自害阻止スキルと自然治癒スキルを与えられた少年は、異世界転生からリタイヤ出来ない!
憂鬱と影
壁破壊の後、あれから修行は三時間ほど続いていた。
隣で共に修行をするカフォンが荒い息を吐きながら、ゼーハーゼーハーと息づいている、その一方で神宿は固まっていた腕をグルグルと動かしつつ、
「それじゃあ、今日はこれで終了な。また明日もここで修行するから」
「す、スパルタ…すぎ、よ…」
「はぁ…あのなぁ。まだ俺だから、これだけで済んでるけど、仮に師匠の修行だったら、こんなんじゃすまねぇんだぞ?」
「はぁ、はぁ……って、いうと?」
「人造植物に拘束されて、それから」
「ごめんなさい!もう聞きたくない!!」
その先の言葉が怖くなり両耳を手で塞ぐカフォン。
そんな彼女に神宿はもう一度溜息を吐く。
そうして時間は流れ、日差しが動くとともに夕暮れが近づこうとしていたのであった。
ーーーーーーその頃。
男子寮から離れた、ある二つの地点にて、
『…………』
不気味な音を出しながら進み続ける謎の二つの影が、そこにはあった。
そして、それらは同じ行き先。神宿たちのいる男子寮に近づこうとしていた。
日が沈んだ頃。
「ご、ご馳走さま…」
「おう」
神宿の手料理でもある野菜炒めの夕飯を食べ終えたカフォンは、口元に手を当てながら、深く考え込んでいた。
「ん? どうした? 不味かったか?」
「え!? あ、違うのよ!? 不味いとかそんなのじゃなくて」
「?」
彼女はしばし考え込みながら、眉間にシワを寄せつつ口を開く。
「むしろ、私が作るよりか断然美味いわね、って思っただけよ」
「………なぁ、この世界の女の魔法使いって、皆んな料理下手なのか?」
と、真剣に尋ねる神宿なのであった。
そうして時間が再び流れて、夜の八時だいを示す頃、
「絶対、絶対に覗かないでよ!」
「あーわかってるから、さっさと行け」
体についた汗を落とす為、浴室へと向かおうとしていたカフォンが顔を赤らめながら神宿に忠告をしていた。
だが、神宿は軽い調子で彼女をあしらいつつ、
「全く……」
深く溜息を吐いた。
そしてーーーー彼女が去り、誰もいなくなったことを確認した上で、
「……よし」
神宿は一人。再び、修行場へと足を赴くのであった。
男子寮の浴室と聞いて、最初は汚いイメージを持っていたカフォン。
だが、中に入ってみると、そこは隅々まで清潔が保たれた、新品のままの風呂場だった。
そして、
「全く、ちょっとは気にしてくれてもいいのに…」
そうぼやきながら、体を洗い、湯の溜まった浴槽にへと体をつけるカフォン。
スラリとした足元を交差させ、少し貧相なその胸元が浸かるほどまで体を湯に沈めた彼女は、
「はぁ〜」
あまりの気持ちよさから、そんな間抜けな声を漏らした。
……ここまで何も気にせず、ゆっくりとくつろげたのは、本当にいつぶりだろうかと思う、カフォン。
「…………」
本来なら、今頃、悪化した悪評に心が押し潰され、下手をすれば学園を辞めていたかもしれなかった。
だけど、そんな彼女を救ってくれ。
それがーーー神宿だった。
そして、そんな彼に対してカフォンはーー
「………私、そんなに魅力…ないかな…」
頰をほんのりと赤くさせるカフォンは、そう言って胸元に手を当て、そっと息をついた。
ーーーーその、直後だった。
バキャン!!!という奇妙な破壊音と共に、
「っ、きゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
カフォンの悲鳴が男子寮に響き渡たったーーーーー
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