自害阻止スキルと自然治癒スキルを与えられた少年は、異世界転生からリタイヤ出来ない!

goro

忍び寄る影 前





実技テストの追試試合。
その第一試合が始まって、かれこれ数十分が経つ。
だが、そんな中、



「アクア!!」
「チッ! ウィンド《トルネード》」

神宿とカフォンの試合は未だ決着はつかず、互いに魔法をぶつけ合う熱烈とした戦いになっていた。


「ウォーター《ブレット》!!」
「っ、ウィンドバリアー!!」



一撃一撃と的確に敵を捕捉しながら魔法を放つに神宿に対し、カフォンは防壁魔法を展開させつつ、隙を狙っては反撃に出る。



「「ッ!!」」



それはまさに、決め手となる一手が見えない均等した戦いだった。
しかし、その戦いは、どちらもより多くの魔力を保持していなければ出来ない戦いであり…。




そしてーーーーーこの展開こそが神宿の狙いだった。






「なぁ、アイツ凄いよなぁ……」
「ああ、でもカフォンの奴も負けてねぇよ」


時間が経つにつれ、訓練場の周辺に集まる生徒たちの口から、そんな言葉が徐々に出始めるようになった。



当初。ここに集まった観客の生徒たちの大半が魔力テストで一学年の最上位を取った神宿を一目見るためだけに、この場に訪れていた。

だが、神宿とカフォン。
二人の激しい試合を見ているうちに、生徒たちの思考が少しずつ変わりつつあり、神宿だけでなくカフォンにもまた皆の視線を集めるようになってきた。


ーーー廃貴族、と噂されていた事が返って今、プラスに働くようになっていたのだ。






そして、それは同時に皆の心の中、やっぱり廃貴族じゃないのではないか? という疑問を根付かせることになる……






「ウィンド《スプレッド》!!」
「っ!! きゃっ!」


均衡を一度止めるべく、神宿は瞬間に見えた隙をつき、風の魔法でカフォンを後方へと吹き飛ばした。


(よし…これだけやれば、大丈夫だろう…)



そう内心で呟く神宿は周辺にいる生徒たちの表情を見渡し、彼らの視線が自身だけでなくカフォンにも向けられていることを確かめた。
そして、そのことを理解した上で、


(これなら……俺がわざと負けても、とくに怪しまれることはないよな)


次に自身の攻撃を放った後、カフォンの攻撃をまともに受ける。
そう計画を練りつつ、神宿は水の魔法を彼女目掛けて放ったのだ。







負けたくない、負けたくない…。


迫る魔法に対し、カフォンの心の中にその言葉が浮かび上がる。

それは外見では理解してもらえない、彼女の心の叫び。
反撃に出る事を忘れてしまうほどに、カフォンはその後に訪れるであろう、最悪の結末に恐怖していた。




そして、



(負けたく、ないーーーーーッ!!!)



涙をためた目をつぶり、その心が強く、絶叫した。




その次の瞬間だった。
試合前、アルサから受け取ったアクセサリーが光を見せた、その直後。

ボゥ!!! という音と共に、カフォンを包み込む炎のバリアが突然と発生し、神宿の魔法を簡単に蒸発させてしまった。

「!?」
「ぇ…? …な、何…これっ」

目の前で展開される炎のバリア。
カフォン自身も何が起きているのか理解すらできてはいなかった。


だが、それは当然の事だった。
何故なら、彼女自身。このバリアを展開させた覚えが一度たりともないのだから…。

ーーーーーと、その時だった。




「どういう事だ、カフォン」
「っ!?!」



試合を監督していた教師がその場に現れ、カフォンの元に近づいてくる。


「この試合では魔道具の使用は禁止していたはずだ」
「え……ち、違っ、わ、私は…っ!」

魔道具の使用は、この試合においては禁止となっていた。
だが、それをカフォンは破った。

ーーーーそう、教師に判断されてしまった。


その言葉を聞き、驚愕と焦りを同時に見せるカフォン。
しかし、既に流れは中断される事なく進んでしまい、





「この試合、カフォンの失格によりトオルの勝利とする!!」






カフォン、そして、神宿が望まぬ結果として、第一試合が終了してしまった。





(どうなってんだよ……これ)

神宿自身、何が起こったのかわからない。
だが、それはカフォンにとっても同じ事だった。


しかし、それ以上にーーー


「あー、やっぱりな」
「見損なったよなぁ」
「最低だな」
「やはり、カフォンは廃貴族だったんだな」


不正をした、と見せつけられた事によって周囲の生徒たちからの罵声がカフォンへと放たれる。

「っ、おい!」

神宿が止めるよう声を上げるも、その流れは止まる兆しを見せなかった。






魔道具の使用。
身に覚えのない、その言葉に戸惑いと混乱を抱くカフォンは、瞳から涙を溢れ返しながら顔を伏せる。



だが、そんな時だった。



「ぅ、ああああーーーっ!?!」




その声はーーーカフォンの声だった。


周囲の視線が再びカフォンに集まる中、バリアの中で、


「あっい……ぁついよぅ……っ…」


突然と胸を押さえながら、悲痛な叫びを上げるカフォン。
額には大量の汗が流れ落ち、呼吸も荒くなっていた。


しかし、その光景に対して周りにいた生徒たちは、そんな彼女を直ぐ様助けようとは思わなかった。

ーーー不正をした事を隠すための行動。

と、ただ一人を除いて皆がそう思ったのだ。




「ッ、馬鹿野郎!! これのどこが芝居に見えんだよッ!!!」



神宿がその場にいた全員に向けてそう言葉を叫び、急ぎカフォンの元に駆け寄る。

「おい、カフォン! そのままじっとしてろよ!」
「……っ、ぁ」
「行くぞ、ウォーター《ボム》!!」

そして、至近距離で炎のバリアを破ろうとした神宿。
だが、その直後。


「ッ!?」



至近距離で魔法を放った次の瞬間。強烈な爆発が神宿を後方に大きく吹き飛ばしたのである。

地面に転がりながら倒れる神宿。
そんな彼に対し、


「全く、何をしている」


試合の監督をしていた教師が手のひらをかざし、強引にそのバリアを破壊しようと上位の魔法を放つ。


だが、魔法がバリアに触れた直後。


「!?」

まるで跳ね返るかのように、教師が放った魔法がそのまま彼に目掛けて襲いかかってきた。
教師は防壁魔法でその攻撃を防ぎながら、


「っ!? おい、教師に対して攻撃するとはどういうつもりだ!!」
「…ぅ、ちがっ……ぅあああーっ!! っ」


教師の言葉を不定しようとしたカフォン。

だが、それすら出来ないほどに、炎のバリアが彼女の体を強烈な痛みと暑さを与え続ける。


(このまま、じゃ…ヤバイだろ…)


倒れた体を何とか起こし上げ、神宿はカフォンの様子を確かめる。

あの炎を自体、彼女の意思とは関係なく発生している。
しかも、そのバリアが守っている者に対しても攻撃を加えているのだ。



それは、考え得る限りに最悪のパターンだった。




と、その時。



『聞こえるか、トオル!』
「!? この声、ファーストか?」



突然と頭の中に、その声が聞こえてきた。

テレパシーに似た魔法なのだろうが、知っている声なだけあって神宿はすぐにその声が誰であるか特定できた。


『そちらで起きていることは、理解できておる。その上で言うのじゃが、あれは魔道具じゃない』
「魔道具、じゃない?」
『そうじゃ。あれはーーーーーおそらく呪詛の類いによるものじゃ!』


そうして、大賢者ファーストは神宿に話していく。

呪詛と何なのかーーーー

そして、彼女をどう助けるのかをーーーー



コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品