自害阻止スキルと自然治癒スキルを与えられた少年は、異世界転生からリタイヤ出来ない!

goro

失敗する魔法



神宿がカルデラたちに離れた場所に行くように忠告したのには、ある理由があった。


それは、昨日の夜。
いつものように準備運動を終えた神宿は自身の魔法。
オリジナルの魔法を作るべく、意識を集中させていた。

『魔法陣展開』
『魔力体形成開始』

本来なら、これらの作業だけでもかなりの時間を有するはず。
だが、

「っ?」

何故か今日に限って、その段階へといく工程が無理なく進められる。
突然と発生した違和感に眉間をしかめる神宿。
だが、その疑問はすぐに解けた。


(もしかして……カルデラにオリジナルの魔法について、話を聞いたからなのか?)



全ての魔法がオリジナルだった。

カルデラからその話を聞いたおかげか、彼の認識はすでに変化をおこしていた。

それは、特別視していた認識の反転。
オリジナルの魔法は何ら変わりないただの魔法である、と彼の脳は認識の改めたのである。

そして、その結果。
今まで形成の際に混ざり合っていた余分な力は抜け、魔力の通りが活性化したのであった。






(もしかしたら、いけるかもしれないっ!)



神宿は目の前に形成された魔力体ーーーいや、柄のない刀身を見つめ、期待を胸に魔力をさらに注ぎ込んだ。

そして、ようやく完成間近に近づいた。

だが、その時。




「ーーーーーえ?」


ーーーーーーーー予期せぬ結果が神宿の視界を支配した…。














時間は戻り、現在。
剣道場にも場所に奇妙な音が鳴り続いている。

『ヒュンヒュンヒュン!!』

それは風を切り裂く音。
一定のリズムを刻むように鳴り続けるそれは、神宿の周囲を徘徊するように、動き回っていた。

「と、トオル…そ、それは」

道場の端、目の前に立つマーチェに守られる形でその後ろから言葉を発するカルデラ。そんな彼女に、神宿は大量の汗を流しながら答える。


「わかるーーわけないだろっ、はぁ、はぁっ」


昨日の夜。
オリジナルの魔法は完成間近へと近づいていた。
だが、その後一歩手前で、


「っ! と、まれっ!」


魔法はーーーー暴走したのである。



刀身は砕け散り、小粒と化した。
だが、その状態になってなお、魔法は消えてはいなかった。
まるで自分の意思を持ってるかのように神宿の周囲を回転し始め、斬撃を開始し始めたのである。


それも、その場にあるもの。
正確には神宿が見たものから順に狙いを定めるようにしてーーー。




そして、今。


「ッ!」
「マーチェっ!!」
「大丈夫です! お嬢様は決してそこから動かないでください!!」


神宿の魔法は、マーチェの後ろに立つカルデラに狙いを定め攻撃を繰り返している。

咄嗟に危険を感知したマーチェが防壁魔法を張ったおかげもあり、最悪の結果には至っていない。
だが、

「っ!!」

それでも危機状況に変わりはなかった。
何故なら、防壁魔法を今にも切り裂くべく神宿の魔法は暴走を繰り返しているのだから。

「っ! 止まれッ!!」

神宿は自身の魔法発動をキャンセルするよう魔力を操作している。
大量の汗はそのせいでもあった。






この事態に至る数分前。

「ーーーって事が昨日あったから、絶対にその場所から離れないでくれ」

そうカルデラたちに昨夜起きた事を十分に説明した上で、神宿はオリジナルの魔法、形成を開始した。

そして、案の定と予感は的中し、神宿の魔法が暴走が始まった。

だが、その暴走も永遠と続くことはなく、数分もすれば消失することはわかっていた。
だから神宿は意識を集中させ、暴走をコントロールしようと奮闘していた。
しかし、そんな時だった。


「と、トオルっ」


離れた場所で見ているように指示していた
にも関わらず、カルデラは前へと出てしまった。



そして、その結果。
神宿の魔法の狙いがカルデラへと向かってしまったのであった。







「はぁ、はあっはぁッ」


数分が経過したのち、ついに神宿の魔法は力をなくして消失した。
道場の至る所に斬撃の痕が刻み込まれ、その現場からオリジナルの魔法の失敗が見て取れた。

「ふぅー」

マーチェは自身の魔法を解き、大きく息を吐く。
結果として守ることはできたが、それでも正直なところ、危なかった。

それほどに神宿の魔法には力があったのである。


マーチェは後ろに振り返り、カルデラの様子を伺う。
するとそこには、

「ぅっ、っ!」

鼻を鳴らし、涙をこらえるカルデラの姿があった。

自身の行いによって起きた事態に、責任を感じているのだろう。
無理もないか、とマーチェはそう思った。
その時。







ドン、と。





「え…」

その音と共に前へと振り返るマーチェとカルデラ。

すると、そこにはーーーーーー




「と、トオル……?」




意識を失い、床に倒れる神宿の姿があった。






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