ゼロの魔女騎士《ウィッチナイト》

鴨志田千緋色

石田神社攻略戦

「石の場所が判明しました」


 再びハワードがやってきたのはそれから数日後のことだった。客間にいるのは僕、愛梨彩、ハワードの三人。以前と同じメンバーだ。
 ハワードを警戒してかブルームは姿を見せない。フィーラの時もそうだったが、愛梨彩の関係者であっても自身の存在はなるべく秘匿したいようだった。


「で、その場所はどこかしら?」
「石田神社です」
「石田神社!?」
「魔導教会だったのがそんなに驚き?」


 石田神社といえばこの地域の中でも特に大きい神社だ。その立地の良さからか、成石学園の生徒が友達同士で初詣しにいく時はだいたい石田神社を訪れる。出店なんかもあり、僕も咲久来と毎年訪れていた場所だ。八神教会もそうだが、こんなに近くに魔導教会があるなんて。


「いや……よく知っている場所だったから。ごめん、話を続けてくれ」
「魔導教会側から聞き出せた情報は?」
「現在石田神社には教会から派遣された新たな魔女がいるようです。名前はサラサ ・シャジャル。彼女が石の護衛担当です。アイン・アルペンハイムの存在は確認されていません」


 アインがいない——ということはスレイヴである咲久来もいないことになるだろう。一刻も早く彼女を説得して止めたいという気持ちもあるが、今は戦わなくて済むことに感謝したい。


「魔女一人だけ? スレイヴは?」


 顎に手を宛てがいながら愛梨彩が尋ねる。


「今のところ特定のスレイヴは確認されていないようです。ですが、あくまで『特定の』スレイヴがいないだけです。アインのようにその場でスレイヴを作り出す可能性も視野に入れておいてください」
「了解したわ。不確定要素は多いけれど、襲撃してみる価値はありそうね」


 愛梨彩はあっさりと襲撃を決断した。アインがいないとはいえ、初めて戦う魔女が相手だ。そう簡単に襲撃できるとは思えないが……


「私のところまで流れてきた情報は以上です。偽情報を摑まされている……ということもありますので、細心の注意を払ってください」
「わかったわ」
「健闘を祈っております。では私はこの辺で」


 要件が済むとすぐにハワードは立ち去った。錬金術師のはずなのに、やっていることは使者のようだった。


「ハワードの情報、信用するのか? また八神教会の時みたいに待ち伏せられてるかもしれないよ」


 いなくなったハワードを尻目に自分の本音を打ち明ける。前回のことも考えると、教会から流れてきた情報を鵜呑みにするのは危険だ。いくらハワードが知己の仲とはいえ、情報まで信頼できるとは限らない。


「待ち伏せされているでしょうね。教会側は防衛戦が基本ですもの。ただアインという主戦力がいないのは引っかかるわね」
「じゃあやっぱり罠?」
「そうね。でも私たちには情報がない。どのみち秋葉にある魔導教会はしらみ潰しにした方がいいのよ。そういう意味では襲撃しないという手は考えられないわね。可能性があるならなおさらよ」
「わかった。僕は君の考えに従う」


「今日の夜にしかけるわ。ブルームにもそう伝えておく」
 かくして僕らの石田神社攻略戦が始まろうとしていた。不可確定な要素は多いが、それでもやるしかない。それが賢者の石に至る最短ルートなのだ。
 どんな相手がこようとも、戦ってやる。彼女を勝たせるのだと大口を叩いたのだから。



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