中年探究者は人知れずレベルを上げる

月夜 夜

2

 自身のステータスが判明した翌日。俺は最寄りの迷宮に来ていた。現在国内で発見されている迷宮の数は150にも上り、未だに増加傾向にある。
 今回の迷宮は山の麓に出来たもので、政府によって受付や武器屋が入り口前に設けられていおり、大変な賑わいを見せていた。


「あの、探究者登録をお願いします」


「はい、田中様ですね。こちらの同意書に署名と捺印をお願いします。はい……こちらのカードが探究者証になります。紛失による再発行には手数料が発生しますのでご注意ください。では、次の方どうぞ」


 無表情の職員からカードを受け取ると、別途設置されている入場用の受付で手続きを済ませる。


「探究者証をお願いします。えっと、初入場になりますがお一人でですか?」


「はい」


「そうですか……。ではお気をつけて、行ってらっしゃいませ」


「ありがとうございます」


 明らかにこいつは死んだなという視線を受けながら、迷宮へと続く下り階段を下りていくと徐々にひんやりとした空気が身を包んでいった。
 能力値の低い俺が重い防具や武器を扱える訳もなく、今の装備は自前のつなぎと安全靴に、先ほど買った迷宮産の皮鎧と木製の棍棒という初心者装備だ。
 さっきの受付もこの恰好を見ての反応だったのだろうが、そんなことを気にする必要はないのだ。なにせ装備はこれからいくらでも変えられるのだから。


 迷宮に入ってから30分程経って、ようやく最初のモンスターと遭遇した。


「これがゴブリンか……」


「グギャアア!」


 緑色の子鬼はこちらを認識した途端、叫び声をあげながら襲いかかってくる。手にした棍棒を大上段に構え、タイミングを合わせて全力でゴブリンの頭に振り下せば、声にならない叫び声を上げながらゴブリンは黒い靄となって霧散していった。


「ふう、これが実戦か。思ってたよりも緊張しなかったな」


 その場に転がったドロップアイテムをリュックに回収し、ステータスを開くと必要経験値の値が20/100に変化しているのを確認して口角が上がる。


「あと4体でレベルが上がるか。サクッとやっちまおう」


 多くの探究者が彷徨っているこの一層ではモンスターとの遭遇に時間がかかることに若干の苛立ちを覚えながらも、俺は次の獲物へと歩き出した。






 初めのゴブリンから4時間程経った今、俺は3層のモンスターハウスでレベル上げを行っていた。


「モンスターハウスって言っても、浅い層だから精々10体しか出ないのが旨みだな」


 これまでの層と変わらない岩壁の、少し開けた空間に出入りを繰り返すこと数回。俺のステータスは劇的変化を遂げていた。


 ステータス 田中 迅 Lv17 


  必要経験値46/100 (上昇値)


 HP:644 (40) 


 MP:642 (40) 


 筋力:645 (40) 


 魔力:644 (40) 


 耐久:643 (40) 


 敏捷:644 (40) 


 運:645 (40) 


 ギフト:倍化1 固定化1


「は、ははは!まさにチートだな、これは」


 昨日の絶望など微塵もない強者の証がそこにはあった。



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