自害阻止スキルと自然治癒スキルを与えられた少年は、異世界転生からリタイヤ出来ない!
戦乙女ワルキューレ
戦乙女ワルキューレ。
神の使いとも呼ばれる、人間やモンスター、その他の生き物たちとは、まるで違う次元に立つ存在。
そんなバケモノ以上のバケモノに対し、賢者バルティナは動揺を隠せないまま、その頰に冷や汗を流す。
「…ははっ。貴女のことは昔から気に入らなかったから、いつかその化けの皮を剥がしてやろうと思ってたんだけど」
「《………》」
「まさか……そんなバケモノだとは思いもしなかったわ」
賢者において得意とする魔法の種類は様々である。
戦闘に特化した者や、付与に特化した者、守りに特化した者もいる。
だが、そんな中で賢者でもあるバルティナにおいては、そのどれにも属さないほどに、彼女は特化した魔法を持ち合わせてはいなかった。
そして、彼女の武器と言えるものーーそれは知識。
古から現代にまで続く魔法の数々、それらを独学で頭の知識に組み込み、魔法を何重にも重ね、強い魔法のように見せる。
それが彼女ーーー賢者バルティナの魔法だったのだ。
そして、ーーーーだからこそ、気に食わなかった。
圧倒的な力を手にしていただけで、賢者へと上り詰めたアーチェが気に食わなかった。
彼女の存在が、自分自身の価値を貶める。
賢者として立ち続ける中で、バルティナは自分自身に対し、消えることない劣等感を抱いてしまったのだった。
「ーーーーーーでもね」
緊迫とした空気の中、目の前のバケモノに怯むことはなく、バルティナは両手をかざしながら魔力を込める。
「確かに貴女は強い、それはもう大賢者様に届くほどかもしれない。……それほどの力を貴女は有している」
彼女の力に反応するように、何もなかった平凡な壁から次々と魔法陣が増殖するように展開されていく。
そらはまさに、防壁に回していた魔力を、全て攻撃に回している光景でもありーー。
ーーー次に放つ一撃こそ、バルティナの持つ最強の攻撃。
そう呼んでも過言がないほどの出力をチャージしていく…。
そして、未だ何もしてこないアーチェであったワルキューレに対し、
「ーーーだけど、貴女が今いるここは私の城なのよ……例え、バケモノじみた力があろうとも、この数と力には誰だって叶いっこないんだからッ!!」
バルティナは一斉に魔法陣から稲妻の槍を打ち出した。
その驚異的な威力はその場だけには止まらず、自分自身でさえ死滅してしまうかもしれない。
確実に生死に関わる威力の魔法だった。
「《ーーーーゴンドゥルーーーー》」
その時。
戦乙女ワルキューレの手に持たされていた剣がーーー杖へと変わった。
そして、その杖を軽く振ったーー刹那。
「…………ぇ」
ーーーーー吹き飛ばされた、音が聞こえなかった。
それはまるで本にある次のページを開いたかのように、一瞬だった。
稲妻の槍、魔法陣、そして、バルティナもが壁に埋めつけられたように吹き飛ばされていたのだ。
そしてーー
「ぶっはぁ…がァ…ッ!?!?!?」
彼女の肉体が、遅れてその瀕死にも到るほどのダメージを悟る。
口から血を吐き出すと同時に、全身から肉が裂け、血が流れ落ちる。
ーー理解、できない。
思考が定まらない中、虚ろな瞳で顔あげるバルティナ。
その目の前でーーーーー
「《貴女は死ぬべき者のようだ》」
赤い瞳。
動向が見開き、バルティナに死の宣告する戦乙女ワルキューレの顔があった。
「ひっ!?!!?」
その瞬間、バルティナの心は一瞬にして絶望に塗り染められる。
だが、そんな声に何の反応も示さない彼女は告げる。
「《今より、貴女を死の先へと連れていく》」
「ぃ、いや……いゃ! ま、まだ! まだ!! 私に、にばぁ、ゃるべぎ、ごどがぁッ!!!!」
「《ーーーーゲイルスコグルーーーー》」
懺悔のように、泣きながら動かない体で叫ぶバルティナ。
そんな彼女の言葉すら耳を貸さない、戦乙女ワルキューレはその手に紅の槍を出現させる。
そしてーーーーーそれは一瞬だった。
一切のためらいもなく、その裁きの槍は…放たれた。
『ボーファラス・ファヌビス!!!』
ーーーーー刹那。
バルティナを守るように張られた光の壁が、槍の進行を妨害する。
そして、激しい力同士の火花が散る中で、バルティナの姿が一瞬にして消失した。
戦乙女ワルキューレが目を細める。そんな状況の中で、
「ーーー悪いのじゃが、アレでもアヤツは数少ない賢者のうちの一人なのじゃ。ーーだから、そう簡単に殺させるわけにはいかん」
床に散らばる壁の破片を避けながら、足を動かしやってくる一人の少女。
白い髪だったそれは藍色に染まり、またその手には白い刀が握り締められている。
そして、その少女はーーーー大賢者ファーストは戦乙女ワルキューレを見据え、
「《ーーーー貴女は》」
「久しぶりの再会で悪いのじゃがーーーーーーさっさと、ワシの弟子を返してもらうぞ」
大賢者と戦乙女。
二つの強者がーーーーーーこうして再会を果すのであった。
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