カースオブダンジョン~あなたと私の心中旅行~

蛇使い座のな~が

秘密を暴いた代償

メスに付着した大量の血を拭き取り、Phoviaさんはそのメスで人質の手を縛り付けていた縄を切った。

「これでもう安全です。さ、早く逃げてください。」

縄が解かれたVIPたちは足早に去っていった。

「ったく、VIPのヤツら、助けてやったんだから『ありがとう』ぐらい言えよな」

「まあまあ、VIPルームは、魔窟みたいなところですし、命を狙われていたり、恨みを買っているプレイヤーも多い。こういう事件を見るのは日常茶飯事なんですよ、」

多分そのほとんどの事件は、あなたたち殺し屋が起こしているんだと思うけど。

「さて、とっとと帰りましょうか、まりさん、脱出成功おめでとうございます。」

「で、でも……これじゃあ自力の脱出にならないんじゃ……」




「自力で出るんだ、そうすれば晴れて、君は真の格闘家になれる。」




それが……師匠の、JHARIBANさんの教えだったんだよな、

「いえいえ、そんなことはありませんよ」

Phoviaさんはまりちゃんと目線を合わせるように、しゃがみ、まりちゃんの肩にぽんと手を置いて言った。
 
「周りの仲間の力を借りられることも、立派なあなたの力のひとつですよ。」

Phoviaさんは優しくまりちゃんに微笑みかけた。

 「そっか……そうかもしれませんね!」

まりちゃんは少女らしい明るい笑顔で笑ってくれた。

少女と暗殺者のやりとりとは思えないほどに微笑ましかった。




裏口を通って、全員なんとか地上に出ることが出来た。

「2人ともありがとうな、」

「依頼料はきっちりいただきますよ。」

「いやでも……人殺しまで頼んだ覚えは無いんだけど……」

「あれはちょいとやりすぎてしまっただけです。でも依頼料はいただきます」

「そんな理不尽な……まぁいっか、頼んだのは他でもない俺なんだし……」

殺し屋との金銭トラブルはどうなるかわかんないからな。自分が折れるしかないかもしれない。

「……ギフトで送った。crallessにも送っといたから、」

「おお、サンキュな、」

「人殺しをしたければ、私共はどこまででも飛んで行きます。今後ともご贔屓に……」

「う、うん、まぁ、考えとくよ」

さて、あとはXekioに捕まらないように……

「バンッ……バンッ……バンッ……」

……急に大きな破裂音がして、後ろを振り返る。何かが破裂するような音だと思っていたそれは、『拍手の音』だった。

Xekioが拍手をしていたのだ、あの巨大な手を鳴らして、

「なかなかの脱出劇だったじゃないか、諸君……」




「Xekio……」

「なに、君たちを咎めようとしてここに来た訳じゃない、これからこの施設を出ていく君たちに、我々の新しい仲間を紹介しようと思ってね!」

Xekioの後ろから現れたのは、運営側のプレイヤーKILHAだった。

「よぉ、脱出お疲れ様、」

「KILHA……? なぜあんたが?」

「どうやら我々の説得の甲斐あって、黒ギルドの側に来てくれるということになってね」

「ど、どういうことだ!?」

「俺が黒ギルドに加盟するのを渋っていた理由はな、まり、お前の存在があったからなんだよ。」 

まりちゃんの存在があったから……?

「私の……存在……?」

「ああ、あんたがここを脱出して独り立ちするまでは、あんたの面倒を見る役が必要だろう? 
お前には格闘のセンスもあるし、使いこなせてはいないようだったが、『クイックイクイップ』っていうとんでもねぇ強力なスキルも持っていやがる。
そんなやつが普通に奴隷として売られていたらどうなる?  野放しにされていたらどうなる? 誰かがお前を利用して王が殺されたり、逆に王がお前を利用して、より力をつけ、暴走し始めるかもしれねぇ、
だからあんたを外に出すまで、地下の連中からお前の存在を秘匿し、お前自身にも、お前の本当の強さを知られないようにしておく必要があったのさ」




「私はあなたの戦い方から、『クイックイクイップ』の使い方を学びました。」




だからまりちゃんは、Tellさんがクイックイクイップを使っているところを見るまで、

クイックイクイップを使用することが出来なかったわけか……

「KILHAは地下の均衡を保つために、君のことをひた隠しにしていたんだよ。だが君が脱出に成功したがために、地下のプレイヤーは君に近づくことが出来なくなった。KILHAが地下にいる理由も無くなったという訳だよ。」

「そんな……ご主人様は、私を助けてくれたんじゃ……」

「俺がお前を買ったのは、お前が地下にあってはならねぇ存在だと気付いていたからだ。もう地下には近づくな、立ち去れ」

「KILHA氏にはこれから我々のチームに加わってもらう。これからは敵同士というわけだから、よろしく」

KILHAさん達は私たちに背を向けて立ち去って行った。

去っていく彼のポケットから、1枚の紙が落ちた、

「ご主人様!! 落し物を!!」

まりちゃんは急いで紙を拾い、KILHAさんに届けようとする。

「いらん……あんたにやる、それともう俺はお前のご主人様じゃねぇ……」

まりちゃんの小さな背中が、悲哀で満ちていたのが分かった……




「落し物……返せなかったです。」

まりちゃんは残念そうに、私に紙を手渡してきた。

「まりちゃん、大丈夫だよ、」

こういう時、なんと言って励ましたらいいか分からない。

「その紙、なんなんだ?」

「さぁ……ただの折り畳まれた紙のようですけれど、」

おもむろに落し物の紙を開いてみる

「……えっ!?」

「ど、どうした?」

「これ、KILHAさんから、私たちに向けた手紙です。……読みますね、」




さっきはあんな態度を取ってすまなかった。だが、俺が言ったことは全て真実だ。まりのことを隠そうとしていたこと、地下の均衡を保とうとしていたこと、

全て真実だ。だが一つだけ言ってない真実がある。と言ってもお前たちはもうその真実にたどり着いていることだろう。

その真実とは、俺が運営側の人間であるということだ。

地下の均衡を保とうとしたのも、運営として地下帝国の環境を改善し、管理するため、

そして今回の黒ギルドへの加盟も、運営として黒ギルドの実態を調査するためだ。君たちに敵対する訳では無い。

かと言って君たちに協力する訳でも無い。黒ギルドの情報を渡したりもしないし、自分の身を守るためなら、君たちを傷つける可能性も否定出来ない。

最後になぞなぞを添えれるほど私の頭は柔らかくないので、これでメッセージを終わる。

まりをよろしく頼む。以上だ、




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