自害阻止スキルと自然治癒スキルを与えられた少年は、異世界転生からリタイヤ出来ない!

goro

貴族に魔法を教える



放課後の小さな飲食店。
そこでカルデラの前の席に座る神宿は、周囲を見渡しつつ、思った。

(とりあえず、来てみたものの…いや、本当に場違いだよな)

店の雰囲気は何となくファンシーであり、ピンク色が多い店である。
外見はとくに至って派手ではなかったのに、とそんな事を思っていると、

「それじゃあ、さっそく! 貴方が使っていた魔法を教えて下さいね!」

そう少し声を上げて顔をウキウキさせるカルデラの姿がある。
早く神宿が使っていた魔法を体得したいようだが、

「はい、ちょっと待った」
「ん?」
「いや、本当にここでやるのか? 一応誰もいないけど、ここ店だぞ?」

そう、今この場には神宿とカルデラの二人しか客はいない。
だが、店を営む店主の姿はある。
そんな人目につくような場所で魔法を教えたくない神宿。

と、そんな神宿の疑問に対して、

「大丈夫ですよ?」
「いや、大丈夫っていわれても」
「だってこのお店は私の家が出してるお店なので」
「………はぁ!?」

突然と出てきた言葉に驚く神宿。
すると、そんな彼らに店主が歩み寄ってきた。

「お久しぶりですね、お嬢様」
「ええ、こちらこそお久しぶりですね。マーチェ」

カルデラに挨拶したのはコック姿をしたダンディな男性、マーチェ。
どうやらカルデラとは少なからずも親しい間柄なのだろうが、

「ところで、お嬢様。こちらの方は?」
「彼は今日この学園に転入してきたトオルさんです」
「おお、この時期に転入とは珍しい」

そう言って神宿に手を差し伸べるマーチェは、

「私はこのお店の店主、もといお嬢様の護衛役を務めるマーチェです。以後よろしく」
「あ…はい」

言葉は柔らかい。
なのに、どこかしら威圧感を感じる。

神宿は苦笑いを浮かべながら、出された手を握りつつ、こうして軽い握手を済ませるのだった。




「それじゃあ、早く魔法を教え」
「いやいや、だから待てって」

尚も急をせかせるカルデラに待ったをかける神宿。

「回復魔法は順序よく覚えないと反動がヤバいんだよ」
「反動?」
「まぁ、どの魔法もそうなんだけど、魔力の急激な消費は体に結構不可がかかるんだ。とくに俺が使ってたリアル・ヒールもそうなんだけど」

そう言って息をつく神宿は、一応とカルデラに質問する。

「えーっと。あな、いや、お嬢さ」
「カルデラでいいですよ? その代わり私も貴方の事をトオルってお呼びしますので」
「あ、ああ。そっちのほうが何か俺も助かる。……で。何だけど、カルデラは回復魔法の
、ヒールは使えるのか?」
「え? はい、使うには使えますけど」
「それじゃあ、レイズヒールは?」

レイズヒール? とその初めて聞いた言葉に首をかしげるカルデラに、

「それじゃあ、まずはそこからだな」

そう言って神宿は右手を前に出すと、さらに続けてもう片方の左手を右手に向けてかざす。
そして、

「ウィンド」

そう、小さく魔法を唱えた瞬間。
神宿の右手。その指先に小さく傷が出来、そこから血が出てきた。

 「え、ちょっ!?」
「大丈夫、ちょっとした傷だから。それより、この傷に対して、一度ヒールにかけてくれ」
「わ、わかりました。ひ、ヒール!」

目の前で起きたことに動揺が隠せないのか、声を震わせながら魔法をかけるカルデラ。
だが、しかし。
一向に魔法をかけるも傷は治ろうとはしない。

「よし、そこでストップだ」
「え、でも!」
「だから大丈夫だって。…それじゃあ今度はヒールをただ使うんじゃなく、えーと傷の上に丸いボールを乗せるイメージでかけてみてくれるか?」
「っ、わ、わかりました」

言われた通り、イメージしてもう一度ヒールをかけるカルデラ。
さっきと同様に以前と傷は治ってはいないが、

「そうそう、それを維持して」

その言葉を聞きつつ、カルデラはその時、自身が疲労している事に薄々と気付いていた。
ただヒールの魔法を使っているだけなのに、

(トオルの言うこと聞いてやってるだけで、疲れが溜まってくる?)

小さな疑問が生まれる。
と、その時。

「え!?」

そこに、小さな変化が起こった。
先ほどまで全く治りが遅かったはずの傷が薄っすら膜を張るようして、治ろとしているのだ。

「はい、そこでストップだ」
「っ、はぁ、はぁ。あ、あの、何でさっきよりも傷の治りが」
「まぁ、俺も聞いた限りの情報しか持ってないんだけど、本来ヒールは正確に部位周辺に回復をかける魔法なんだけど、このレイズ・ヒールはそれを更に縮小させて、特定の部位を集中して治す魔法なんだ」

そう言って神宿が自身の指先に同じように魔法をかける。
すると、ものの数秒で傷が完治し、

「ヒールに比べて回復速度も早くて、後無駄に魔力も消費しない、これがヒールの上、レイズ・ヒールっていう魔法なんだけど」
「で、でも私はこうして疲れて」
「まぁ、魔力はあまり消費しないんだけど魔法を繊細に扱う技術だけは、精神的にきついから始めは皆んなそうなるみたいなんだ」

現に俺なんてもうバテバテだったから、とそう言って笑う神宿を茫然と見つめるカルデラ。

「でも、やっぱりカルデラは才能はあると思う」
「え?」
「さっきのが証拠だけど、感覚も結構取れてたみたいだし、何回か練習すれば多分すぐにでも覚えられると思う」
「ほ、本当ですか?」
「ああ」

神宿はそう言って笑みを作る。
その優しげな表情。そんな彼の顔に対し。カルデラは一瞬頰に熱を感じるも直ぐ様顔を振って、

「ん?どうしたんだ?」
「えっ、なんでもないです! それよりも、私はまずはこのレイズ・ヒールを扱えるようになることが基本。そういうことなんですよね?」
「…ああ。それじゃあ、今度は傷とかなしで、イメージでやってみようか」
「はい!」


こうして、放課後の短い時間を使ったカルデラの修行が開始されることとなるのだった。

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