担任がやたらくっついてくるんだが……

差等キダイ

保健室


「ゲホッ……ゲホッ……」

 あれ?おかしいな、朝は何ともなかったのに……。
 なんか寒気がするし、頭がくらくらする。視界もぼんやりとして、文字が読みづらいような……。
 ……保健室行こうかな……でも、まだ行くほどでもないような……今日はいつもより授業も少ないし……。

「浅野君」
「…………え?」

 自分を呼ぶ声に振り向くと、そこには森原先生がいた。

「大丈夫?」

 そう言いながら、こちらの顔を覗き込んでくる先生の表情は、とても心配そうに見えた。普段と違うその表情は、もしかしたら、頭がくらくらしてそう見えただけかもしれないけど。
 ぼんやりと先生の顔を見ていると、両方の頬をひんやりした何かが挟み込んできた。
 そして、それはすぐに先生の手だとわかった。
 いつもなら恥ずかしさで顔が熱くなるけど、今は頭がくらくらしてそれほど気にならなかった。

「ちょっと失礼するわね」
「へ?…………っ!?」

 先生はそのまま顔を近づけ…………自分のおでこを僕のおでこにくっつけてきた。さすがにこれは緊張する。
 目の前にある先生の顔から目を逸らせずににドギマギしていると、やがて額と額は離れ、また心配そうな瞳が僕を覗き込んできた。

「やっぱり熱がある……保健室まで行きましょう。立てる?」
「あ、はい……」

 先生に付き添われながら、何とか僕は保健室へと向かった。

 *******

「……よしっ!」

 私は特に意味なく気合いを入れ、勢いよく教室を出た。
 私の名前は奥野愛美。運動神経にはそこそこ自信のある女子高生。
 まあそれはさておき、今日こそ私は浅野君に話しかける……!
 事の発端は昨日の夜の電話……

「ねえ、アンタさぁ……」
「な、なぁに?」
「いつになったら浅野君に告白するわけ?」
「ぼふぁあっ!?」
「……うら若き乙女が何ちゅうリアクションしてんのよ」
「そっちのせいじゃん……あ~、びっくりしたぁ」
「どうやら図星みたいね。じゃ、いつ告白すんの?」
「ちょ、こ、告白って……私、浅野君と会話したこともないんだよ!?」
「むしろ、何でそんな奴が好きなのよ……」
「いや、その……だからこれは好きとかじゃなくて、そう!気になるの!何となく気になるだけなの!」
「気になる……ねえ」

 彼の事が気になるようになった理由は今は置いといて、とにかく声をかけなきゃ。なんか今日きつそうだったし……。
 多分、浅野君が行った方向はこっちで間違いないは……ず……。
 廊下の角を曲がった私は、衝撃的なものを見てしまった。

 浅野君が……森原先生と……キス、してる。

 ……え!?何で!?
 何で、校内人気ナンバーワン教師・森原先生と、あの地味な浅野君が!?
 てか、何でこんな不特定多数の人が通る場所で!?
 現状を上手く呑み込めない私があたふたしていると、二人は立ち上がり、階段を降りていった。
 去り際に、森原先生が一瞬だけこっちを見た気がした。

 *******

 保健室に入ると、保健の先生は不在らしく、僕はそのままベッドに寝かされた。
 先生はベッドの傍に立ち、眼鏡越しに優しい眼差しを向けてくる。

「多分、そろそろ戻ってくるから」
「はい……」
「……あまり、無理してはいけないわ」
「……すいません」
「謝らなくていいの。その……私は君の担任なんだから。つらい時は言って?」
「……はい」

 先生の白い手が、僕の額にそっと置かれる。ひんやりした柔らかいものが、火照った頭の中をじんわり冷やして、体の芯から癒されていく気がした。

「……おやすみ」

 その温かな言葉と、ぼやけた視界の中に見えた、優しすぎる笑顔に見守られ、僕はゆっくりと眠りについた。

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