異世界でも自由気ままに

月夜 夜

祖父ボールス

 部屋を出た俺は、天堂流武術の気配感知を使ってボールスの居場所を探った。すると、一つだけ反応があった。どうやら一階にいるようだ。


 一階に降り、反応があった部屋の木製のドアをノックすると、中から「開いとるよ」という声が聞こえた。


 ドアを開けると、一人の老人が椅子に座り本を読んでいた。歳は60歳位だろうか。短髪の白髪に見事な白髭は、これぞ魔法使いだという姿である。好々爺然とした顔付きからは、とても世界最強とは思えない。


「起きたかの?」


 老人は読んでいた本を閉じると、顔を上げて声を掛けてきた。


「ああ、ボールスさんでいいのか?」


「ふぉふぉふぉ、いかにも。既にミレディから聞いておるようじゃが、一応自己紹介しておこうかの。儂の名はボールスというのじゃが、じいちゃんと呼んでもいいぞい。これからはお主と家族になるのじゃ、よろしく頼むぞい」


「分かった、俺はシグルズだ。これからよろしく頼むよ、じいちゃん」


 ボールスとの簡単な自己紹介を済ませた後は、俺の前世の話やボールスの冒険者時代から今に至るまでの話をした。気が付くと外は暗くなり始めていたので、随分と話し込んでいたらしい。それからボールスと風呂に入り、夕食を食べて解散となった。正直に言うとこの髪を洗うのは大変だったので、ボールスが居てくれて本当に助かった。


 目覚めた二階の部屋に戻った俺はベッドに寝転がり、ボールスの話を思い出していた。


「ためになる話だったな……」


 どうやらボールスが世界最強と言われていたのは、冒険者時代に過去数人しかいなかったSSSランク冒険者に上り詰めた事が理由だったらしい。冒険者のランクはEからSSSまであるそうだが、詳しい説明はまた後でしようと思う。


 元々ボールスは騒がしいのが苦手で、静かな場所で読書に熱中する事が好きだったのだが、SSSランク冒険者になった事でどこへ行っても周囲が騒ぎ立て、国が爵位だ領地だと言い始めたことで、冒険者を引退し、20年ほど前に誰も近づかないここ「魔の森」に引っ越してきたそうだ。


 高ランクの魔物がうようよいる魔の森だが、当時のボールスが苦戦するような相手はそれほど居なかったので、森の木々を伐採し、その木を使ってこの家を建てた。周囲には強力な結界を張ることで魔物が入って来れないようになっているらしい。


 その後は、自身の集めた本を読みながら庭の畑で農作業をしたり、たまに森に入り体が鈍らないよう魔物狩りをして過ごしていると言っていた。


 シグルズは自身がこの森を出た後は、確実に冒険者になるだろうと思っている。この世界の事は何一つ分かっていないが、前世でリアルチートだった彼の技術を生かせば、もっと安全に生活する方法はいくらでもあるだろう。ではなぜ、冒険者になろうと思うのか。それは彼の「冒険者=ロマン」という思考が原因である。


 前世で触れてきた数々の冒険者に関する物語。冒険者登録に来た新人にちょっかいを出すガラの悪い冒険者や、魔物の大群から街を守った英雄として活躍する冒険者。前人未踏のダンジョンを踏破して一躍有名になる冒険者などなど。良くも悪くも冒険者に対する憧れを抱いている彼が、安全な生活より冒険者になる事を選ぶのは、当然と言えるかもしれない。


 何より彼には力があるのだ。ステータスはまだ確認していないが、女神でさえ異常という程の高さなのは間違いない。もっとも、その力によってボールスのように魔の森に籠らなければならないような状況になることには、気を付けなければならないが。


「まあ、結局やりたい事をやるのが一番だな」


 シグルズは、仮に何らかの障害が出てきてもその都度解決していけばいいだろと考えをまとめ、これからの予定に思いを巡らせた。


「まずは、ステータスの確認とこの世界の常識の勉強か。出来る事が分からなきゃ始まらないからな。魔法も使ってみたいが…まあ時間はあるし、一つずつじっくりやっていくか」


 これから15歳までの10年間、ボールスに師事しながらひたすらに己を高めることを決め、瞼を閉じると彼の意識は深い眠りに落ちていった。





















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