自害阻止スキルと自然治癒スキルを与えられた少年は、異世界転生からリタイヤ出来ない!

goro

忍び寄る影 後




学園の校舎から離れた位置にある暗い物置き倉庫の裏手。
人の寄り付かないその場所に、学園の少女アルサの姿があった。


しかし、今。
彼女はーーーーーー



「あっぐぅ、あっ!!」



人の形をした炎の化身によって、その命を消されようとしていた。


それは炎によって、形だけが作られたバケモノ。
感情といった意志はなく、ただ目の前に存在する、登録者、を殺すためにそれは動いていた。



(何で、なんでなんでッ!!)

カフォンに友人として嘘をつき、長い時間付き添っていたアルサ。
しかし、その裏ではカフォンが不利になるよう色々な細工にも手を出した。


廃貴族ーーー、その噂を流したのも、アルサだった。



「あぐっぅ!!」



しかし、今。
そんな彼女が呪われたようにバケモノに襲われている。

だが、それは決して彼女自身が呪いを受けているわけではない。




それはーーーー呪詛を掛けた者にのみ起こり得る、跳ね返り、という名の代償でしかなかったのだ。






「ゃ、っ、めぇ……って……」


不気味な音と肉の焼ける音がその耳に届く中、涙を溢れかえしながら、そう声を絞り出すアルサ。


何故、こんな事になってしまったのか。
それは、訓練場にいなかった彼女には到底理解できない事だった。







神宿によって、命を救われたカフォン。
それはまさに、呪いが失敗したことを指し示していた。
だが、アルサが仕掛けた呪詛はーーーーそれだけで終わりにはさせてはくれなかったのだ。




呪詛自身が呪いを失敗と判断した直後、術者として登録されていたアルサに対し、呪詛はある行動を起こした。


それはーーー《代償》


術者に対し、その身を持って呪いを失敗した、その分の贄を支払ってもらおうと、動き始めたのだ。
そして、その執行者として、炎のバケモノが生まれてしまった。




「っ、が、ああああああッ!!!」


アルサの体を握りしめる炎の化身の力が更に強くなる。
同時に少女の身体中から不気味な音が連続して鳴り響いた。


(いやだ、嫌だ、死にたくない、死にたいないっ!!)


恐怖に染まった顔で、口をパクパクさせるアルサ。
だが、こんな人の寄り付かない場所に誰もくるはずがなかった。


呪いに手を加えるため、わざわざ人の目を避け、こんな場所に来てしまったのだ。


だからーーーー誰も助けてはくれない、こんな場所でとれだけ叫んだとしても。
そう。わかっていてもーーーー



「す、け、て……たす、けてッーー!!」


叫ばずにはいられなかった。




だが、既に判決は決まっていた。
炎の化身はアルサをーーーーーその身をもって代償に払わせようと、再びその手に力を込めーー





「つまらん結末じゃな」





その、時だった。

ギュン!!! という音と共に、炎のバケモノは背中から縦一閃に切り裂かれた。


バケモノからの拘束から解放されたアルサがボロボロと涙をこぼす中、顔を上げた先では、


「なるほど…。炎の化身じゃな、あれは?」


白い刀身の刀を手にした、白髪をなびかせる少女。
大賢者ファーストがつまらなそうに欠伸をつきながら立っていた。
呆けた顔をするアルサに歩み寄ろうとするファースト。
すると、その時。


「む?」


縦一閃に切り裂かれたはずの炎が散らばると共に、ファーストの周囲に集まり、それは再び人の形を作り出す。

そして、あっという間にファーストの体を握りしめる様に彼女は拘束されてしまった。




ーーーーだが、


「ほお。斬っても再生するのじゃな」


面白そうに、笑うファースト。
しかし、






「たかが、バケモノ風情が、よくワシに触ったものじゃな」





その瞳を鋭く、そして、氷のように細めた、その次の瞬間だった。





ガブリ、という音と共にーーーー
炎のバケモノは、一瞬にしてその全てを食い尽くされた。

それは、ファーストの手にある、白い刀身の刀によってーーー









「さて、じゃな」

軽く服についたホコリを払いながら、ファーストはその場に座り込むアルサに歩み寄る。


「大丈夫じゃったか?」
「……ぁ、はい」

助かった事に安心したのか、ポロポロと再び泣き出すアルサ。
そんな彼女にファーストは笑みを浮かべる。そして、その口で、





「なら、お主が買った、あのアクセサリーについて…喋ってくれるかのう」




その直後。
アルサの表情は一瞬にして凍りついた。対するファーストは、再び鋭く瞳を細めながら、問う。



「お主があれを作ったとは到底思えんのじゃ。だがら、ワシはこれっきりに尋ねるぞ? アレを誰にもらった?」
「ぁ…ぇ、な、……なんの、ことか」


そう返答を返すアルサ。
その時の彼女は単に、苦し紛れにも逃げる、そのつもりだったのだろう。
ーーーーーーだが、






「ーーーーーワシは、これっきり、と今言ったぞ?」






瞬間だった。
グサリ!! と、ファーストはアルサの心臓に目掛け、その手に持つ刀を突き刺した。


「ーーーーか、え?」
「ワシはアーチェほど優しくなくてじゃな、敵、もしくは要らないと判断したら即動くタチなんじゃよ」

そう言って、笑うファースト。

「じゃが、安心するのじゃ。この刀は物理的なものは斬れない代物じゃ。だから、現に血も出ておらんじゃろ?」
「っ、ぉ、ぁ」
「とはいえ、何も無害というわけではない。なんせ、この刀はーー」


そして、ファーストは語る。






「物理的なもの以外を斬り、そして喰う刀なんじゃから」







それがスイッチだった。
刀を少し動かした、それだけでーーアルサの頭に残る記憶。

幼少から先の数年間の記憶が、一瞬にして
食い殺されてしまった。





「? !?」
「ふむ。どうやら、喋り始めた頃の記憶まで食ってしまったようじゃな」

幼い頃、人は喋り方を学ぶ。
だが、今この瞬間にそれをしたという記憶自体を食い殺されてしまった。


「!? !? !」


ーーーそのためだろう。
彼女は喋る知識を失い、ただ口をパクパク開けるだけの存在に変わり果ててしまった。


「まぁ、いいかのう。別にーー」



そして、ファーストはそう言って刀を真上に振り上げる。
キン!! という音と共にファーストはーー少女アルサという名の人間を殺した。



物理的にではなく、霊体的に、その存在を無かったことにしたのだった。









「ふむ、なるほどじゃな」


刀身に触れていた指を離し、ファーストはその手に持つ刀を宙にへと放り投げる。

その次の瞬間、刀はその形を変質させ、まるで人型の霊のような姿へと変わっていった。



そして、まるで重なるようにファーストに刀だったものが憑依する中で、彼女はその口を動かしーーー






「あの小娘にアレを渡したのはーーーやはり魔族じゃったか」






記憶の読み込み、見た光景。
それは、額にツノを生やした黒ずくめの男から、アクセサリーを貰い受ける様子だった。




学園に密かに忍び寄る影ーーーーその前兆だった。




しかし、それはーーーただの序章でしか過ぎなかった。




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