自害阻止スキルと自然治癒スキルを与えられた少年は、異世界転生からリタイヤ出来ない!

goro

それはお決まりの展開であり





神宿が一人で修行場へと向かったのには、ある理由があった。


それはオリジナルの魔法の開発ーーーではなく、カフォンを助ける際に使用した、二つの特性を備え付ける魔法、通称ーー

『プラスチェイン』

を習得するためだった。







「…よし、やるか」


あの時のような危険性を十分に考慮しながら、カフォンがいないこの時間を利用する神宿。


「それじゃあ、まずは……ウォーター」


手のひらを前にかざし、いつものように宙に停止する水の塊を作り出す。
そして、そこに加えるように、


「《スピン》」

《スクリュー》に比べたら、断然と回転が弱い特性を備え付けた、水の内部ではグルングルともう一つの水が回転している。

少しでも反動を抑えるため、神宿はわざと弱い魔法を使用したのだが、


(これに続けて、もう一度……)


神経を研ぎ澄ませながら、神宿は再び特性を備え付けた。

ーーーーー《スピン》と。


だが、その直後。
甲高い音に共に、




「!?」




バシャ!! と神宿の手から弾けて、床に零れ落ちてしまった水の魔法。
更に加えて、神宿の手にはーー



「っ……」


数カ所にも及ぶ薄な切り傷が出き、その切り口からは微かに血が滲んでいた。




幸い女神のスキルでもある自然治癒スキルのおかげで、軽傷の怪我もあっという間に回復することが出来る。
だが、



「はぁ……これでもダメか…」



色々と考え、弱い特性をと思って付け足した、アップチェイン。
あの時、大きな怪我をしつつも何とか成功したのが奇跡だったのでは? と本気で思いかける神宿はもう一度溜息を吐き、




(単なる組み合わせ、重ね合わせじゃダメなのか? ………一度、危険も承知で)




と、考えかけた。
ーーーーーーーーその時だった。




強烈な破壊音に続き、カフォンの悲鳴が鳴り響いた、のは。












「ッ、おい! 大丈夫か!!」


破壊と悲鳴。
その二つの音に対して、神宿は直ぐ様カフォンのいる風呂場へと駆けつけた。


「ぇ!? あ、ちょっ!?」

だが、そんな彼の登場に対し、驚きと赤面、その二つを両立させたカフォンは即座に体を湯船に引っ込める。

ーーーというのも無理はない。


何故なら、彼女は今。一糸纏わぬ姿でそこにいるのだから。









だが、今はそれどころではなくーーー






「ーーーートオルくん?」






その聞こえてきた声に、ピタリと固まったのは神宿だった。


ギギギギィ、とまるで壊れた歯車のようにゆっくりと視線を動かす神宿。

視界に映るのは、風呂場であり、そこに裸のカフォンがいるのは十分に理解できる。
だが、それ以外は何も理解できなかった。


何故、風呂場の壁に大きな穴が空いるのか?
そしてーーーーー




「し、師匠……?」



魔女をおもわしき衣装に加えて、髪で隠れていない瞳を爛々と光らせる女性。


何故そこに、根絶の魔女でもある彼女。


アーチェがいるのかーーー





「ーーートオルくん?」
「……ぅ」


ニッコリと笑いながら、そう名前を呼ぶアーチェ。
だが、約一年と一緒にいた神宿だからわかる。


あれはーーー完全にブチ切れ状態で見せる、笑みだと。



「ど、どうしたんだよ、い、一体」



後ろにたじろぎながらも、神宿は慎重に言葉を選び、声を出す。
少しでも怒りを鎮めてもらうべく、彼は必死に頑張ろうとした。

だが、




「ねぇ、これってどういうことですか? トオル?」



え? と、その声に振り返る神宿。
すると、そこにはいつの間に侵入したのかわからない少女ーーー貴族カルデラの姿があった。

そしてーーーー額に青筋を立てる彼女の瞳には、明らかに光がなかった。




「トオルくん?」
「トオル?」



前はアーチェ。
後ろはカルデラ。


両者二人に挟まれる形となった神宿は、ダラダラと滝のように汗を流しながら、ゴクリと唾を飲み込んだ。
そしてーーーー




愛想笑いのように、笑みを浮かべーーー








「えっ、ちょっ、ぎゃああああああああああおあああああああああああああああああああああおああああああああああああああああああああおああああああああああああああああああああおああああああああああああ!?!?!」




パチン! という音と共に、直後に召喚された人造植物によって足首を掴まれた神宿はーーーーそれはもう、高い高い、のスカイダイブを体験する羽目に合わされるのであった。






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