自害阻止スキルと自然治癒スキルを与えられた少年は、異世界転生からリタイヤ出来ない!

goro

共同授業



カルデラの料理は二度と口しない。

そう心に誓った、その次の朝。
何度も謝罪するカルデラをあやしつつ朝帰りして行った彼らを見送った神宿は今、そのまま魔法学園へと足を運ばせていた。
そして、次の授業が別室で行われると聞き、移動する最中、

「やぁ、久しぶりだね」

背後から、そう声をかけられた。
振り返るとそこには以前、同じクラスの男子、貴族のカリオカから吹っかけられた決闘を止めに入ってくれた少年。
シグサカの姿があった。

「え、っと確か…シグサカ、さ」
「ああ、僕の事は呼び捨てで大丈夫だよ?  そのかわりといっては何だけど、僕も君のことをトオルっての呼んでもかまわないかな?」
「あ、ああ。別に構わないけど…」

それは良かった、とキラキラめいた笑顔を振りまくシグサカに対し、眩しい奴だなぁ、と神宿は思った。

「ところで、君も次の授業のための移動なのかい?」
「ああ、まぁな」
「それじゃあ、僕たちと一緒だね」

僕たち? と神宿が首をかしげる中、シグサカの後ろから、ゆっくりのその少女は姿を現した。



「はじめまして、私の名前はキャロットと言います」
「…あ、ああ。俺は、トオルっていうだけど」
「はい、シグサカ様から既にお名前はお聞かせさせていただいていおります。今後とも色々ご迷惑をおかけになると思いますがどうぞよろしくお願いします」

そう礼儀正しく頭を下げる彼女に、神宿も慌てて同じように頭を下げた。
と、そこで不意に神宿は思う。



「え、様づけってどういう関係?」
「……ま、まぁ、色々とあるんだよ。色々と…」


神宿の視線に顔を逸らすシグサカだった。





だが、そんな彼らは知る由もない。
自分たちの様子を離れたところで睨みつける、貴族。
カリオカの姿があった事に…。








移動した教室にて、

「それでは今日の授業内容でもある、魔法薬の調合を開始したいと思います」

メガネをかけた太り気味の女性講師の元、授業が開始された。



各班に分かれて授業に取り組むのだが、何の巡り合わせかシグサカたちと同じ班になった神宿は苦笑いを浮かべていた。

「それでは皆さんには、まず始めに瓶に入れてある薬草を魔法の水で浸し、またそれを魔法の火で温めていただきます」

そう言って、女性講師は続けて周囲を見渡し、

「後、この授業のために用意を手伝ってくれた数人の方々にも、皆さんお礼を言ってくださいね」

どうやら先に来ていた生徒の数人が準備を手伝ってくれたらしい。
どこにでも良い奴はいるもんなんだなぁ、と神宿が思う中、

「それでは、始めてください」


授業はそうして開始されるのであった。







その数分後にて、

「うーん」
「どうしたのですか? シグサカ様」
「いや、ちょっとね」

どうにもキャロットを含めたシグサカの二人は思うように水を沸かすことが出来ずにいた。
どれだけ火を瓶の外側に当てるも、一向に水が熱くならないらしい。
だが、対して、

「トオルはよく出来ているね?」
「ん?まぁ…な」

神宿の瓶に入れられた水は、早い段階で沸騰していた。
特にこれといって別の魔法を使ったわけではなく、どうにもこの瓶に対して火の通りが悪いと感じ、火の内にある純度を高めつつ魔法を濃くしていたのだが…。


そんな時だった。


「アイツ、ずるしてるんじゃないのか?」
「……は?」


突然と、そんな野次が神宿に対して飛んできた。
声の方向を見てみると、そこにはカリオカを含めた子分たちの姿があり、その野次を飛ばしたのも子分の内の一人だった。
また、その上。


「そうなのですか? トオル君」


まるでその言葉が真実だと思い切っているのか、女性講師が神宿に対して鋭い視線を向けてくる。
既に決めつけているような、雰囲気すら感じられた。

「……」

周囲の生徒たちがざわつく中、神宿は平常心を何とかとりとめようとしていたがーーーーーカリオカの不敵な笑みを見た直後、ムカっとなった。



「ズルだって? なら、お前の瓶と俺の瓶、試しに交換してやってみたらいいんじゃないのか?」
「はぁ?」

正直、水に火の熱が伝わらないこと自体そもそもが怪しかった。
他の生徒たちはとくに小難しい魔法を使っていない、にも関わらず神宿のいる班だけができない。

実力がない、にしては不思議でならなかった。

「お前っ、貴族に対してその態度は何だっ!」

両者睨み合う形で、教室内に険悪とした空気が漂う。
そんな中、

「喧嘩をするじゃありません」

女性講師がそう声をあげた。
しかも、続けて彼女はカリオカの子分に声をかけるーーーーわけではなく、先に神宿に対して、

「トオル君もそう喧嘩を差し向けないでください」
「っ」

まるで元からグルだったかのように、教師からの然りを受けた神宿。
一瞬、反論しようかと思いかけた。
その時。



「待ってください」



今まで黙っていた少女、キャロットが立ち上がった。

「どうしました、キャロットさん?」
「いえ、色々と言いたいことがあるのですが、それはのちほどでいいです。それよりまず、すみませんが先生。この試験管に魔法を唱えてみていただけませんか?」
「なっ」

教師に対し、そう淡々と述べるキャロット。

「き、キャロットさん。貴方は教師に対して、何を」

女性講師は険しい表情でそう言葉を続けようとする。
だがーーー





「私のお願いを、聞いてはいただけませんか?」




瞳の内を光らせ、その場にいた全員を含めて発した彼女の言葉。

まるで、その言葉自体に特別な力が宿っているかのように、彼女の声に誰一人反論する事が出来なかった。

「わ、わかりました」

そして、女性講師は怯えきった様子でキャロットの目の前にある瓶に魔法を唱える。
だが、

「えっ、何故…!?」
「今日の授業について」
「っ!?」

焦る女性講師に対し、キャロットは、

「また後日話を聞かせていただいても大丈夫ですね」
「は、はい」

まるで立場が逆転したかのように、そう言葉を添えるのであった。


そうして、その時間の授業は終了の音と共に終わりを告げることとなった。








「おそらくですが、あの瓶自体に何か水を熱くさせないような細工が施されていたのでしょう。そして、おそらくは」
「…………」
「どうしたのですか? 」
「あ、いや」

あの教室での一件から時間が経ち、放課後。
キャロットとシグサカは共に帰り道を歩いていた。
だが、そんな中で、未だ何やら考え込んだ様子を見せる彼にキャロットは首を傾げていた。

「………」

本当は、あの授業において、瓶の不調にシグサカはいち早く気づいていた。
だが、そんな彼が何故直ぐにそれを教師に問い詰めなかったのか?

その理由は向かいに座るもう一人の少年。
神宿にあった。


(どうして、トオルの魔法だけがあんなにうまくいったのだろう……)


神宿に出来て。
シグサカには出来なかった。

その疑問に彼は、唸り声を上げるのであった。





そして、その頃。

「って、いう話があったんですけど、ってトオル、聞いてます?」
「ん? ああ」

神宿はいつものように、カルデラに着きそい回復魔法の練習に付き合っていた。
そして、その渦中で彼は考えていた。


(俺もついカッとなって言っちまったけど……アイツら変なこと考えてないだろうな)

あの後、教室を去ろうとした時。
神宿は見てしまった。

その瞳を険しくさせ、神宿たちに怒りの形相を露わにするカリオカたちを。



(嫌な予感が、当たらなければいいんだけどな…)


神宿はそう不安を抱きつつ、目の前で頑張るカルデラを見る。
そして、自身の魔法がうまくいったことに喜ぶ彼女を見据え、そっと笑みを浮かべるのだった。




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