宿は、怪訝な表情を浮かばせながら隣で走るシグサカに声を掛ける。


「なぁ」
「ん? どうしたんだい?」


シグサカがその声に反応する中、神宿は視線を頭上に向けながら、そこにあるモノに指をさし、




「あんなの、前からあったか?」




そう言葉を尋ねた。

それは長く続く通路の天井付近。
並び続く道と同じように、まっすぐと列を並んで展開される、宙を浮いた菱形の枠のような物体。

しかも、その枠の中には青白い光がまるで一閃が突き抜けるようして何度も何度も突き進みながら加速を上げ続けている。



「いや……僕もこの館には結構いるけど、あんなの見たことない…かな」


その光から見て、何らかの魔法である事は、何となく理解できる。

シグサカの返答に神宿もまた眉間を悩ませた。
と、そんな時。



『ーーならーっ!」
「「ん?」」

突然と神宿の脳内に直接語りかけてくるような声が聞こえてきた。
しかも、どうやらシグサカも同じらしく、互いに視線を交わらせた中ーーーーー




『さっさと起きたんなら、早く来いと言っておるのじゃッ!!!』



この場にいないはずの大賢者ファーストによる大音量の怒号が、少年二人の脳内に激震をぶっ叩いてくれたのである。

共に頭を抑えながら、頭痛に顔をしかめる神宿とシグサカ。

しかし、そんな中でファーストは、



『後、お主ら二人に手伝って欲しいことがあるのじゃ!』


その大賢者の口からーーーー一つ作戦が言い渡された。













神宿に対して、出された作戦。
それは戦乙女と化したアーチェの一撃を一度でいいから防げ、という内容だった。


「ッ!?」

ファーストの目の前に飛び出し、間近に迫る槍を前にした神宿はその熱気に顔をしかめる。
だが、幸いにも自害阻止スキルの魔法陣によって進行は留められ、現状今も攻撃をしのぎ続けている。


それは目に見える攻撃であったが為に、成功した作戦の一つであり、戦乙女の持つ未来の攻撃を確定させる『スクルド』でなかったが為に防げた攻撃だった。



「ッ…ぐッ!」


そして、視覚として感知できない攻撃をされれば、自害阻止スキルはその効力を発揮できない。
ーーーだからこそ、戦乙女が攻撃手段を変えるまでの短い時間。


それが、神宿に許されたーーーー限られた言葉を吐く時間だった。





「ッ、何やってんだよ、師匠!」


怒号のように声を上げて叫ぶ神宿。
対する戦乙女は目を細めながら、


「《ーーー何を言っている? 私は貴様の師匠では》」
「当たり前だろうがッ!! そもそも、俺が話してるのはお前なんかじゃねぇ! 賢者アーチェに俺は話しかけてんだよっ!!」


上位の存在に対して平然と暴言を吐く神宿は、その瞳を凝らしながら戦乙女ワルキューレを。

ーーいや、その中で眠るアーチェに対して言葉を言い続ける。



「アーチェ! さっさと目を覚ませよッ! お前、それでも賢者なのかよッ!!」


激しく荒れる炎の熱に耐えながら、神宿は歯を噛み締めながらも食ってかかるように叫ぶ。
そして、同時にこの世界に来て、一年という短い時間の中で共に暮らしたいアーチェとの記憶を思い返した。


「俺は……まだお前から出された修行もッ、何と終わっちゃあいねぇッ!!」


ーーーーーリタイヤできないこの世界で、精一杯色々な事を教えてくれた彼女。

ーーーーー魔法の知識もない自分に、手を差し伸べてくれた彼女。

そして、



「お前の喜ぶ姿をーーー俺まだ、ちゃんと見てもいねぇんだよッ!!」



恩返しをしたい。
アーチェの期待に答え、口元を緩ませながら笑ってくれるーーーそんな師匠の顔を見たい。

ーーーまだ、それすらできていないのに、こんな所で終わりになんてさせたくない。


だからーーーーー






「俺にはまだ、お前がッーーーーアーチェが必要なんだッ!! だからッ、戻って来いよッ、師匠ッ!!!」



その心の思いを胸に神宿の叫んだ。
そして、その思いに呼応するように、自我阻止スキルのーーーーー魔法陣が強化されていく。



『死にたくない』という感情と「こんな所で終わりにしたくない』という感情。


それら二つが交わり合い、自我阻止スキルの力は更に引き出されていく。




「《ーー戯言を》」

槍に手をかざし続ける戦乙女ワルキューレはそう唇を動かし、神宿の言葉を不定しようとした。

しかし、その時。



「《ッ!?!?》」


その直後。

戦乙女の中に眠るアーチェの感情が騒ついた。

それと呼応するように、同時にまるで大きな脈を打ったかのように彼女の体が揺れ動き、槍の勢いが一瞬弱まる。




ーーその瞬間を、大賢者ファーストは見逃さなかった。




『今じゃ!』




大賢者の声に応じたように、戦乙女のいる至近距離。
その瓦礫の物陰。死角から飛び出したシグサカが、力強く走り出す。

『ッ!』

こんな近くまで、敵が来ていることを察知できなかった。
その事に対し、表情を歪ませる戦乙女は、即座に槍の方向をシグサカにへと向け変えようとした。

だがーーーその直後だ。





《我が主に手をあげる者よ》




それは突然だった。
戦乙女の背後、何もない空間からーーソレは出現したのだ。




『ダーネスカーズ』

転生する際、女神から与えられたシグサカが持つ女神のスキル。
その効力はーーーーーーシグサカに敵意を向けた者を対象に、生命力、魔力、その他力を奪い取る呪いの化身を出現させることだった。


「ッ!」

しかし、神に近しい存在でもある戦乙女ワルキューレにとって、その呪いが効くかは五分五分だった。
仮に接触できたとしても、槍や杖による一撃で簡単に相殺されてしまう恐れがあった。





だからこそーーーーー力が弱まった今がまさに、その確率を上げる勝機そのものだった。



「ダーカー!」


ダークネスカーズに対し、あだ名のようにそう呼ぶシグサカはーーーーー戦乙女を見据える。
そして、




「神気をーーー奪え」




その言葉を口にした直後。
戦乙女としてのーーー力の源となる神の気がゴッソリと喰われた。
そして、その瞬間。ノイズが走るかのように、戦乙女の姿が一瞬アーチェに戻りかけようとする。
ーーーーしかし、


「《ッ!! まッまだだッ!!》」


再びその肉体にへと止まろうとする、戦乙女ワルキューレ。
その光景に対し、神宿が歯を噛みしめた。




 


だが、その状況こそがーーーーーーファーストの狙いだった。




『いや、これでチェックメイトじゃ!』




大賢者ファーストは手のひらを前にかざした、その直後。
戦乙女の真上に巨大な魔法陣が展開された。
そしてーーーー



『ーーー故に、言葉を送ろう』



大賢者ファーストは言葉と共に、指を鳴らす構えを作りながら、




『ーーーー我は魔法であり、魔法は我である』



パチン! と音を鳴らした、その瞬間。





その場から離れた場所。
館の通路にいくも展開されていた菱形の枠が呼応する。


その枠内を通り続けていた青白い光は、加速と同時にエレルギーを蓄積させーーーその姿を一撃の槍にへと変質させ、そして、大賢者の鳴らした音に導かれるように、その光の槍は一瞬にして転移し、



「《!?!?》」



真上を見上げた戦乙女の頭上。
そこに展開した魔法陣からーーー発射された。





「《!!!!?!!!!!!》







ーーーーーー水聖の一槍は、轟音と共に戦乙女ワルキューレの叫びを打ち消した。

そして、眩い光とともに戦乙女は地面に突き刺さるようにしてーーーーーー














光が途絶え、水聖の一槍が消える中。

残ったのは、砕け散った地面とその中心。
その場にグッタリと倒れる戦乙女ワルキューレの姿だった。




『お主らはそこで待っていろ』

そう神宿たちに言葉を言いつけ、ファーストは瓦礫の上を飛び跳ねながら、倒れる戦乙女の元へとたどり着く。

「《…ぐ、ぁ………ぁ》」
『ふむ。意識が残っているのは、ちと想定外じゃったな』

おちゃら気にそう言葉をつくファーストに対し、目を凝らす戦乙女は再び怒りの形相を見せる。
だが、どれだけ感情が強かろうとも体に力が籠らない。


それほどに、あの一槍には強大な威力が秘められていたのである。

やれやれ、と溜息をつくファーストは呆れた様子で言葉を続け、

『まぁ、今回はこっちに役者が揃いすぎておったのじゃ。……じゃから、お主は負けた。仕方がない結末じゃよ』
「『ッ…な、にが》」
『まぁ、それでもお主の力は十分にこのワシ。大賢者を凌ぎきる程のものじゃった。ーーーーーじゃから、ここは一つ。ワシの力の正体、その一つを教えてやるからそれで勘弁じゃ』


ファーストは片手に小さな魔法陣を展開させ、戦乙女の胸元にそれをかざし、

「《ぐ、がぁ!?》」

全身に光を纏わせ、苦し気な声を吐き出す戦乙女に向けて、


『……ワシの力はな』



大賢者ファーストは口を開いて、言った。





『可能性のある者の力を、使う事が出来るじゃよ』
「《ッ!?!?》」
『簡単に言うならーーーーー賢者になる、その可能性を持つ者の力を使う事が出来る。それがワシなのじゃよ』


激しいスパークが鳴り響く中、既に戦乙女の意識があるかすらわからない。
だが、その中でファーストは言葉を続け、


『そして、その力に限りはない。この世界に限らず別の世界において適応される。賢者になる、その可能性を持つ者が生まれ、現れればーーーーそれ自体がワシの力になる』





彼女は不敵な笑みを浮かべながら、言葉を言い残すのだった。





『故にーーーワシは大賢者の称号を落とす事はない、最強なのじゃよ』











そして、激しいスパークが落ち着いた中で、ファーストの目の前で衣服なく倒れるアーチェに対し、


『じゃから、また機会があれば、いつでもかかって来い。ワシの暇つぶしになるからな。……しかし、まぁ、それがいつになるのかはーーーーこのワシにもわからんのじゃがな』


そう言葉を言って、ファーストは戦いを締めくくるのであった。




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