ゼロの魔女騎士《ウィッチナイト》

鴨志田千緋色

愛梨彩の独白/インターリュード

 *interlude*


「自分がどんな選択をしたかわかってるの!」


 どうしてこんなことになってしまったのだろう。
 この教会に潜入するために纏った視覚遮断のローブは完璧に機能していたはずだった。魔力のない一般人には見つからないはずだった。


 それなのにこの男――太刀川黎には私の姿が見えていた。


 今、この男は瀕死の重傷を負っている。いや、もう死んでいるかもしれない。瞳孔は開いたままで、心臓部には風穴が空いている。これが死体でなければなんなのか。
 正直、自業自得と言えば自業自得なのだ。この男が勝手に首を突っこんできて、勝手に死んだ。ただそれだけ。
 あの場で庇われなくても私には反撃する手段があった。彼はいらない犠牲に違いなかった。


 だからといってこのまま放置するのか?


 それは違う。いらない犠牲だったことに違いはない。こんなふうに犠牲者を出さないために私は人との関わりを避けてきた。遠ざけようとしてきた。
 それでも彼は……彼だけは私から遠ざかることを拒んだ。なら、私が彼にしてあげられることはただ一つしかない。


「どうした? 防戦一方か?」


 眼前の男が私を煽る。ワーウルフの攻撃の勢いは止まらない。加えてアインの魔札スペルカードによる炎魔法の援護射撃。
 自身の手札を確認する。バリア魔法が二枚、射出系魔法が二枚、掃討魔法が一枚。どれも水属性だ。腰にマウントしているカードケースの中にはこの状況を打破する魔札はあるが、この戦いで切ってしまうのはいかがなものか……
 加えて二対一の状況。このまま手をこまねいていれば不利になるのは私の方だ。乗り切るには「駒」が足りない。


 ――まずは態勢を立て直さないと。


 水のバリアスフィア・オブ・アクアを移動させ、教会の壁へと打ちつける。壁は崩れ、私たちを保護している水球は教会の外へと飛び出す。その場しのぎにしかならないが距離を取るしかなかった。


「あなたがいなければこんなことにはなってなかったのよ」


 「太刀川黎だったもの」に愚痴をこぼす。もちろん聞こえてはおらず、返事の一つもしない。


「あなたは逃げなかった。だからもし恨むなら自分を恨みなさい。自分の選択を恨みなさい」


 それはきっと自分の覚悟を決めるための言葉だった。魔札スペルカードに頼らない、自分の中の魔法を使うための覚悟。そうでも言わないと他人を巻きこんだ業を背負えないと思った。 
 深く息を吐き、意を決して呪文を唱える。


これは進行の理に逆らう秘術なり。是は死者を生者の似姿にする邪術なり。洗練されし我が九条の魔術式よ。彼の者へ魔力の循環を。我が身体からだから魔力の通い道を。一を零に戻す魔術をもって、薄暮を黎明に戻さん。我――九条愛梨彩の名をもって命ずる。汝、我がしもべになりて敵を討つつわものとなれ! 復元魔法――『魔女に隷属せし死霊騎士スレイヴ・レイス』」


 *interlude out*



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