自害阻止スキルと自然治癒スキルを与えられた少年は、異世界転生からリタイヤ出来ない!

goro

理不尽な転生


それは突然の出来事だった。
普段通り、母親が用意してくれた弁当を鞄に詰め込み、学校へと通学しようとしていた少年、神宿 透はその日。

「ーーーーえ」

信号無視をした挙句、歩道へと突っ込んできた車に轢かれ、短い生涯に幕を閉じた。




人の行き死など、呆気ないものだった。
こんな些細な偶然で死ぬなんて本当に今までの人生、やってきた努力はなんだったんだろうかと、考えてしまう。
薄れゆく意識の中、砂時計の砂が落ちきるようにして神宿の命は事切れ、全てが暗闇となった。
そして、しばらく時間が経った。
そんな時、


「ちょっと? コンコン、聞こえてますか?」


頭上から、幼げな声が聞こえてきた。
後、頭を数回叩かれている。
神宿はゆっくりと目を開き顔を上げると、そこにはエルフのような耳を生やした綺麗な純白衣装に身を包んだ美少女がしゃがみこんだ状態で彼の顔を覗き込んでいた。
しかも、不機嫌な顔を浮かべながら、

「いつまで呆けてるんですか? そろそろ起きてほしいんですけど?」

謎の美少女にそう言われ、神宿はゆっくりと体を起こす。
そして、自分の容姿を確認すると、そこには朝着替えたまま学生服があり、またその衣服には真っ赤な血の痕があってーー

「……こ、これってやっぱり」
「そうです。貴方はついさっき死んで、ここに来たんですよ?」

そうはっきり言ってくれる彼女の言葉に一瞬固まってしまう神宿。
だが、これもゲームや漫画、ラノベ好きといった趣味のせいもあってか、この後に来る展開に気付き、

「…な、なぁ。も、もしかしてアンタって、女神様で」
「はい、そうです」
「…これって、転生の」
「よくわかってますね。流石、だてに転生モノの漫画や小説を読んでいただけはありますね」

はぁ~、と大きな溜息を漏らす彼女は更に続けて、まったく…なんでこんなのの担当にならなきゃならないのよ! と愚痴をこぼしていた。
対する神宿は、そんな彼女の様子を茫然と眺めながら、次第に固まっていた思考も回復していくのが自分でもわかっていく。


(そうか、俺死んだのか)

普段通り道を歩いていた。
ただ、それだけだったのに自分は車に轢かれ、命を落とした。

(…………テレビとかで見ていて、俺には関係ないとか思ってたけど……本当に、呆気なかったな)

死の間際、神宿は走馬灯を見た。
それは保育所から小学校、中学とこれまで経験して来た色々な事が込み上がってきた。だけど、その中で一番に浮かんだのは家族との思い出だった。

(…………そうか…)

だけど、そんな大切な家族を残して自分は先に死んでしまった。


(…………)


神宿は、大きな息を吐いた。
そして、

「あの、神さま」
「はい、なんですか?」

キッと睨みつけて来る女神に対して、神宿は申し訳ない様子で言った。



「その転生って話、無しにしてもらえないですか?」



………え? と固まる女神。

今なんて言った? と聞き返したいほどに彼女は自身の耳を疑った。
というのも信じられない言葉を聞いたからだ。

『転生』

地球に住む人間たちにとって、その言葉を聞けば、誰彼構わず喜んで受け入れる。
それが神様たちの知る常識だった。
だが、神宿 透という少年は、

「いや、なんていうか…正直、また生きかえりたいとも思えなくて……だから、もうここで死んでもいいかなって」
「…え、ちょ、ちょっと待って」
「転生しなかったら、記憶も全部消えるって言われても大丈夫ですよ。俺はそれでも構わないので………まぁ、ただ親とか妹とかには、先に死んだ事に対して、本当に悪かったなぁ、っていうのが最後の心残りなぐらいで」
「だから、ちょっと待ちなさいよ!!」

神宿の言葉を遮り、声を上げ荒い息を吐く女神。
以前とやる気を見せない少年に対し、彼女はアタフタした様子で説得に試みる。

「て、転生っていいものよ? その新しい人生とか」
「別にいいです」
「そ、その、色々特典もつくのよ? 例えば、能力! 少年としてはいいものじゃ」
「別にいいです」
「あ、新しい彼女とか」
「別にいいです」
「お金!」
「いい」
「ペット!」
「いい」
「ま」
「だから、別にそんなのいいですから」

立て続けに断り続ける神宿。
そうこうしていく間にも女神様の顔がだんだんと赤くなっていき、そして最後には、



「そんな事、言わないでよっ!? そんな理由で断られちゃったら、私、主神様にお仕置きされちゃうじゃないっ!!」


子供のように喚き散らす、女神様。
そんなの知るか、と思う神宿。

「お願いだから考え直して!」
「いやです。っていうか、さっきまでめんどくさそうにしてたんだから、別にいいんじゃ」
「よくない! よくない! よくないっ!! 私の機嫌が悪かったのは、アンタの他にいい美青年がいて、そっちに行きたかったのに行けなかったから貧乏くじ引かされたって思っただけで」
「……それ聞いたら余計に行きたくなくなったんだけど」


良いから転生受け入れなさいよっ!! と、ぎゃあぎゃあ騒ぐ女神様にげんなりする神宿はもう何回目かになる溜息を吐きながら顔を俯かせた。


彼がさっき言った通り、心残りがあるとするならそれは親や妹たちに何も言えなかったことだ。

だが、今更そう思ったところで何になる。

親より先に死ぬな、そんな言葉を何度か聞かされていた時期があったが、現に先に死んでしまった今となってはどうしようもないことだ。
だから神宿は思った。
家族に対して謝れないのなら、転生しても意味なんてない、と。


(………………?)


そこで、ふとさっきまでうるさかった女神の声が聞こえなくなっていた事に神宿は気付いた。
諦めたのか? と顔を上げる神宿。

すると、そこには、



「私は悪くない、私は悪くない、私は悪くない、私は悪くないっ」


まるで呪文のようにその言葉をブツブツと言いながら、手のひらを神宿に向ける女神の姿があった。
しかも、それに応じるように神宿の体が光り始め、

「なっ!?  おま」
「女神の祝福でスキル二つあげたから! だから、異世界で頑張って来なさい!!」

そして、神宿の声を無視して女神は魔法を放った。

それはーーーーー転生魔法。


「ちょ、ふざーー」


こうして、神宿 透は有無言わずして異世界へと転生させられる羽目になったのだった。










そして、現在。

「こんな理不尽な転生、聞いたことないんだけど」

神宿は今、森林の中央。空高く伸び栄えた大樹の下に寝かされていた。
服はいつの間にか学生服から冒険者みたいな格好になっており、剣や盾といった冒険に必要なアイテムが一通り揃えられている。

だが、それよりも先に気になったのが、すぐ近くに落ちていた小さな紙切れに対してーー


『貴方様に与えたスキルの説明をさせていただきます。

『自害阻止』スキル。
自ら死のうとする全ての行為・効果においてオートで防御魔法が発動するスキルです。
そして、もう一つは『自然治癒』スキル。外傷および、毒、麻痺、誘惑、出血等といった悪付与状態に陥いった場合にのみ、オートによる治癒が発動するスキルです。

とても光栄なスキルなので、それらを糧に異世界を生き抜いてください! テヘッ!』


と、紙にはそう書き記されていた。
神宿はそんなフザけた文が書かれた紙を握りつぶしながら、

「これって、光栄なスキルっていうよりも」

その二つのスキルを読む限り、それはある一つの行為を阻止するために与えられたスキルだった。


そう、つまりは自主的に異世界から逃げるといった行動を阻止するためのスキルであり、



「アイツ、俺が自殺しないようにスキルつけて異世界に飛ばしやがったーーッ!!」



こうして女神によって逃げ場を失った神宿 透は、有無言えずして第二の人生を異世界にて始めるはめになってしまうのだった。




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