カースオブダンジョン~あなたと私の心中旅行~

蛇使い座のな~が

倒すべき敵

「な、なぜここに……?」

「おや? あんた見なかったのか? 俺たちが乗ってきた船を、」

「船……?」

私たちが見た船って……



「ええ、あまり良くは見えないですけれど、なんだか……大きさの割にボロっちい船ですわ、」

「もうすぐこちらに来るみたいですわ……かなりスピードはゆっくりみたい……なんだか、幽霊船みたいで気味が悪いですわね……」




「あの船はアズパイセンの趣味なんだよ、俺には全くもって理解が出来ないけどな……」

あの船は……こいつらの船だったのか……

「お前たちの動向は船の上から監視させてもらっていた。」 

「ま、監視してたのは俺たちじゃないんだがな、」

「どういうことだ……?」

「HIGAN様は死を司るお方、一時的に人間の魂を引き抜くことも容易い……」

「兵士の魂を1つ拝借して、幽体離脱させ、生霊のスパイとしてあんたらの島に送り込んだって訳だ。ほら、」

AsBemはもうひとつの棺桶をアイテムストレージから取り出し、蓋を開けた。

中に入っていたのは魂を抜かれた兵士だった。

「ヒュー…………」

「うわっ!?」

何故か左半身に寒気を感じ、左後ろを振り向くと、小さな青色の人魂のようなものが、微かに見えた気がした、

人魂は棺桶の中の兵士へと近づき、兵士は再び息を吹き返した。

「AsBem様、HIGAN様、帰還してまいりました。」

「ご苦労だった」

「良かったな、ちゃんと戻れて……ククク………」

戻れなかったら、どうなっていたんだろうか……

「そんなことより……親父をどうするつもりだ……?」

「ちょっとばかし借りていくぜ、聞きたいことがあるんでな、」

「聞きたいこと……?」

「ま、そういうことだ、俺たちは用が済んだから帰るぜ?」

「なっ!? おい待て!!」

2人はまた、雪山の時にも使った転移魔法の魔法石を使い、再び目の前から姿を消した……




「よし、これでOKだな……」

私たちは、今までの怪我をゼットさんに回復させてもらっていた。

「ネームレス、これでいいか?」

「ごめんね、手を煩わせちゃって、」

「それはいいんだ、でも、残念ながら、俺では機械の体は直せない、」

「それに関しては大丈夫、仲間に直して貰うから、」

ゼットさんでは治せないもの、もうひとつある。それは……

「KUMIも、悪いけど俺では呪いは治せん……」

私の装備した剣の呪いだ。

「その剣、今どうなってる?」

「なんか、強力な接着剤が付いてるみたいに、手に引っ付いてます。」

「祈祷師か聖職者に頼むしかないな……」

「アミカさん、この島の近くに、教会なんて無いよね……?」

「教会か……私の知る限りじゃ……無いな、」

呪いは教会で治して貰えると言うが……教会自体がこの近くにはほとんど無いようだ……

「ねぇ、KUMIちゃん、私、知ってるよ?」

口を開いたのは、ネームレス、いや、『しの』だった。

「知ってるのか? ネームレス、」

「うん、あたしの同業者に、表向きはシスターをやってるやつがいる、そいつも元々のジョブは『聖職者』だから、呪いを解けるはずだよ?」

表向きはシスターの殺し屋か……とんでもない人だな……

「じゃあしの、その同業者の所まで案内してくれない?」

「いいよ、多分、この体を作ってくれた人と一緒の所にいるだろうから、私の義手の修理と一緒に頼みに行こうよ。」

「そういえば君は、『しの』って名前なんだったな、」

「うん、そうだよ?」

「ゲーム内でも同じ名前を名乗ってたのか?」

「いや、そういう訳じゃ無いんだけど……」

「じゃあ、ゲーム内での君の名前は? 」

確かに気になる、しののゲーム内での名前、どんなのをつけたんだろう?

「いや、実はさ、私、『本当にネームレス』なんだ、名前を打ち込むところでは、スペースキーを1回押して、そのまま終了させた。」

「スペースキーを……? そんなことが出来るのか……?」

「うん、私のゲーム内の名前は『スペース1つ』だからネームレスなんだよ。」

「なんで……そんなことを?」

「あたしが……『しの』だってことを隠したかった……」

その理由、私には分かる。

「怖かったんでしょ? ……私に、自分が『しの』だと知られるのが……」

しのは俯いたまま、

「…………うん、」

と静かに頷いた。




あたしは、自分の素性を隠したままで、KUMIちゃんを守るつもりでいた……なるべく私のことを知られずに、KUMIちゃんに出会って、守るはずだった。

KUMIちゃんは……私のせいでこの世界に来てしまった。私たちのいじめが原因だった……

「ねぇねぇ、あの暗いやつ……ちょっと懲らしめてやりたくない……?」

私もあいつのいじめの標的になりたくない……その一心で、あいつに合わせた……その時は、こんなことになるなんて露も知らなかった。

「ねぇ、これ面白そうじゃない? 呪いのゲーム……」

「実験台は黒崎さんにしようよ、絶対面白いことになるよ……!」




「あたしが……あいつなんかに合わせなければ……あたしにもっと……あいつらに立ち向かう勇気があれば……KUMIちゃんはこんな場所に来ないで済んだのに…………」

罪の意識……それが、彼女をつき動かしている要因だったというわけか……

「ねぇ、もうこの世界に来てから随分経つから忘れてると思うけど……あの時、教育実習生の人が来てたの覚えてる?」

「教育実習生……?」

桐橋きりはし先生だよ。あの人、私たちのいじめの現場を見てたんだ。」

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