異世界でも自由気ままに
初依頼2
シグルズが向かっている森はゴブリンやスライムなどの低ランクの魔物が多く生息していて、街からの距離も約5kmと他の狩り場と比べて近いため、低ランクの冒険者達が冒険者の基礎を身に着けるためによく使われている「始まりの森」という場所だ。
道中、進路上にいた魔物を魔法で瞬殺して、ものの数分で森に着いたシグルズはマップを見ながら森の中に入って行くと周囲に人が居ないことを確認して異空間への門を開いた。
「ゲートオープン」
目の前の空間が歪み、異空間と繋がると同時に飛び出してきたエレインが僅かな間でも離れていたことを寂しがるようにシグルズに体を擦り付けると、シグルズも静かにエレインの頭を撫でて柔らかな毛並みを楽しむ。続けて出てくるはずのバルドを待っていると、歪んだ空間の先に見える質素な屋敷からメイド服姿の女性がバルドを胸に抱えて歩いてきた。
「すまないね、クロ。ほらバルドもお礼して」
シグルズにクロと呼ばれた黒髪の女性からバルドを手渡されたシグルズがバルドに声を掛けると、彼女は眠たそうな瞳を僅かに開いてクロを見ると「ありがとう」と短い言葉を発してシグルズの腕の中で眠りについてしまった。その様子にシグルズが苦笑を浮かべつつも優しくバルドの背を撫でる姿を愛おしく思いながら見ていたクロは、いつまでも見ていたいと思いながらもシグルズに声を掛ける。
「それでは私は失礼致します、マスター」
「うん、ありがとう。今日家を買ったらクロとコクに管理を任せるからよろしくね」
「はい、畏まりました。マスター」
「それじゃあ、また後で」
クロの見送りを受けて異空間への門を閉じると、シグルズはマップ上に表示された赤い点が多く集まっている森の深部へと歩き始めた。
「主殿」
「うん、やっていいよ」
「了解した!」
深部に近づくにつれて魔物の数が増えていき、見つけては瞬殺見つけては瞬殺という作業をエレインがこなす中、シグルズは特に何もすることがなくバルドを愛でていた。
「うーん。強いとは思ってたけど、ここまで差があるとは。いや、相手が弱すぎるのか」
「ははは、確かに……ね」
シグルズの呟きに苦笑を漏らしたゼスはゴブリンの群れを蹂躙するエレインをどこか遠い目で見つめる。
「彼女はシグと出会ってからの鍛錬で魔の森の中でも最上位の力を持つようになったんだから、当たり前と言えば当たり前なんだけどね」
「そうだけど、流石に弱すぎないか?」
シグルズは蹂躙を終えたエレインを見ながらゴブリンが死ぬ前に覗いていたステータスを思い出す。
ゴブリン 男 レベル2
ランク E
体力 25/25
魔力 0/0
筋力 8
敏捷 6
耐性 7
知力 3
器用 4
【スキル】生殖1
魔の森にいたゴブリンと比べて圧倒的なまでの弱さ。7体いた他のゴブリンを見てもレベル8が最高で、能力値の合計平均は45。今まで魔の森を基準に生活していたシグルズにとって、筋骨隆々で逞しかったゴブリンが本来の姿といえども細い体に醜悪な顔に加えてここまでの弱さとなると困惑せざるを得なかった。
「終わったぞ、主殿」
「うん、ありがと」
シグルズは擦り寄って来たエレインを軽く撫でた後、討伐の証明として冒険者ギルドに提出するゴブリンの魔石を回収し、血の臭いで魔物が集まらないようにエレインの爪で切り裂かれた首から流れ出る血と死体を処理して血の広がった場所を綺麗な元の状態に戻すと歩みを進める。
「この様子だと本当にすぐ終わっちゃうな……」
「はは、それはそうだよ。Eランクのゴブリンに対してSSランクのエレインが相手なんだから。それにシグならもっと早いでしょ?」
「うむ、主殿なら一瞬で終わるはずだ」
「まあ、そうなんだけどさ」
エレインによる戦闘も本気を出していないにも関わらず大した時間は掛かっていないのだが、シグルズの場合は文字通り一瞬でこの森にいる、正確にはマップの範囲内にいる任意の魔物を全て狩ることが出来てしまうのだ。単純に馬鹿げた能力値を活かして首を刎ねて回っても瞬き1つする間も掛からないし、時空魔法で敵の場所と空間を繋げて背後から魔法で強襲するなど様々な方法があるが、それをしてしまっては何の面白みもないし、ただの作業になってしまうので進んでやろうとはしないのだが。
そもそも物質変換のスキルを使ってしまえばこうしてわざわざ討伐などする事なくギルドに魔石を提出できるのだが、ギルドカードには依頼の履歴以外にも不正を防ぐために討伐したモンスターの種類や数、討伐した日付などが記録されることを事前にボールスから説明されていたので、こうして狩りに来ているのだ。ギルドで説明されなかった理由は不正をしようとする低ランクの冒険者を取り締まるためで、ある程度の経験を積んだ冒険者達には常識として知られている。
「今のランクじゃ仕方ないかっと。ここを潰せば足りるな」
あれこれ考えている内に森の最奥の開けた場所にあるゴブリンの集落の前に辿り着いたシグルズは冷たい目で前を見据えた。
「滅せよ」
耳にした者を凍り付かせるような声音でシグルズが呟くと集落の中心、上空10mに直径1mの光の球体が出現し、そこから放たれた多数の光線がゴブリン達の頭や胸を焼き貫き絶命させていった。
38個の赤い点がマップ上から消えたのを確認したシグルズは、簡易な木の柵で囲われた集落に足を踏み入れた。集落内は屋根はあるものの壁のない小屋のようなものが幾つかあり、そこに散らばっているゴブリンの死体を魔石を回収しながら一か所に集めると一気に火をかけて灰にする。
それから集落の外に出ると新たな魔物の住処にならないように柵や小屋を燃やしてその場を後にした。幸いにも高温の光線で攻撃したため傷口が焦げ付いたことで、血が広がるということもなく面倒な後処理をしなくて済んだ。
「ゴブリンの魔石35個と上位種のゴブリンリーダーの魔石1個とゴブリンアーチャーの魔石が2個か。ここに来るまででゴブリンの魔石が16個回収できたから、ゴブリンの魔石が51個で依頼10回分だな。体力草は腐る程アイテムボックスにあるし、グレーウルフの魔石は昨日街に着くまでにやたらと襲われて38個あるから7回分と。合わせて17回分だからあと13回分の依頼をこなせばいいんだけど、体力草で13回分報告すればいいかな……、さっさとランク上げたいからホーンラビットは無しでいいや」
「そうだね、もう次に行っていいと思うよ」
「私ももっと強いものと戦いたい」
「あー、暫くは我慢してね」
エレインには可哀想だが、強敵と出会うのはまだ少し時間が掛かると苦笑し、シグルズは森の外に向かった。
道中、進路上にいた魔物を魔法で瞬殺して、ものの数分で森に着いたシグルズはマップを見ながら森の中に入って行くと周囲に人が居ないことを確認して異空間への門を開いた。
「ゲートオープン」
目の前の空間が歪み、異空間と繋がると同時に飛び出してきたエレインが僅かな間でも離れていたことを寂しがるようにシグルズに体を擦り付けると、シグルズも静かにエレインの頭を撫でて柔らかな毛並みを楽しむ。続けて出てくるはずのバルドを待っていると、歪んだ空間の先に見える質素な屋敷からメイド服姿の女性がバルドを胸に抱えて歩いてきた。
「すまないね、クロ。ほらバルドもお礼して」
シグルズにクロと呼ばれた黒髪の女性からバルドを手渡されたシグルズがバルドに声を掛けると、彼女は眠たそうな瞳を僅かに開いてクロを見ると「ありがとう」と短い言葉を発してシグルズの腕の中で眠りについてしまった。その様子にシグルズが苦笑を浮かべつつも優しくバルドの背を撫でる姿を愛おしく思いながら見ていたクロは、いつまでも見ていたいと思いながらもシグルズに声を掛ける。
「それでは私は失礼致します、マスター」
「うん、ありがとう。今日家を買ったらクロとコクに管理を任せるからよろしくね」
「はい、畏まりました。マスター」
「それじゃあ、また後で」
クロの見送りを受けて異空間への門を閉じると、シグルズはマップ上に表示された赤い点が多く集まっている森の深部へと歩き始めた。
「主殿」
「うん、やっていいよ」
「了解した!」
深部に近づくにつれて魔物の数が増えていき、見つけては瞬殺見つけては瞬殺という作業をエレインがこなす中、シグルズは特に何もすることがなくバルドを愛でていた。
「うーん。強いとは思ってたけど、ここまで差があるとは。いや、相手が弱すぎるのか」
「ははは、確かに……ね」
シグルズの呟きに苦笑を漏らしたゼスはゴブリンの群れを蹂躙するエレインをどこか遠い目で見つめる。
「彼女はシグと出会ってからの鍛錬で魔の森の中でも最上位の力を持つようになったんだから、当たり前と言えば当たり前なんだけどね」
「そうだけど、流石に弱すぎないか?」
シグルズは蹂躙を終えたエレインを見ながらゴブリンが死ぬ前に覗いていたステータスを思い出す。
ゴブリン 男 レベル2
ランク E
体力 25/25
魔力 0/0
筋力 8
敏捷 6
耐性 7
知力 3
器用 4
【スキル】生殖1
魔の森にいたゴブリンと比べて圧倒的なまでの弱さ。7体いた他のゴブリンを見てもレベル8が最高で、能力値の合計平均は45。今まで魔の森を基準に生活していたシグルズにとって、筋骨隆々で逞しかったゴブリンが本来の姿といえども細い体に醜悪な顔に加えてここまでの弱さとなると困惑せざるを得なかった。
「終わったぞ、主殿」
「うん、ありがと」
シグルズは擦り寄って来たエレインを軽く撫でた後、討伐の証明として冒険者ギルドに提出するゴブリンの魔石を回収し、血の臭いで魔物が集まらないようにエレインの爪で切り裂かれた首から流れ出る血と死体を処理して血の広がった場所を綺麗な元の状態に戻すと歩みを進める。
「この様子だと本当にすぐ終わっちゃうな……」
「はは、それはそうだよ。Eランクのゴブリンに対してSSランクのエレインが相手なんだから。それにシグならもっと早いでしょ?」
「うむ、主殿なら一瞬で終わるはずだ」
「まあ、そうなんだけどさ」
エレインによる戦闘も本気を出していないにも関わらず大した時間は掛かっていないのだが、シグルズの場合は文字通り一瞬でこの森にいる、正確にはマップの範囲内にいる任意の魔物を全て狩ることが出来てしまうのだ。単純に馬鹿げた能力値を活かして首を刎ねて回っても瞬き1つする間も掛からないし、時空魔法で敵の場所と空間を繋げて背後から魔法で強襲するなど様々な方法があるが、それをしてしまっては何の面白みもないし、ただの作業になってしまうので進んでやろうとはしないのだが。
そもそも物質変換のスキルを使ってしまえばこうしてわざわざ討伐などする事なくギルドに魔石を提出できるのだが、ギルドカードには依頼の履歴以外にも不正を防ぐために討伐したモンスターの種類や数、討伐した日付などが記録されることを事前にボールスから説明されていたので、こうして狩りに来ているのだ。ギルドで説明されなかった理由は不正をしようとする低ランクの冒険者を取り締まるためで、ある程度の経験を積んだ冒険者達には常識として知られている。
「今のランクじゃ仕方ないかっと。ここを潰せば足りるな」
あれこれ考えている内に森の最奥の開けた場所にあるゴブリンの集落の前に辿り着いたシグルズは冷たい目で前を見据えた。
「滅せよ」
耳にした者を凍り付かせるような声音でシグルズが呟くと集落の中心、上空10mに直径1mの光の球体が出現し、そこから放たれた多数の光線がゴブリン達の頭や胸を焼き貫き絶命させていった。
38個の赤い点がマップ上から消えたのを確認したシグルズは、簡易な木の柵で囲われた集落に足を踏み入れた。集落内は屋根はあるものの壁のない小屋のようなものが幾つかあり、そこに散らばっているゴブリンの死体を魔石を回収しながら一か所に集めると一気に火をかけて灰にする。
それから集落の外に出ると新たな魔物の住処にならないように柵や小屋を燃やしてその場を後にした。幸いにも高温の光線で攻撃したため傷口が焦げ付いたことで、血が広がるということもなく面倒な後処理をしなくて済んだ。
「ゴブリンの魔石35個と上位種のゴブリンリーダーの魔石1個とゴブリンアーチャーの魔石が2個か。ここに来るまででゴブリンの魔石が16個回収できたから、ゴブリンの魔石が51個で依頼10回分だな。体力草は腐る程アイテムボックスにあるし、グレーウルフの魔石は昨日街に着くまでにやたらと襲われて38個あるから7回分と。合わせて17回分だからあと13回分の依頼をこなせばいいんだけど、体力草で13回分報告すればいいかな……、さっさとランク上げたいからホーンラビットは無しでいいや」
「そうだね、もう次に行っていいと思うよ」
「私ももっと強いものと戦いたい」
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