異世界でも自由気ままに

月夜 夜

冒険者ギルド

 時折露店を見ながら暫く歩いていると、盾の上に2本の長剣を交差した紋章が描かれた、大きな旗を掲げている6階建ての立派な建物が目に入った。ここに来るまでの建物は大半が1階建てで、店の看板を出しているところが稀に2階建てや3階建てだったので、この建物はある程度近づいたところからはだいぶ目立っていたのだが、この紋章があるという事はここが冒険者ギルドだろう。各ギルドの紋章はボールスから聞いていたので間違いない。


 またこの建物は横にも非常に大きい。考えてみれば普通に分かる事だが、この街には3万人近くの冒険者がいるのだからそれに対応することが出来る建物となれば、大きさはどれだけ有っても足りないだろう。材質は綺麗な大理石で出来ているようで外見も美しく、荒くれ者の冒険者が集う場所にはとても見えない程だ。


「ここが冒険者ギルドか。でかいなー」


 シグルズはまじまじとギルドを眺めると、入り口に立てかけられた少し大きめの看板を見た。


「1階が素材の買い取りと依頼の報告で、2階が依頼と依頼の受理と冒険者登録か。3階は冒険者用の酒場で、4階からは書いてないけど、たぶん職員の仕事場かな」


 看板にはポーションなどのアイテム販売をする道具屋や、訓練場の場所などの情報も記載されており、目的のサービスが受けやすくなっているようだ。


「とにかく入ってみようか」


 看板から視線を外し、馬車が通れそうなほど大きく開かれた入り口を通ると、正面には素材の買い取りと依頼の報告の窓口が別々に5個ずつあり、左側には道具屋や簡易的な武器の手入れをしてくれる場所があった。右側には二階に上がるための木製の階段があり、複数の冒険者が行き来している様子が見られた。


「ようこそ冒険者ギルドへ、今日はどのような御用でしょうか」


 ギルド内に入ると職員の制服を着た男性が笑顔で話しかけてきた。


「冒険者登録に来ました」


「登録ですね、2階の受付までご案内致しますのでついてきてください」


「はい、ありがとうございます」


 職員がこうして声を掛けるのはよくあることで、迷っているうちに余計な混雑を生み出さないようにするためと、不審な人物が出入りしないようにするために防犯活動として行っているのだ。


 シグルズは職員の後についていき階段を上って2階に来ると、ここにも10個ある窓口のたまたま誰も並んでいなかった1つに案内された。


「ここで手続きを行ってください、カリンさん登録の手続きを」


「はーい、登録ですね。あちらの机でこちらの項目に書ける所だけ書いて下さい。書きたくないところは未記入で構いませんから」


 カリンと呼ばれた受付嬢は、1枚の紙を取り出しながら受付の正面に置かれた幾つかの机と椅子の方を指さして言った。


「分かりました」


「では私は失礼しますね、何かあれば下にいますので声を掛けてください」


「はい、ありがとうございました」


 シグルズがお礼を言うと男性職員は一礼してから1階に戻って行ったので、シグルズも机に向かい椅子に腰を下ろすと予め置かれていたペンとインクを使い、用紙の項目を埋めていった。


(職業は教会に行かないと無職のままだから、取り敢えずテイマーでいいかな。エリン達もいるから問題ないだろう。性別の欄がないけど、冒険者にはあまり関係ないからかな?年齢は15歳で、魔法の有無は全部と。いや、流石に全部は不味いか?どうせばれるからこれでもいいんだけど…取りあえず、一番使う生活魔法と火炎魔法と雷迅魔法を書いとけばいいな)


 他にも様々な項目があったが順調に埋めていき、書き終わったシグルズは立ち上がってカリンの方を見ると、二人の冒険者が並んでいたので、その後ろに並んだ。


 並んでいる間に他の窓口を見てみると、受付嬢はエルフや獣人族が多いようで、誰もが美しい見た目であった。これは冒険者たちのやる気を出させるために、ギルド側が厳選した者達なので当たり前なのだが、荒事の多い冒険者ギルドで働く彼女たちは見た目だけでなく実力も兼ね備えていることを忘れてはならない。受付嬢になるためにはBランク冒険者を倒せるだけの力がなければならないのだから。


 ちなみにカリンは茶髪のボブヘアーに、右目の下に泣きぼくろがある大人の雰囲気の人族の美人さんだ。ギルドに勤めている期間も受付嬢の中では長い方で、かなりのベテランであるのだが、実年齢は彼女の名誉にかけて不詳としておこう。


「次の方どうぞー、あ、書き終わりましたか?」


 他の受付嬢を眺めているとあっという間に自分の番になったので、カリンの声に視線を正面に戻すと、用紙を彼女に渡した。


「はい、確かに。シグルズ様ですね、職業はテイマーですか。年齢制限も満たしているようですし、魔法は生活魔法に火属性魔法と雷属性魔法が使えると。魔法使いとしても期待できそうですね」


 用紙に記載された情報を確認しながら一通り目を通した彼女は用紙をしまうと透明な拳大の水晶を窓口の台に置いた。


「では最後に年齢の確認と犯罪歴の確認の為に、この水晶に手をかざしてください。白く光れば問題ありません」


「分かりました」


 シグルズが街に入るときと同じように水晶に手をかざすと、5秒程してから水晶が白く発光したので、カリンが確認するのを待ってから手を放した。


「はい、問題ありません。これで登録は完了になりますが、カードの発行が終わるまで少し時間が掛かりますので、その間に冒険者の説明をさせていただきますね」


 シグルズはボールスから大体の事は教えられていたのだが、もう一度しっかりと確認するために、カリンに「お願いします」と言った。


「まず、冒険者というのは冒険者ギルドに依頼された仕事をこなし、冒険者ギルドから身分を保証された人たちの事を言います。ここでの身分の保証とはギルドカードの事であり、カードの複製や偽造は犯罪行為として処理されますので注意してくださいね。


 次に冒険者にはランクがあり、始めはEからD、C、B、A、S、SS、SSSと上がっていきます。ランクは高ければ高いほど、ギルドと連携している宿屋や店での待遇がよくなります。ランクアップの条件はランクごとに違いますが、基本的に一定量の依頼をこなすと上がります。ただしCランクより上のランクに上がるためには昇格試験を受けていただきますので予めご了承ください。


 それから依頼には常時依頼・臨時依頼・指名依頼・緊急依頼の4種類があり、緊急依頼以外の依頼には冒険者ランクと同じくEからSSSランクまであります。受けられる依頼は自身のランクと同じか上下1ランクまでとなっています。


 それぞれの依頼について説明させていただきますと、常時依頼は依頼書の右上に常時依頼と書かれたもので、大体はギルドや商会からの依頼が多いですね。掲示板に依頼書が張られている限り何度でも受けることが出来ますが、受注する必要はないので依頼書を掲示板から剥がさずに達成報告のみを行ってください。


 臨時依頼は個人からの依頼が多く、受けられるのは早い人順です。臨時依頼を受ける場合は掲示板から剥がしてここ2階の受付で受注してください。また依頼の横取りを防ぐために、依頼を受注していない状態で達成報告をしても達成にはならないので注意してください。


 指名依頼はBランクから関わることになりますが、依頼者が特定の冒険者に名指しで依頼を出すことを言います。この依頼は他のものに比べると報酬がいいのですが、ほとんどは危険なものですから断ることもできます。最初にギルドと依頼者で話し合ってから依頼する冒険者に適切であるかを確認するのですが、それでも危険に変わりはないので依頼された際はしっかりと考えてから決めることをお勧めします。


 緊急依頼は滅多に発注されることがないのですが、魔物の大群の襲撃等の際にギルドから出されるもので、発注された所にいる冒険者はランクに関わらず強制参加となります。緊急依頼に参加しなかった場合はランクの降格や冒険者資格の剥奪等の罰則がありますので十分に注意してください。ギルドカードには滞在している所で緊急依頼時が発注された際に、白く発光しながら細かく振動して緊急依頼を知らせる機能がありますので、肌身離さず持っていてください。また、ギルドカードには依頼の履歴が記録されているので、緊急依頼を受けたかそうでないかはギルドで調べれば分かってしまいますからね。


 依頼についてはここまでです。最後に、冒険者同士の争い事ですが、冒険者ギルドとしては一切関知しません。自分の身を守れない人は、冒険者としてやっていけませんからね。ですが冒険者でもない一般人に暴行を働いた場合は問答無用で冒険者資格の剥奪、資格の再取得の無効といった措置を取らせていただきます。もちろん明らかに相手に非がある場合は考慮されますが、それでも何らかの罰則があることは予めご了承ください。


 ここまでで質問はございますか?」


 途中途中で確認をしながら説明してくれたおかげで、疑問はないので「大丈夫です」シグルズは答えた。


「では、クランの説明に移らせていただきます。


 クランとは同じ目的を持った冒険者達が集まった団体の事を言います。この街には現在13のクランが存在しますがこれはこの国で最多のクラン数です。


 クランに加入するには、加入するクランの代表から許可証をもらい、ギルドで登録することで正式に加入したことになり、ギルドカードにも加入したクラン名が記載されるようになります。クランの人数制限はありませんが、1人の冒険者が入れるクランは同時に1つだけです。クランから脱退する場合もクランの代表者からの許可証を貰い、ギルドで手続きをすることで脱退したことになります。クラン内で違法行為等を見つけた場合は、ギルドに報告することで、代表者の許可証がなくてもクランの脱退が可能になり、報告にあったクランはギルドからの調査を受け、結果によってはクランの解散、多額の罰金、代表者の冒険者ランク降格または剥奪等の罰則が与えられます。


 クランにも下からC、B、A、Sのランクがあり、所属しているクランのランクによって冒険者ランクとは別にギルドと連携している場所での待遇が良くなることがクランに加入するメリットですね。他にもクランのランクに応じてギルドから多少の活動資金を貰えるということあるのですが、低ランクの冒険者の方はこのお金でクランからの支援を受けられると大分楽ですね。


 ただ、この活動資金も無条件で渡しているわけではありません。各クランにはギルドから、ランクやクランメンバー数などの条件に合った課題を、年に1回出しています。この課題を達成できなかった場合や、日頃の成果次第では、クランランクの降格、何年も連続で失敗している場合はクランの解体などの処置がとられます。反対に何年も連続で達成していたり、多大な功績、ギルドへの貢献をしている場合はランクアップになりますね。


 クランの立ち上げにはSランク以上の冒険者の代表者1名と、クランに加入するAランク以上の冒険者2名の署名が必要となります。更に立ち上げの費用として白金貨6枚が必要ですし、クランの登録が完了すると、クランの拠点となる場所に、ホームを建てていただかなければなりません。これは緊急時にクランに連絡することで、より多くの冒険者を集められるようにするためです。指定された期間内にクランホームを建てられなかった場合は、残念ですがクランの登録は無くなってしましますし、白金貨も戻ってきません。普通は先にクランホームを建ててから登録をするので、こういったことは起こらないのですがたまにあるんですよね。また、依頼の遠征等で長期間、拠点としている場所を離れる際にはギルドへの報告をしてもらいます。どれだけの戦力が残っているのか把握していないと緊急時に対応できませんからね。


 最後にクラン同士の争いはギルドとして禁止しております。貴重な人材が失われてしまいますし、街中でとなったら周囲の被害が大きいですから。もし起きてしまったときはそのクランの解体、罰金などの厳重な罰則が与えられます。


 クランの説明については以上になりますが、シグルズ様はどこかのクランに加入されますか?クランへの紹介はギルドで行っていますので」


 非常に丁寧に説明してくれたおかげで、改めて確認できたのだが、クランを作るには先ずSランクにならなければいけないようだ。


「いえ、私は自分のクランを作りたいのでいいです」


 シグルズが当り前のように言うと、カリンは少し驚いた顔をした後、優しい笑み浮かべた。


「それはSランク冒険者になるという事ですね?頑張ってください」


「ええ、無理をしない程度に頑張ろうと思います」


 ちなみに、カリンは門で出会った兵士と同じくシグルズの事を少女だと思っていたので、彼の言葉を聞いて非常に微笑ましく思ったのだ。


「それでは、こちらがギルドカードになります。ご確認ください」


 カリンが出来上がったカードをシグルズに手渡す。


 カードは縦8cm、横11cmで厚さ3mmの鉄で出来た鈍い銀色の物だった。表面には冒険者ギルドの紋章と自身の名前、Eというランクが大きく書かれていた。


「カードはランクが上がる度に材質が変わりますので、いいものを目指して頑張りましょね。さて、これで今からギルドの仲間です。これからよろしくお願いしますね」


 カリンは改めて挨拶した。


「はい、色々と説明してもらってありがとうございました!これからもよろしくお願いします」


 シグルズは顔こそフードに隠れて見えていないが、明らかに上機嫌な声でカリンにお礼を言うと「また明日きます」と言って一礼した後、カードをアイテムボックスに入れ、エレインを連れて受付を離れていった。


 階段を下り、1階の道具屋で従魔の首輪というテイムしている魔物につける首輪を買ったシグルズは、エレインに首輪をつけ、最初に案内してくれた男性職員に教会の場所を聞いてから、ギルドを出た。


(これで、俺も冒険者かー。はは、嬉しいじゃねぇか)


 やっと冒険者になれたことを内心では、飛び跳ねたくなる程に喜んでいたシグルズは、職業を無職から変化させるために、鼻歌を歌いながら道を歩く。


 すれ違いざまに彼の鼻歌を聞いた者は、その音色の美しさに誰もが振り返り、彼の背中を見ていたのだが、シグルズがそんな事に気づくことはなく、これまでにない程上機嫌なシグルズは、ただただ教会目指して歩いて行った。









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