自害阻止スキルと自然治癒スキルを与えられた少年は、異世界転生からリタイヤ出来ない!

goro

忍び寄る影 中




カフォンが炎のバリアーによって苦しめられいる中、

『呪詛もまた魔法の一種なのじゃが、これがまた厄介な事に、どちらにも損害を与えるタチの悪い魔法なのじゃ』

テレパシーに似た魔法で、そう言葉を続けるファースト。

「損害って」
『おもに、肉体もしくは寿命を吸い取る』
「!?」
『お主の目の前にいる小娘もおそらくは、その類の呪いを受けておるはずじゃ! だから直ぐにでもそのフザけたバリアーを破らないと』
「ッ!! だったらお前、早くこっちに来いよ!」

神宿はそう怒鳴り声を上げるのには理由があった。

何故なら、神宿の魔法ではあのバリアーを破壊することが出来なかったからだ。
そして、それはこの場にいる教師である男にも当てはまる…。

だが、その時ーーーー




『ダメじゃ。ワシはそっちには行けん』
「ーーーーは?」




思いもよらないその言葉に対し、驚愕と同時に怒りを込み上がらせる神宿。
その間にも、声だけのファーストの言葉は続く。


『ワシはもう一つの方を対象しなくてはならんのじゃ。だから、そっちは』
「ッ、ふざけんじゃねえぞ! 今アイツが死にそうになっているっていうのに、お前ッ、アイツを見捨てるのかよ!!」
「見捨てはせん。ーーーーー何故なら、そこにはお主がおるではないか?」

その冷静な言葉に対し、神宿は歯を噛み締め更に怒りの言葉を吐き出しそうになる。
だが、




『冷静になれ。そうすれば、お主ならやれるのじゃ』





ファーストは一方的にそう言葉を言い終えると、そのまま魔法を切ってしまった。

それはまさに、強引なまでの通信の遮断だった。


「ッ、クソッ!!」


このままファーストを探しに行っていては、カフォンの命が助からない。

今も教師がバリアーを破壊しようと奮闘しているが、以前と破壊される様子もない。



神谷は拳を握りしめながら、視線を延々と燃え上がる炎のバリアー。
その中で、地面に倒れるカフォンに対して向けた。




ーーー賢者の言葉通りに従うのは癪だった。

だが、これ以上、時間をかけるわけにはいかない。




「……ッ、やってやるさ。こんな所で、死なせてたまるかよッ!!」





神宿はその言葉を叫ぶと同時に手を前にかざし、構えを作る。
そして、


「ウォーター《ボム》ウィンド《アロー》!!」


炎のバリアーに対して。
以前、貴族カリオカを倒した二つの魔法を組み合わせた一撃を神宿は放つ。












「吹き飛べ《ウォーターボム》!!」


遠距離から放たれる零距離爆発。

炎のバリアーと水の爆発。
二つの魔法がせめぎ合い、強烈な音がその場に飛び跳ねた。



だが、



「ッ!?」



ジュゥ! という音と共に、水の爆発は炎に負けてしまった。


「ッ、クソッ!!」


水と風、二つの攻撃を組み合わせて放つ魔法は神宿の中で、一番に攻撃力の高い魔法だった。


他に組み合わせる事で強くなる魔法はあるが、そんな中でも水と風、この二つがより組み合わせとしてシンクロ率が群を抜いていたのである。


(やっぱり俺の魔法じゃ、ダメなのかッ)


神宿は自身の不甲斐なさに苛立つ。
上位の魔法が使えない事に、悔しさを抱く。



(このまま、何も出来ないっていうのかよ!!)



そして、ただ見ていることしか出来ない自信を恨んだ。







ーーーその時だった。


「カフォン! その手にあるものを捨てろ!」

教師がカフォンに向けてその言葉を放つ。
そして、


「おそらく、それがこのバリアーの発生源だ!教師の言うことが聞けないのか!!」


その真実を、教師は彼女に伝えてしまった。





「……………ぇ」




その手に握っていたのは、この学園で唯一。大切な友人でもあったアルサから貰った、お守りのアクセサリー。


「…そんな…そんなのっ…て」


何があっても友達である、と言ってくれた彼女。



「ぅそ…だょ……ぅそ…だょ………っ」



アルサの存在は、唯一、彼女にとって壊れかけない心の守ってくれていた大切な盾だった。
だが、それがーーーー






「……………ぅそ、だって……ぃって…よ…ぅ、ぅう………」





全部。

嘘だった。

それを理解してしまった瞬間、彼女の心を守っていた盾はーー粉々に砕け散ってしまった。







「!!!」

神宿はその光景を見た。
教師の言葉によって、今まで頑張ってきた少女の心が砕け散る様を。

涙を溢れかえしながら、虚ろな瞳で生きる希望をなくしてしまう、そんな様を。




「ッ!!!!!」



神宿は全身から発せられる熱を感じた。
体の全てが怒っていることを理解した。

その上で、何が何でもカフォンを助ける、と覚悟した。



その時ーーーーー神宿はファーストが言っていた言葉を思い出す。




『冷静になれ。そうすれば、お主ならやれるのじゃ』



あれはただの励ましだと、神宿は思っていた。
だが、もしそれが違っていたとしたら?


冷静になり、神宿だけが出来ることを突き詰めろという言葉だったとしたら?



「!?」



神宿は自身の手を見つめ、そして、つい先程放った魔法を思い出す。

二つの魔法を組み合わせた零距離爆発。

跳ね返されるわけではなく、せめぎ合い、負けた魔法。


だが、もしそれを強化する術があったとしたら?
上位と魔法ではなく、魔法に付け加えている性質だけを増やせばーーーー


「……やってやるさ」



神宿は大きく息を吐き、その瞳の視線をバリアーに向けて固定する。
そして、



「ウォーター《ボム》」

その手に生み出した水の魔法。
内側に爆発の性質を備え付けたその個体に対してーーーー




「《スクリュー》」



回転の性質を備え付けた。
次の瞬間。

「ぐぅ!?!」

水の塊が小規模から中規模へと膨れ上がった。
同時に神宿の手のひらから擦り傷が生まれ、血が流れ落ちる。
だが、


(ここで、やめてたまるかよっ!!)


神宿はその手を前にかざし、次に空いた手を弓の下を引っ張るとような形に構える。
そして、


「ウィンド《アロー》」

風の弓を作りーーー


「《アロー》!!!」


性質を多重させる。
その直後。風の音をより強化させた強靭な弦が形成させた。
そして、その風は神宿のもう一つの手を無数に切り裂いていく。






「ッ、おい! 何を」
「うるせぇ、テメエは黙ってろ!」
「っ!? おい、貴様! 教師に対して、そんな」

両手を血だらけにさせながら魔法を構える神宿に対し、そう言葉を荒げる男性教師。

そんな彼に対し、神宿は、


「何が教師だよ」
「ッ、きさ」
「生徒を守る立場の教師が、生徒の生きる希望を潰してんじゃねぇよッ!!」


神宿は吠え、そして、倒れるカフォンを見つめる。



「泣いてる生徒をッ! 追い詰める奴がッ、教師面してんじゃねえよ!!」


カルデラから聞かされた彼女の事情。
そして、必死に頑張ってきた彼女が見せた、涙。


それらの意味を深く思い出し、神宿は狙いを定める。




「絶対に助けてみせる。必ずだ!」




吸収されるような音を放つ風の弦。
強烈な回転音を放つ、水の爆発矢。

神宿はそれらを手に、瞳を細め、そしてーーーーー放つ。




「突き抜けろ《スクリューボム》」




その次の瞬間。
強烈な音が、神宿の手のひらから爆ぜた。
そして、強靭な速さでつか進んだ水の爆発矢は炎のバリアーを一瞬で貫き、



「ぶっ飛べ!!!」



回転によって更に強化された爆発は、バリアー自体を上空に持ち上げながら、連鎖爆発を巻き起こした。






バタッと、腰から地面に落ち、荒い息を吐く神宿。
だが、そんな彼が見つめる先には、気を失いながらも一命をとりとめた少女、カフォンの姿があった。



そうしてーーー。

教師が放つ上位の魔法ですら破壊できなかったバリアーは、神宿の新たなる一撃によって完全に破壊されたのであった。




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