自害阻止スキルと自然治癒スキルを与えられた少年は、異世界転生からリタイヤ出来ない!

goro

決着




ーーお前に、魔法の使い方ってやつを教えてやるよ。


その言葉を口にした神宿は、カリオカを睨みつけながら手の平を前にかざし、魔法を唱える。

「ウォーター」

神宿が生み出したそれは、まるでジャンボン玉を連想させるような宙を浮く一つの水塊だった。
だが、それはだたの魔法ではない。

何故なら、初期の魔法でありながら、上位の魔法にあたるフレイムの炎を消失させることができる魔法なのだからーー。



「ッ!!」

しかし、その光景は火に油を注ぎこむようなものでもあった。
何故なら、自身の魔法を消失させた魔法に対し、カリオカは更に怒りを吹きあがらせたからだ。


「何が、魔法の使い方だ…っ! そんなチンケな魔法がッ、この俺に効くと本当に思ってるのかッ!!」


怒声を上げるカリオカは再び魔法を唱える。

それは神宿と同じーーーいやそれ以上の水量を秘めた水の魔法だった。

「ウォーターッ!!」

そして、前方へと放出されたカリオカの魔法が、未だ動きを見せない神宿に襲いかかろうとしていた。
だが、その時。


神宿はーーーーー






「ウィンド」






続けて、二つの目の魔法を唱えた。

シュゥ!! と音をたて現れた小さな旋風は水塊の周囲をぐるりと周回しながら、水塊の背後へと回る。
そして、カリオカの水魔法が迫る中、神宿は瞳を細め、風に『もう一つ』の性質を加える。

それはーーーーー暴風。




「吹き飛ばせ『ストーム』」




まさに、次の瞬間だった。
旋風から強烈な暴風が弾け飛ぶ直後、跳弾と化した水塊は目の前にいた水の魔法を瞬殺した。

そして、そのままカリオカの右肩にめり込みながら、彼の体を更に後ろへと吹き飛ばす。




同じ魔法でありながら、その見た目から当初は、カリオカの魔法の方が優勢に思えた。
だが、例え巨大な魔法であっても、その中に込められている魔力の純度によって、威力は上下する。

まさにーー今のカリオカと神宿のように。




「ぐぁ、あああああああああーっ!!!」


右肩を手で抑え、涙を流しながら激痛に叫び声を上げるカリオカ。
だが、そんな彼に神宿は、

「たった一発で、泣き叫んでんじゃねぇよ」
「ッ!?」

一歩。
また一歩、と歩き出し、神宿は近づいていく。

強く、そして、また硬くーー拳を握りしめながら。




すると、その直後。


「っあ! ま、まってくれ!! なぁ!なぁ、っ!!」

カリオカは、まるで心を入れ替えたかのように体を震え上がらせながら、弱々しい声を出す。
そして、四つん這いになりながら神宿に対して頭を下げて、

「お、俺が悪かった! 貧乏野郎とか、貴族だとか関係ないっ、もうこれ以上余計かなこともしない!!」
「……………」
「もうお前の前にも顔を見せないっ! だから、だからっ許してくれっ!もう何もしないからっ!!頼むっ!頼むっ!!」

今までの怒りが嘘だったかのように、手を合わせ、許しを乞おうとするカリオカ。

そんな神宿は静かに息を吐き…


そして、かざしていた手を、ゆっくりとおろし、た…






「っ!? 危ない、トオルさん!!」







トン、と。
その直後だった。
キャロットの声が聞こえた中、四つん這いになりながら体を伏せていたカリオカが強烈な笑みを浮かべる。

そして、懐から隠し持っていたナイフを取り出し、無防備となった神宿の懐目掛け、それを突き刺したのだ。





カリオカは、笑う。

「はっはは? っ! 誰がっ、お前みたいな貧乏野郎に許しを乞うかよぉ!!  はっはは!」
「…………」
「おらぉ! 死ね死ね死ね死ねっ!!!」

愉快に笑いながら、自身の作戦が上手くいった事に喜ぶカリオカ。

だからだろう。



ーーーー突き出したナイフがどうなっているのか、それすら確認することをカリオカは忘れていた。






「……俺はさ、例え今の言葉が嘘でも、少しは許してやろうか、っていうそんな気持ちはあったんだよ」
「!?」





平然と言葉を交わす神宿にカリオカは驚愕の表情を浮かべ、自身の突き出したナイフを見やる。

すると、そこにはーーーー



「なっ!? な、何だよ、何だよ!! 何なんだよっ、その、魔法陣はッ!?」



ナイフの手前。
淡い光を放つ、小さな防壁の魔法陣が宙に展開されていたのだった。





ーーーあの時、神宿はカリオカが何か狙っていることに気づいていた。
だからそこで、神宿はある一つの手に打って出たのだ。



危険とわかりつつ、自己にて無防備な状態を作り出す。

その行いをすることによって、神宿はある条件を満たされる。
それは、女神からもたらされたチート能力。

ーーーー自害阻止スキルの発動条件だ。






「ひっ、ひっ!!」

今度こそ、後ろに後ずさりながら怯えた様子を見せるカリオカ。
そんな彼に神宿は更に続けて言葉を言う。


「だけど……お前は俺のことばかりで、カルデラのことを一度たりも謝らなかった」
「っ!?」
「お前のカンに触るようなことを一つもしてなかったアイツを、お前は罠に嵌めた。
そして、体も動けず、無防備だったアイツをお前はいたぶり、笑ってやがった!」


あの時の弱々しくも涙を流すカルデラの顔が脳裏によぎった。
そして、ただ、それだけで、



「そんなお前を、許すことなんかできるかよっ。絶対に!」



神宿の怒りは頂点に達することが出来た。

目の前で後ずさるカリオカを睨みつけながら、明確な怒声を放つことが出来た。





「っ、あ! あ、ああ、うわあああああああああああああ!!!」


その怒りを目の当たりにしたカリオカは恐怖で体を震え上がらせ、その場から逃げようとする。
出口は既にキャロットが見張っている。
逃げ場などない。

だが、それでも今の神宿から逃げるように、出口のない反対方向へと彼は逃げ出す。



それほどに、カリオカは既に正常な判断で出来ないほど、恐怖を身を狂わしていたのだ。





「逃すかよっ!!」

神宿は手の平をかざす。
その仕草はまるで目には見えない弓矢を構えているかのような仕草だった。
そして、魔法を唱える。



「ウォーター! 《ボム》」


神宿は先に突き出した手の前に、水塊を作り出す。
内部にて暴れまわる水を外側の水が覆いつ留める、異様な水塊をーーー。



「ウィンド! 《アロー》」



そして、風の魔法を操り、まるで弦を連想させた形に変化させる。
水塊に矢の代わりを担わせーーー




「貴族たとか、貧乏野郎だとか、そんなこと知るかよっ。…だけどなぁ!」

神宿はその情けないカリオカの後ろ姿を睨みつけながら、



「そんな馬鹿げた事を言う前に、お前はもう一度! 一から人間やり直してきやがれっ!!」




そして、溜められた力を手に神宿はカリオカに対してーーーー放つ。




ビュッン!!! と音が飛ぶ。
その音に顔を振り返らせたカリオカは、その涙をためた瞳の中で、



「弾け飛べ! 《ウォーターボム》!!」



外装を解除し、強烈な飛沫による爆発を引き起こす強烈な一撃。
その瞬間を、カリオカは目の当たりにした。



そして、それがカリオカがら見た最後の光景でもあった。



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