担任がやたらくっついてくるんだが……
恋愛シミュレーションゲーム
ふぅ……まさか水着を買うだけで、あんなイベントに発展するとは……いや、ラッキーなのは間違いないんだけど、僕には刺激が強すぎるというか……。
隣を歩く先生は、さっきの事などまるで気にも留めていないような、クールさ全開のオーラを纏って、僕の隣を歩いている。もちろん、周りからの容赦ない視線付きだ。こっちに関しては、もうあまり気にしないことにしたけど。
そして、同じショッピングモール内という事もあり、次の目的地はすぐに見えた。
「先生、本当にいいんですか?僕の買い物に付き合ってもらっちゃって」
「ええ。私の買い物に付き合ってもらったのだから当然よ。それより……」
「は、はい……」
「今の君と私は…………と、のようなものよ。それにこんな所で先生と呼んではいけないわ」
途中、声が小さくて全く聞こえなかったけど、確かに先生と呼ぶのはまずい。その程度のことを考えてもいなかった自分が情けなく思うた。
「す、すいません。迂闊でした」
「気にしないで。そもそも私が買い物に付き合ってもらったんだから。それより、私のことは……唯って呼んでもらえるかしら?」
「……はい?」
「どうかしたの?」
「い、いや、だって、唯って呼んでって……」
「ええ。言ったけど」
「……名字じゃダメなんですか?」
「ダメよ。森原なんて珍しすぎる名字、誰かに聞かれたらすぐに特定されてしまうわ」
「はあ……」
同じ学年に3、4人くらいはいそうな気がするんですが、気のせいでしょうか。
年上の女性、しかも自分の担任の先生を名前呼びすることに、躊躇いを見せていると、突然先生が距離を詰め、上目遣いで見つめてきた。
「……嫌?」
「……っ」
まさかの上目遣い。これは……は、反則すぎる!先生にそういう意図はないんだろうけど。大人の女性が上目遣いという普段とのギャップが、これ以上にないくらい心を深く抉る。あと、睫毛長っ、瞳綺麗すぎ!
「……嫌?」
「わ、わかりました!わかりましたから!」
僕は観念して、何故か辺りをキョロキョロしてから、先生の目を見て、その名を口にする。
「……ゆ、唯……さん」
「……ひゃい…………はい」
あれ?今、先生が噛んだような……気のせい、かな?
先生はしばらく向こうを向きながら歩いていた。
*******
「ゲームショップ……」
「あ、はい……なんか、先生の興味なさそうな所で申し訳ないんですが……」
「いえ、大丈夫よ。常に広い視野を持つことが人生を切り開くのだから」
「は、はい……」
ゲームショップに入るだけで切り開かれる新しい人生観とは……いや、きっとそれはもう素晴らしい何かがあるんだろう。そうに違いない。
先生は店内を見て、一人で頷きながら、口を開いた。
「君は普段どんなゲームをしているの?」
「えっと……ざっくり言えば、RPGやアクション、あとシミュレーションですかね」
恋愛の部分は伏せておいた。恥ずかしがり屋な思春期男子の繊細さをわかって欲しい。
僕の好きなジャンルを聞いた先生は、ゆっくり二回頷くと、真っ直ぐにこちらを見据えてきた。
「そう……じゃあ私がおすすめのゲームを教えてあげましょうか」
「あっ、はい……って、その……唯さん、ゲームとかわからないんじゃ?」
「……馬鹿にしないで。少しくらいならわかるわ。ちょっと待ってて」
先生はまたスタスタと目的の物があるらしい棚へ行き……あれは、恋愛シミュレーションかな?……すぐに戻ってきた。
ん?このシチュエーションはちょっと前に遭遇した気が……いや、記憶違いかな……。
こちらをじっと見た先生は、そのまま1本のゲームソフトを差し出してきた。
「これはどうかしら?」
「これは……」
確か先週発売されたギャルゲーだ。
パッケージには、5人のヒロインが輪になって座っていて、どのヒロインも魅力的な笑顔をこちらに向けている。
え~と、ヒロインは……幼馴染み、義理の妹、義理の姉、担任教師、転校生か……まあ、悪くないかも。いや、待て。1作だけ見て決めるのはさすがに早すぎる。ていうか、担任の美人教師からギャルゲーを薦められる日が来るとは……。
「じゃあ、とりあえずあっちのアクションゲームも見てみま……」
「…………」
何故か先生が切なそうな瞳をこちらに向けている……気がする。
「あ、あの、ゆ、唯さん……」
「ごめんなさい。まだ決めるには早かったわね……じゃあ、こっちの……っ!」
「えっ!?」
先生の目が急に、敵を見つけた肉食獣のように鋭くなり、僕の腕を掴む。
また僕は腕を引かれ、先生と共に暖簾をくぐった。あれ、ここって……
*******
「愛美、どうしたの?急にゲームショップなんて……」
「いえ、今どこかから、妙な気配を感じたのよね。こう、ピンク色のやつ」
「……だ、大丈夫?色んな意味で」
「大丈夫よ。さっ、探しましょ!」
「えっ、何を?ちょっと愛美!?」
*******
前回に引き続き、どうしてこうなった。
先生に腕を引かれ、暖簾をくぐると、そこはピンク色の世界だった……18禁という名の。
「ゆ、ゆ、唯さん……これは、どういう……」
「…………え?ど、どうかしたの?」
「いや、唯さんがいきなり……って、え?」
先生のリアクションがおかしいので目を向けると、顔を真っ赤にして俯いていた。
「あの……」
「これは……予想外だったわ。私の確認ミスね」
何が!?どういうこと!?
「とりあえず、ここを出ましょうか」
「ダメよ。今出てはいけないわ」
「ええ!?どうしてですか?」
「……君にはまだ早いわ」
「こっちのコーナーの方が僕には早いんですって!」
しかも理由がよくわからない!
すると、背中から抱きしめられる感触がした。
「ふぁっ!?」
みっともない声が漏れる。
「お願い、もう少しここにいて」
「あ、あ、ちょ、ま、え?」
突然背中に当てられた柔らかい感触に、思考回路を乱されながら、僕はそのままの態勢を維持する。
すると、背後でぽつりと呟きが漏れた。
「……女教師の淫らな補習授業」
「……唯さん?」
こっそりタイトルを盗み見てる!?
「先生、僕、もう我慢できません」
今のは僕が言ったんじゃない。誤解しないで欲しい。
「なるほど、こういう世界もあるのね」
「唯さん、手に取っちゃダメです!何がダメかなどわからないけど、とにかくダメです!」
すると、二人組の男性が暖簾をめくり、中に入ってきた。
「よし、今日は桃色デスティニーの発売日だ!……あ」
「楽しみだな!……あ」
「「…………」」
気まずい沈黙。
どちらが先に動けばいいかわからないでいる。
「「「「…………」」」」
後ろにいる先生は、どんな表情をしているんだろう。
考えたところで、何故か二人に頭を下げられた。
「「すいませんでした」」
「…………」
頭を上げた二人の男性は、すっといなくなる。
何というか……本当に申し訳ございませんでした。
結局、最初に先生が持ってきたゲームを買い、僕と先生は店を出た。
*******
帰り道、僕と先生は並んで、のんびり歩きながら帰った。
僕は自転車だったけど、自然と先生に合わせて、こうして歩いている。
特に会話が弾むとか、そういうことはなかったけど、ぽつぽつと交わされる言葉のやり取りは心地良く、時間を忘れてしまいそうだった。
「今日はありがとう」
「い、いえ、こちらこそ……」
「ゲームの感想、聞かせてね」
「あ、はい……」
「もちろんゲームをやるのは、宿題を終わらせてから、ね?」
「うっ…………はい、わかりました」
「ふふっ」
「…………」
夕焼けがほんのり赤く照らす微笑みは、学校で見せる笑顔や、これまで学校の外で見た笑顔とも違い、どこか儚げで、この一瞬をどうにかして切り取ってしまいたい気持ちになってしまう。
「もうじき、夏ね」
「……そうですね」
頬を撫でた風は、もうひんやりとはしていなくて、すぐそこに新しい季節が待っているのがわかった。
*******
「水着……買っちゃった。あと、名前呼ばれちゃった」
「一緒に、海かプールに行けないかな……行きたいな」
隣を歩く先生は、さっきの事などまるで気にも留めていないような、クールさ全開のオーラを纏って、僕の隣を歩いている。もちろん、周りからの容赦ない視線付きだ。こっちに関しては、もうあまり気にしないことにしたけど。
そして、同じショッピングモール内という事もあり、次の目的地はすぐに見えた。
「先生、本当にいいんですか?僕の買い物に付き合ってもらっちゃって」
「ええ。私の買い物に付き合ってもらったのだから当然よ。それより……」
「は、はい……」
「今の君と私は…………と、のようなものよ。それにこんな所で先生と呼んではいけないわ」
途中、声が小さくて全く聞こえなかったけど、確かに先生と呼ぶのはまずい。その程度のことを考えてもいなかった自分が情けなく思うた。
「す、すいません。迂闊でした」
「気にしないで。そもそも私が買い物に付き合ってもらったんだから。それより、私のことは……唯って呼んでもらえるかしら?」
「……はい?」
「どうかしたの?」
「い、いや、だって、唯って呼んでって……」
「ええ。言ったけど」
「……名字じゃダメなんですか?」
「ダメよ。森原なんて珍しすぎる名字、誰かに聞かれたらすぐに特定されてしまうわ」
「はあ……」
同じ学年に3、4人くらいはいそうな気がするんですが、気のせいでしょうか。
年上の女性、しかも自分の担任の先生を名前呼びすることに、躊躇いを見せていると、突然先生が距離を詰め、上目遣いで見つめてきた。
「……嫌?」
「……っ」
まさかの上目遣い。これは……は、反則すぎる!先生にそういう意図はないんだろうけど。大人の女性が上目遣いという普段とのギャップが、これ以上にないくらい心を深く抉る。あと、睫毛長っ、瞳綺麗すぎ!
「……嫌?」
「わ、わかりました!わかりましたから!」
僕は観念して、何故か辺りをキョロキョロしてから、先生の目を見て、その名を口にする。
「……ゆ、唯……さん」
「……ひゃい…………はい」
あれ?今、先生が噛んだような……気のせい、かな?
先生はしばらく向こうを向きながら歩いていた。
*******
「ゲームショップ……」
「あ、はい……なんか、先生の興味なさそうな所で申し訳ないんですが……」
「いえ、大丈夫よ。常に広い視野を持つことが人生を切り開くのだから」
「は、はい……」
ゲームショップに入るだけで切り開かれる新しい人生観とは……いや、きっとそれはもう素晴らしい何かがあるんだろう。そうに違いない。
先生は店内を見て、一人で頷きながら、口を開いた。
「君は普段どんなゲームをしているの?」
「えっと……ざっくり言えば、RPGやアクション、あとシミュレーションですかね」
恋愛の部分は伏せておいた。恥ずかしがり屋な思春期男子の繊細さをわかって欲しい。
僕の好きなジャンルを聞いた先生は、ゆっくり二回頷くと、真っ直ぐにこちらを見据えてきた。
「そう……じゃあ私がおすすめのゲームを教えてあげましょうか」
「あっ、はい……って、その……唯さん、ゲームとかわからないんじゃ?」
「……馬鹿にしないで。少しくらいならわかるわ。ちょっと待ってて」
先生はまたスタスタと目的の物があるらしい棚へ行き……あれは、恋愛シミュレーションかな?……すぐに戻ってきた。
ん?このシチュエーションはちょっと前に遭遇した気が……いや、記憶違いかな……。
こちらをじっと見た先生は、そのまま1本のゲームソフトを差し出してきた。
「これはどうかしら?」
「これは……」
確か先週発売されたギャルゲーだ。
パッケージには、5人のヒロインが輪になって座っていて、どのヒロインも魅力的な笑顔をこちらに向けている。
え~と、ヒロインは……幼馴染み、義理の妹、義理の姉、担任教師、転校生か……まあ、悪くないかも。いや、待て。1作だけ見て決めるのはさすがに早すぎる。ていうか、担任の美人教師からギャルゲーを薦められる日が来るとは……。
「じゃあ、とりあえずあっちのアクションゲームも見てみま……」
「…………」
何故か先生が切なそうな瞳をこちらに向けている……気がする。
「あ、あの、ゆ、唯さん……」
「ごめんなさい。まだ決めるには早かったわね……じゃあ、こっちの……っ!」
「えっ!?」
先生の目が急に、敵を見つけた肉食獣のように鋭くなり、僕の腕を掴む。
また僕は腕を引かれ、先生と共に暖簾をくぐった。あれ、ここって……
*******
「愛美、どうしたの?急にゲームショップなんて……」
「いえ、今どこかから、妙な気配を感じたのよね。こう、ピンク色のやつ」
「……だ、大丈夫?色んな意味で」
「大丈夫よ。さっ、探しましょ!」
「えっ、何を?ちょっと愛美!?」
*******
前回に引き続き、どうしてこうなった。
先生に腕を引かれ、暖簾をくぐると、そこはピンク色の世界だった……18禁という名の。
「ゆ、ゆ、唯さん……これは、どういう……」
「…………え?ど、どうかしたの?」
「いや、唯さんがいきなり……って、え?」
先生のリアクションがおかしいので目を向けると、顔を真っ赤にして俯いていた。
「あの……」
「これは……予想外だったわ。私の確認ミスね」
何が!?どういうこと!?
「とりあえず、ここを出ましょうか」
「ダメよ。今出てはいけないわ」
「ええ!?どうしてですか?」
「……君にはまだ早いわ」
「こっちのコーナーの方が僕には早いんですって!」
しかも理由がよくわからない!
すると、背中から抱きしめられる感触がした。
「ふぁっ!?」
みっともない声が漏れる。
「お願い、もう少しここにいて」
「あ、あ、ちょ、ま、え?」
突然背中に当てられた柔らかい感触に、思考回路を乱されながら、僕はそのままの態勢を維持する。
すると、背後でぽつりと呟きが漏れた。
「……女教師の淫らな補習授業」
「……唯さん?」
こっそりタイトルを盗み見てる!?
「先生、僕、もう我慢できません」
今のは僕が言ったんじゃない。誤解しないで欲しい。
「なるほど、こういう世界もあるのね」
「唯さん、手に取っちゃダメです!何がダメかなどわからないけど、とにかくダメです!」
すると、二人組の男性が暖簾をめくり、中に入ってきた。
「よし、今日は桃色デスティニーの発売日だ!……あ」
「楽しみだな!……あ」
「「…………」」
気まずい沈黙。
どちらが先に動けばいいかわからないでいる。
「「「「…………」」」」
後ろにいる先生は、どんな表情をしているんだろう。
考えたところで、何故か二人に頭を下げられた。
「「すいませんでした」」
「…………」
頭を上げた二人の男性は、すっといなくなる。
何というか……本当に申し訳ございませんでした。
結局、最初に先生が持ってきたゲームを買い、僕と先生は店を出た。
*******
帰り道、僕と先生は並んで、のんびり歩きながら帰った。
僕は自転車だったけど、自然と先生に合わせて、こうして歩いている。
特に会話が弾むとか、そういうことはなかったけど、ぽつぽつと交わされる言葉のやり取りは心地良く、時間を忘れてしまいそうだった。
「今日はありがとう」
「い、いえ、こちらこそ……」
「ゲームの感想、聞かせてね」
「あ、はい……」
「もちろんゲームをやるのは、宿題を終わらせてから、ね?」
「うっ…………はい、わかりました」
「ふふっ」
「…………」
夕焼けがほんのり赤く照らす微笑みは、学校で見せる笑顔や、これまで学校の外で見た笑顔とも違い、どこか儚げで、この一瞬をどうにかして切り取ってしまいたい気持ちになってしまう。
「もうじき、夏ね」
「……そうですね」
頬を撫でた風は、もうひんやりとはしていなくて、すぐそこに新しい季節が待っているのがわかった。
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「水着……買っちゃった。あと、名前呼ばれちゃった」
「一緒に、海かプールに行けないかな……行きたいな」
コメント
茶々丸
面白いです!
頑張ってください