自害阻止スキルと自然治癒スキルを与えられた少年は、異世界転生からリタイヤ出来ない!

goro

大賢者ーーファースト



神宿がカルデラの必殺クッキング爆弾で撃沈していた頃。

昨日、注目の的にされていた根絶の魔女こと賢者アーチェは今。


誰も知らない、豪勢な出で立ちの館の中。
大賢者でる老人の手前にてーーー





「うぅ〜」




正座させられていた。

彼女の目の前で、イスに腰掛ける老人。
その名はーーファースト。
彼はその口で大きな溜息を漏らしながら、言った。

「お前は嘘が下手すぎだ」
「うっ」

嘘とは昨日、勇者の話で反応してしまった件についてである。

「あのあからさまな反応はなんだ? 全く、あれでは自分で隠している事を話しているようなものだぞ?」
「ぅぅ〜」

根絶の魔女、とまで呼ばれた彼女がまるでいたずらをした子供のように叱られている。
本来なら、口答えすらできない強大な力を手にした魔法使いのはずなのにーー

「全く、お前は昔から」

だが、その答えは直ぐにわかる。



「そ、そうは言ってもですねー? あんなの無理ですよ、このクソジジイっ!」
「お前なぁ〜、一応、ワシはお前の師匠だぞ?」



そう。
アーチェの目の前に立つ彼こそ、彼女を根絶の魔女へと成長させた師匠でもあるのだ。

そして、弟子になってから随分経つも、未だその上下関係は変わることはなく、頭が上がらないアーチェ。

「じゃあ、何であんな私をはめるような目に合わせたんですかー!」
「そうした方が色々と都合がいいと思ったからだ」

何をーっ! と騒ぐアーチェにファーストは溜息をつく。
そして、彼は目を細めながら声を落としつつ話し始めた。




「あのバランとかいう若造は、お前の秘密を何個か握っていただろ?」





その直後、アーチェの表情が固まる。

「ああいうのは下手にのさばらせておくと、後々面倒になる。それに、お前はそういった駆け引きも弱い」
「…………」
「そんな弱い部分も突かせるぐらいなら、最初からバラしていた方がまだマシだと思ってな」

あの時、ファーストがアーチェに注目を集めた理由。
それは弟子を守ろうとした師匠の気遣いによるものだった。

彼が見てきた中で、アーチェは確かに強い。

そこらへんにいる魔法使いなら、簡単に倒せてしまうほどに力も有している。
だが、そんな彼女にも弱点はあった。
それは精神の幼さである。

「っ……」

人質を取られた場合、彼女は自身の身を差し出すだろうーー

皆を助けなければいけない場合、彼女はその身を犠牲にするだろうーー


それほどに、彼女はーーーー優しすぎるのだ。


そして、そんな彼女を知っているからこそ、ファーストは彼女の身を守るためにあんな行動に出たのだ。

「ぁ、ありがとうございますー」
「うむ」

礼儀正しく頭を下げたアーチェに対し、ファーストは年長者らしくそう返事を返す
が、







「まぁ、ぶっちゃけお前をいじるためでもあったのじゃがな」
「っ!?! 私の言った言葉を返せっ!このクソジジイっ!!」






毎度のごとく、弟子をからかうファーストは笑い声を上げながら、

「して、お前が弟子にした勇者候補の話を聞かせてもらおうか」

そう言って、ニッと歯を見せるのであった。









そして、アーチェが説明したのち。

「って、わけなんだけどー」
「………」
「し、師匠?」

ファーストは、頭を抱えて疲れた顔をしていた。
正直、まさかそんなグダグダ感で勇者候補の一人が召喚されているとは思いしなかったのである。

「ぅーん、おそらくお前の弟子を落としたのは、最近女神になったやつだろうなぁ」
「最近ですかー?」
「ああ、何でも凄い大失態をしたとかで、今もお仕置きを食らっているらしいが」

女神がお仕置きって、とツッコむアーチェ。

「それにしても、二つのスキルとは……それはまたアレじゃな」
「そうですよねー? ひどいですよねー? 異世界に無理やり落とした上、この世界から逃さないようにするなんてー?」

そう言って怒った表情を見せるアーチェに対し、ファーストは少し驚いた表情を浮かばせている。

「ん?どうしたんですかー?」
「いや、お前はそこまで怒った表情をするとは思わんかったのでな」
「えー? それは…で、弟子ですか」

と、言おうとしたアーチェに、


「なんじゃ? もしかして、お前弟子に惚れとるのか?」


次の瞬間、魔力弾が全力でファーストの顔面に向けて投げ放たれた。
もちろん、攻撃者はアーチェである。
とはいえ、そんな攻撃もあっさり避け回避するファーストはニタニタと笑みを浮かばせる。

「なるほど、どうりでお前がそんなにカッカしているわけか」
「へへ、へんな深読みしないでくださいー! クソジジイクソジジイクソジジイっ!!」
「おお、おお。顔を真っ赤にさせて、可愛いやつじゃのぉ」

アーチェをからかうファーストはそう言って顎に当てる。
そして、少し考えたのちに、




「ふむ、ワシも少し気になってきたから一度見にいってみようか」




そんな爆弾めいた発言をしてきた。

「ちょっ!?」
「お前はここで留守番じゃぞ? 下手に顔を出して、あのバランとかいう若造に目をつけらても叶わんじゃろうし」

その的を射た言葉に苦虫を潰しような顔を浮かべるアーチェ。

「っ、で、でもー?クソジジイの格好でですかー?」
「だから、ワシはジジイじゃないといっておるじゃろうが」


そう言って立ち上がったファーストは、軽い調子で指を鳴らす。
その直後、彼の体は光に包まれ、高かった身長は縮まり、また髪も成長するかのように伸び始めていく。
そしてーーー



「ワシは、全能の賢者じゃぞ?」



ファーストは、神宿と年も変わらない白髪をなびかせる一人の少女となり、決め台詞を語るのであった。


「うわぁー? 出た…ロリババア」
「よし、アーチェよ。お前表に出ろ、少しお仕置きじゃ」




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