カースオブダンジョン~あなたと私の心中旅行~

蛇使い座のな~が

ともに行く仲間

RAYさんの怪我が、少しずつ治って、自分で歩けるぐらいまで回復してきた時のことだった。

「RAY、これ、ゼットから貰った痛み止めの薬、」
「Tell、ありがとうな、」

RAYさんの怪我の中には、後遺症が残るようなひどい怪我もあった。特に酷かったのは左目の怪我、ゼットさんからは、もう二度と開くことはないだろうと言われた。RAYさんはきっと、壮絶な戦いをしたんだろう。
あの、裏切り者と……

「いいよ、もともとは俺が原因なんだし……」

あの日以来、Tellさんはいつも元気がなさそうだった。ずっと信じてきた友だちに裏切られる。きっと相当なショックだったんだろうな。

「……まだ、悩んでいるのか? メリアのこと、」
「…………」

Tellさんは黙り込んでしまった。

「やっぱ最近お前らしくないぞ? いつものお前は常に笑ってて、誰にでも優しくして、悪く言えば、何考えてんのかいまいちよく分からないような……」

失礼だな……否定しないけど……

「………」
「はぁ、いい場所を知ってる。そこに行こうか、」

RAYさんは、ゆっくりと立ち上がろうとした。

「ダメですよ! 安静にしてなきゃ!」

これ以上、怪我が酷くなっても困る。これでまた傷口が開いてしまっては大変だ。

「大丈夫だよ、もう歩ける。KUMIちゃんも一緒にな?」

「本当に大丈夫なんですか?」

「大丈夫だよ、さぁ、行こう?」

「はい……でも、どんな場所なんですか?」

「う~ん、……自分の考えを変えてくれそうな場所、かな?」




歩いて5分程度の場所に大きな滝が流れていた。どうやらここは滝壺らしい、迫力のあるすごく綺麗な場所だった

「ここは?」
「『トレニアの滝』、凄いだろ?この迫力!!」

RAYさんは見た目は女の人に見えるけど、こういうものを見て興奮している様子を見ると、やっぱり男の子なんだな……

「まだ、悲しいか? あいつがいなくなって、」
「………悲しいさ、なんたって、あいつをあんな風に歪ませてしまったのは、俺なんだから……」

そんなことないのに……

「じゃあ、お前は今悲しいんだな?」
「……ああ、」

「悲しすぎて自殺なんて出来ないよな?」
「……? お前は何を言って……?」

RAYさんは意味ありげにニヤリと笑い、Tellさんの鉄の剣を奪った。

「あっ! ちょっ!? お前!!」
「これ、借りるぞ? えいっ!!」

「ヒューー……ボチャンッ!」
「あっ!? おい!!」

Tellさんが今まで使ってきた。大事な鉄の剣は、滝壺の中に落ちていった。

「どうすんだよこれ!?」

「まあまあ、そうカッカすんなって、わっ!? 毛虫!?」
「うわぁっ!!?」
「ハハ、嘘だよ」

「てめぇ!!」
「なに? 怪我人に手上げるつもり?」
「……クッ!!」

Tellさんは抑えようのない怒りを逃がすように地面を蹴った。

「どう? 怒った?」
「怒ってるよ!! こんなことされて怒らないやついるかよ!!」

RAYさんは安心したように笑った。

「……それだよ、」
「……えっ?」
「人間は悲しくたって、怒ったり、怖がったりできるんだよ、それができるなら、悲しくても、楽しんだり、笑ったりできるだろ?」

確かに、さっきまで悲しくて元気のなかったTellさんが、怒っている時は元気そうに見えた。

「悲しいっていう感情は、人間が持つ全ての感情の中で、1番弱い感情なんだ。そうじゃないと人間は、悲しみに打ちひしがれて、逃げることを忘れてしまうかもしれない。そうすれば、あとは絶望しか残っていない。」
「あとは、絶望しか……?」

「ボクは好きだよ? お前みたいな死に方、現実世界に絶望したら、ゲームの世界に逃げればいい、ゲーム世界に絶望したら死後の世界に逃げればいいってやってけば、永遠に希望が尽きないんだよ、そりゃあ楽しく死ねるよね!」

どうしてだろうか、とても暗い話のはずなのに、希望に満ち溢れている。そうか、そういう考え方もあったのか。Tellさんも、言われて始めて、自分の自殺の意義に気がついたらしい。

「そうか、俺は……」
「だから、悲しいことがあっても、極限まで悲しむようなことはしないで欲しい。そうじゃないと、自分で用意した逃げ道でさえ、自分で塞いでしまうから、どうせなら、したい事だけして死にたいじゃん?」

「そうだな、俺、間違えてたよ、」
「良かった、いつものTellだ!」
「アハハハ、」

2人は顔を見合わせて笑っていた。そうか、「したい事だけして死ぬ」か……私のしたいことってなんだろう……?




帰り道、私は、考えた末に、Tellさんにこんなことを言った。

「Tellさん!あの!」
「どうしたの?KUMIさん、」
「私、これからも、Tellさんについて行っていいですか?」

「えっ!?」

Tellさんは少し面食らったような顔をした。

「私、RAYさんに言われて、考えたんです。私のしたいことってなんだろうって、したいことだけ死ぬってどういうことだろうって、」

「KUMIさんの……したいこと?」
「私、Tellさんと一緒に死にます。Tellさんと一緒にこの世界を旅することが、私のしたいことです!」

「……そっか、じゃあ着いておいで」
「はいっ!!」

「良かったな、Tell、これで『自殺旅行』が『心中旅行』になったな、」

私たちは、顔を見合わせて笑っていた。

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