自害阻止スキルと自然治癒スキルを与えられた少年は、異世界転生からリタイヤ出来ない!

goro

解かれたモノ





キャロットは手を前にかざし、魔法を放つ。

「エアロ!!」

それは風の魔法の中でも、上位にあたる強力な攻撃力を秘めた魔法だった。



「っ! ウォーター《スプレッド》!」


神谷は迫る風の塊に対して真横に飛びながら回避しつつ、同時に水の魔法を放つ。

プラスチェインによって特性を備え付けた、炎、風、土、の中でも一番に殺傷能力の少ない攻撃。
ーーーーーーしかし、その魔法でさえ、


「エアロ!」


キャロットが続けて放つ魔法によって、簡単に相殺されてしまう。


(っ! ……やっぱり、純粋的な力の差じゃ勝てないかっ)


キャロットから続けて放たれる風の魔法をかろうじで避けながら回避していく神宿。
だが、それとは同時に、神宿はこんなにも攻撃が当たらない事に小さな疑問を抱いた。

ーーその時、



「キャロット」
「…っ」


後方で椅子座りながら、戦いを見続けていたバルティナがそう彼女の名を呼んだ。
そして、




「ねぇ、どういうつもりかしら? もしかして、手を抜いているつもり?」
「っ、い、いえ! 違います! わ、私は」
「なら、本気でやりなさい。ーーーーーいいわね?」


眼光とも呼べる賢者の威圧的な視線に対し、キャロットは顔色を苦悩で満たした。



そして、ーーーーーその言葉の通り、キャロットは手を抜いていたのだ。



それは戦いたくない、という彼女自身の感情がそのまま魔法にして現れたかのように、



「キャロット、お前…」
「すみません、トオルさん……でも」

悲しみに満ちた瞳で神宿を見つめるキャロットは、小さく唇を紡ぎ、



「ーーー私にはッ、まだッ」


両手をかざし、さっきよりも強力な魔力を練り上げていく。

ーーーーーそして、




「エアロガ!!」




その次の瞬間、強烈な風の魔法が高速で放たれ、神宿へと直撃した。






強風によって作り出される轟音。
直撃した際に聞こえた奇怪な音。

キャロットは目をつぶり、その先に見えるだろう光景に対し、泣き震えるように体を震わせたーーー





「ウォーター《バインド》!!」




そのーーー次の瞬間だった。
突如目の前から飛んできた水がキャロットの体に巻きつき、まるで縄で縛るかのように、彼女の体を拘束する。
そして、


「話が終わるまで、そこで待ってろ」


そう優しげに声を掛ける、少年。
怪我一つとしてない、無傷な状態で立つ神宿の姿がそこには健在していた。









戦いを観察する中で、何もなかったかのように目の前に立つ神宿。
そんな彼に、賢者バルティナは問う。



「ねぇ、今の魔法陣は一体何かしら?」
「さぁな、ただの防御の魔法とかじゃないのか?」
「ふふっ……あまり私を舐めないでくれるかしら? これでも私は賢者なのよ?」


キャロットの攻撃は確かに強力なものだった。
それこそ、上位の魔法でさえなければ防げない、それほどの攻撃だった。


だが、その魔法が直撃しようとした際に神宿が見せたーーーーいや、本人の意思とは関係なくして現れたそれは上位の魔法。いや、それ以上の魔力を秘めた強靭な防壁の魔法陣だった。




神宿本人の魔力とは釣り合わない、上位の以上の魔法。
そして、それを持つ勇者候補。

そこから導き出されるのはーーー




「なるほど、ねぇ。それが貴方の。……いえ、女神から与えられたスキルってわけね」
「ああ。……恩恵でもなんでもない、ふざけたスキルさ」


神宿はバルティナを睨みつけ、そして、同時に手を動かし魔法を唱える。

アローとボム、それらを組み合わさせたプラスチェインの魔法をバルティナに向けて構え、



「あら、もしかして、私を脅しているつもり?」
「ああ……悪いけど、ここから帰らせもらうぜ」
「あらあら……それは怖い」

ワザとらしく、心にも思ってない言葉を口に出すバルティナ。



「ねぇ、貴方。こんな茶番は止めて、私の弟子になってみない?」
「嫌だね。それに、俺にはもう師匠がいる」


そう……、と残念そうに目を伏せ、息を吐くバルティナ。
そんな彼女に、神宿は警戒を怠らず、目を細めながら魔法を構える手に力を込めた。




















「それじゃあ、仕方がないわね。だって、自分の身を守るためだもの」












その時。

ーーーーーバルティナがそう言葉を発した。
ーーーーーーそれは神宿に対して、ではない。



ーーーーーその言葉は。





「…っぁ、ッッ!?」





ーーーーーー今もなお水の魔法に拘束されている、キャロットに対して。

そして、その次の瞬間。





ーーーわ少女の叫びが館中に響き渡る。






「ゃ、やめッ、いャアああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」






バキィン!!! と、何か鎖のようなものが砕け散る音が響いた。
そして、力なく涙を流しながらグッタリと倒れるキャロット。

神宿はそんな彼女に振り返ーーーーーー








「ッァ!?!!?!?」









ーーーる、ことは出来なかった。


それは、音もなく。
それは、姿も見えない。


だが、そこにいた何かによって神宿の体は防御する間もなく、轟音と共に壁へと叩きつけられた。


そして……、





ボタッ、ボタボタボタボタボタボタボタボタボタボタボタボタボタッーーーー…と。



その音はキャロットの耳に届いた。


虚ろな瞳で顔を上げた彼女。
その視線の先にはーーーーーー



「ぁ……ぁぁっ……ぁ」



床一面に広がる小さな赤い海。
そして、その中央にピクリとも動かず、横たわる一人の少年の姿があるのであった……。







「いゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」



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