自害阻止スキルと自然治癒スキルを与えられた少年は、異世界転生からリタイヤ出来ない!

goro

可能性




「よし、それじゃあ、その五ヶ月後にあるダンジョン攻略に参加するってことで」
「……ねぇ、トオル。それ、本気で言って」
「ああ、マジだ。大体の罠関連はもう経験済みだしな。ーーそれに、弟子の不始末ってことで、中身の変更は無しにしてもらったし」

そう言って、神宿はチラりと視線を横に向けた先で、



「し、仕方がない……の、じゃ…」


気まずげに渋い表情をするファーストの姿があった。


後、それを見ている神宿の顔は…凄く黒かった。
それはもう、悪者かというほどに、不敵な笑みを浮かべていた。








「っ、しかしじゃな! 例え罠がクリア出来たとしても、モンスターとの戦闘はお主らの実力が必須になるのじゃぞ! そこは分かっておるのか?」

気分を入れ替え、そう言ってくるファーストに神宿はうるさいそうに片耳を抑えながら、溜息をつく。

「ああ、そこは分かってるよ。まぁ、それ自体は個人の修行しだいだし」
「あ、確かにそうですよ!! だって私、攻撃系の魔法はあまり得意じゃないんですよ!?」
「まぁ、そこは死ぬ気で頑張れ」
「えっ冗談で」
「いや、冗談抜きで」
「真顔で言った!?」

そんな〜! と泣きべそをかくカルデラに神宿は再度と溜息を吐く。
すると、それに加わるように、


「あ、あの……」
「ん?」


カフォンが申し訳ない様子で手を挙げ、話しかけてきた。


「わ、私もあまり攻撃系の魔法は得意じゃなくて」
「は? いやいや、お前俺と戦ってた時とか普通に魔法ぶっ放してたじゃ」
「攻撃魔法が全然使えないってわけじゃないわ。…ただ、その、コントロールが下手で」

手をモジモジさせながら、そう小さな声を出すカフォン。
余計に意味が分からず眉をひそめる神宿だったが、そんな中。
隣で話を聞いていたファーストは、何か納得した様子で手をポンとつき、

「なるほどのう。道理で火力が馬鹿げていると思ったのじゃ」
「は? それって、どういう」
「む? どういうも何も」


ファーストはキョトンとした様子で言った。




「コヤツの魔法、直撃したら軽傷じゃすまない威力の魔法じゃったんじゃぞ? 気づかなかったのか?」





……、と。
再び、その場に沈黙が落ちーーー



「はぁ!? おっ、お前、そんな魔法俺に無茶苦茶撃ってきてたのか!?」
「べ、別にいいでしょ!? 試合だったんだから」
「よくねぇよ!? 試合は試合でも、死闘じゃねえんだぞ!?」


限度とかあるだろ普通っ!? と叫ぶ神宿にカフォンは顔を真っ赤にさせながら、顔をうつむかせ、

「だ、だって……どうしても上位の魔法使おうとすると、コントロールの舵が飛んじゃうんだもん…」
「いや、だもん…って」

コントロールの効かない魔法は敵にとっても脅威だが、同時に自身にとっても身を危険に晒してしまう恐れがある。

「はぁー。ってことは、カルデラは攻撃系の魔法の練習で、後のカフォンは魔法のコントロールの練習、ってことになるのか?」
「「…………」」
「ん〜、それにしても約五ヶ月。何とか間に合うか」

と、悩み混む神宿だったが、

「まぁ、無理じゃな。個人でやっておるようでは」

即、不躾な言葉で失敗することをファーストは断言した。




「いや、無理って」
「よくよく考えてみるのじゃ。お主はともかく、コヤツらは魔法の基礎があまりにも不十分なんじゃぞ? そこの剣豪の小娘は、まぁ、あのマーチェとかいう男に頼めば何とかなるかもしれん。じゃが…」

そう言って視線をカフォンにへと向け、


「周りから悪評を受け、更には女子寮での立場も危うい、この小娘はどうじゃ? 修行どころではないじゃろ?」
「…………」
「まぁ……確かにそうだな」


今日起きた悪評は直ぐにでも広まるだろう。
しかも、生徒だけでなく教師にまでそれが伝わってしまっている。

そんな状況の中で、カフォンが積極的に勉学や修行に取り掛かった所で、果たして助けてくれる者は現れるだろうか?

また、十分な修行が行われてるか、どうか…


「ご、ごめんなさい…」
「いや、別に責めてるわけじゃねえから……」

そう言って、口元に手をやり考え込む神宿。
その一方で、床を見つめながら顔を暗くさせるカフォン。

解決できないその問題に、悩み込む二人
。すると、そんな中で、





「まぁ、手はないというわけではない」




大賢者ファーストは、突然とそんな言葉を口にしてきた。



そして、神宿とカフォン。
二人の視線が集中する中で、ファーストはニヤリと笑いながら、




「何、簡単な事じゃ! それは小娘の面倒を、小僧。お主がみればーーー」



と言おうとした、次の瞬間。



「ダメッーーーーーー!!!」


その声と同時に、その直後。
バコン!! と放り投げられたごみ箱が、ファーストの顔面に直撃した。


バタッと、真後ろに倒れるファースト。
また、その一部始終を見て茫然とする神宿とカフォン。

そんな、ごみ箱が飛んできた先で、



「はぁ、はぁ、はぁ…」


顔を真っ赤にさせながら立つ少女、カルデラの姿があるのだった。






「何をする! この小娘っ!!」
「それはこっちのセリフです!! 何、トオルを悪い道に誘い込もうとしてるですか!」
「悪いも何も、ワシは可能性のある方向を見極めて」
「とか言いながら、明らかに悪い顔してたじゃないですか!」
「何を言う! ワシは悪い顔なぞ、しとらんのじゃ!! ただ、想像してみただけじゃ! 邪魔のない密室とかした男子寮。そんな場所で、二人の男女が住む。ーーーー見るからに、面白そうじゃと」
「そ・れ・が!! 確信犯っていうんですよ!」


ギャアギャアと喧しいが、どうやらファーストが言いたかった事は、かいつまんで言えばこういう事らしい。


カフォンを男子寮。すなわち神宿の元に共に暮らし、修行してみてはどうか? と。




「はぁ………それで、どうする?」
「へっ!?」


溜息をつく神谷はそう言って、カフォンにファーストが出した提案を尋ねる。

カルデラは過激に反応していたが、実際に考えればそれが一番に適しているのかもしれないと、神宿自身もそう思ったのだ。


コントロールという魔法の修行に関していえば、神宿とカフォンは相性がいい。


「………」

本来なら、高貴たる貴族の娘が平民と共にいること自体おかしいなことだった。

しかも、それが男子ときて、そんな彼が住む男子寮にこれから寝泊まりして行くなどもってのほかだった。

だが、それでも。


「?」


神宿が、カフォンを助けてくれたのは事実だった。
そして、こんな自分のために、怒ってくれたのも事実だった。

だからーーーー



「…その話、受けるわ」
「え!?」
「ふむ」

カルデラが驚愕の表情を見せ、一方で口元を緩ませるファースト。
そんな彼女たちが見つめる中で、カフォンは真剣な顔つきで神宿を見つめ、




「トオル。私に、魔法の基礎を教えて! お願い!!」



こうして、神宿の住む男子寮に少女、カフォンが在中することになるのであった。




コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品