担任がやたらくっついてくるんだが……

差等キダイ

あみだくじ

「まったくもう……浅野君はまだケガが治ってないんですから、二人がそんなんでどうするんですか」
「「ごめんなさい……」」

 あぁ、助かった……危うく昼休みの食事で倒れるところだった。
 しかし、ほっとしたのも束の間、奥野さんがジロリとこちらを睨んできた。

「浅野君も、綺麗な人達が色々やってくれてるからって、鼻の下伸ばさないの。これだから男の子は……」
「ご、ごめんなさい……」
「うん、わかればよし。……そ、それじゃあ、はい。あーん……」
「ええっ!?」

 予想だにしない展開に、つい驚きの声を上げてしまう。
 だが今まさに奥野さんは、さっきまで森原先生が使っていた箸で、卵焼きをつまみ、こちらに向けて差し出していた。

「はいっ、浅野君。早くしないとお昼休み終わっちゃうよっ」
「あっ…………んぐっ」

 押しきられるように口を開くと、そこに強引に卵焼きを突っ込まれた。もちろん美味しい。美味しいけれど……!

「まったくもう、世話が焼けるんだから。ホントに、わ、私がいなきゃダメなんだから……はい」

 何故か恋愛シミュレーションゲームの幼馴染みヒロインのノリで、奥野さんは卵焼きやら唐揚げを口に突っ込んでくる。あ、あれ?奥野さんも、なんかおかしいような……あとさっきから、おかずばかり……

「奥野さん、それは卑怯よ」
「せ、先生だって、指導室に浅野君を連れ込んだじゃないですか!」
「いえ、後だしで幼馴染みキャラを付けようとするのは卑怯だと言ってるの。あなたはクラスのカースト上位の美少女という立派な属性があるでしょう?」
「怒るところ、そこですか!?先生前から思ってましたけど、たまに言動がおかしいですよ」
「はい、あ~ん♪」
「「新井先生!!」」

 こうして優しさと気遣いのカオスとなった昼休みは、9割9分が昼食で消費された。

 *******

 放課後……。
 奥野さんと一緒に、森原先生から再び呼び出されたので指導室に行くと、そこには森原先生だけではなく、新井先生もいた。

「お、来ましたね~」
「どうぞ」
「失礼します」

 奥野さんに続き、挨拶をしながら、室内に足を踏み入れると、席につくよう促される。
 今から一体何を話すのだろうか……いや、さすがに想像がつく。

「それでは、今から浅野君のお世話係のローテーションを決めようと思います」
「わ~!」

 森原先生が淡々と告げると、新井先生がテキトーなノリでそれを盛り上げ、奥野さんが姿勢を正した。
 果たして、この会議の為だけに生徒指導室を使っていいのか?
 そんな僕の不安を余所に、先生は黒板に何やら書き込んでいる。あれは……あみだくじ?

「じゃあ、これで公平に決めましょう。あくまで順番を決めるだけだから、特に揉めることもないでしょう」
「……ですね」
「異議なしでーす」
「ちなみに、浅野君は……これでいい?」
「え?あ、その、これでいいというか……本当にいいんですか?皆さんに迷惑かけてしまって……」

 申し訳なさからか、自然と三人に確認を取ってしまう。
 すると、三人は同時に頷いた。

「当たり前だよ。浅野君はその……私の……だ、大事な……クラスメートだから」
「これも副担の務めです~。たくさん可愛がりますよ~」

 奥野さんの真っ直ぐな言葉と、新井先生のほんわかしたちょっとずれた言葉に、じんわりと温かい気持ちでいると、森原先生が真正面から僕の顔を覗き込んできた。

「私はあなたの担任だもの。それくらい当然よ。ただ、私が聞きたいのは、その……浅野君は誰がいいとか、そういうのはないのかしら?」
「あ、はい!なんというか、三人にあまり迷惑がかからない範囲でお願いします!」

 自分でできる事はしっかりやろうと意気込むと、森原先生はぷいっとそっぽを向いた。

「……浅野君、課題図書を10冊紹介しておくわね」
「このタイミングで!?今片手しか使えないから、すごく読書しづらいんですけどっ!」
「大丈夫、何なら音読してあげるわ」
「はいはい、そこまで。はやく決めちゃいますよ」
「……はい」

 おお。今日はなんだか奥野さんが強いや。あと先生がさりげなく太ももの裏をつねってくるのが痛いや……。

 *******

 いざ始めてみると、すぐに順番は決まり、新井先生、奥野さん、森原先生の順番になった。
 新井先生は、ほんわかした笑顔で僕の手を取った。

「私が一番ですよ~。浅野君、明日から覚悟……楽しみにしててくださいね~」
「今、覚悟って単語が聞こえた気がしたんですけど、気のせいですか?」

 続いて奥野さんが僕の肩に手を置いた。

「浅野君、明後日は私だから。覚悟……安心して任せていいよ」
「お、奥野さんも覚悟って言わなかった?ねえ、言ったよね?」

 そして、森原先生は何ともいえない表情をしていた。

「私が最後……浅野君、覚悟しておいて」
「はっきりと覚悟って言った!!」

 覚悟ってなんだろう……僕は日常生活を手伝ってもらうだけのはずなんだが。
 だが、それぞれ向けてくる三人の優しすぎる眼差しに、僕はその疑問を飲み込んだ。

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