戦国生産無双伝!
57話
ロイド歴三八八九年四月中旬
シゲアキ・左近衛少将・マツナカ
アワウミとオチゼンの国境付近にアサクマ軍とカモン・アズマ連合軍が対峙した。
アサクマは凡そ三万五千、対する連合軍は六万と戦力は我が方に有利。
此度の戦いはアズマ家が北陸に勢力を伸ばす足掛かりとすることは殿より聞き及んでおり、アズマ家主体の戦いとなるので此方には殿は出陣しておられない。
我らがカモン勢の総大将は殿のご舎弟であられるシュテン様だ。
正直、シュテン様のお力は未知数でありいきなり大軍の総大将とすると言われた時には流石に引いてしまった。されど、今なら殿の判断が間違っていなかったと思える。
「一軍を夜陰に紛れ敵の後方に配し退路を断つが良いと思うがシゲアキはどう思うか?」
うむ、アズマが主力としてアサクマと当たるのは決定事項故、我らは後詰を行うが決まっている。故にアズマの後方にて援護の姿勢を示し、一方でアサクマの退路を断つ。
良い判断であろう。しかもアズマが窮地に陥れば退路を断つために配した伏兵がアサクマの後背を突くこともできる。
「は、良きお考えと存じ上げまする」
「では、誰を差し向けるべきか?」
「なれば、ウエムラ殿が宜しかろうと存じまする」
「であるか。なればゼンジ・ウエムラ、兵五〇〇〇を持って敵の退路を断ってまいれ」
「承知仕った!」
ゼンジ・ウエムラ殿であれば殿が幼少の頃より付き従ってきた者故、間違いはないであろう。
下手な者を送れば功名心に負けアサクマが不利と見るや打って出てアズマ家の武功を奪いかねないからな。
この戦はアズマの力で勝ったとせねばならぬのだ。
翌朝、アサクマの先鋒とアズマ勢が衝突した。我がカモン勢は東と西に軍を配しアサクマの両翼を牽制する。
これら左右の軍が中央の軍の戦いに参戦できないように、アサクマ勢の動きに合わせて牽制を行うのが此度の戦だ。
とは言え、アサクマの左翼は凡そ八〇〇〇、対する我が方は一万五千。アサクマの右翼は五〇〇〇、対する我が方は一万。他にアサクマの後方に送った五〇〇〇と中央のアズマ勢の後方に一万を配している。
ご舎弟様は若いのでもっと前線に出たがると思っていたが、どっしりとした重厚感のある雰囲気を醸し出している。殿もそうであったが、この御兄弟は若さに似合わず落ち着き払っておりワシの方が落ち着かぬわ。
ロイド歴三八八九年四月中旬
ヒノコウジとツキノコウジの連合軍が展開するニバとヤマミヤの国との国境、コウザンが築いた城砦群により進軍が思い通りに行かぬようで一旦軍を引いた連合軍はニバの国の鶴山城に入った。
そんな中、俺は城砦群の拠点である神岡城に入る。
そしたら何とヒノコウジより和睦の使者がやってきた。
「なるほど、そう来ましたか」
「予想はしておりましたが、いやはや」
「コウベエ、トシマサ、どう言うことだ?」
コウベエはお前が言えとばかりにトシマサを見る。それを見て仕方がないな、とばかりにトシマサが口を開く。
「昨年のニシバタケ討伐により現時点では次期王の座は五之宮様がほぼ手中にしております」
当然だ、カモン、ホウオウ、ツツミ、アズマと名だたる国持ち大名が五之宮を支持し、最近ではオダもこれに倣っている。
近畿の殆どに東海の有力貴族が推しているのだ、最有力であることは間違いない。
「しかし一之宮を推すヒノコウジとしてはこのまま指を銜えてその状況を受け入れるわけにはまいりませぬ」
そりゃそうだ、ヒノコウジやツキノコウジにも面子と言うものがあるだろからな。
「左様、殿の仰られるように彼の者たちにも面子が御座います」
あ、声に出てた?
「故に面子を保つために軍を出す必要が御座りました」
なるほど、そういうことか。
「じゃが、あの者どもが面子を保つためとは言え一当てもせずに俺が和睦に応じると何故思うのだ?」
向こうが和睦したくても既に軍を動かした以上は俺が突き進めば奴らは終わりだぞ?幾ら面子が大事とは言えそんな危険を冒すのか?
「応じましょう。もし殿が軍を引かねば程なくして王より和睦仲裁の使者が参りましょう」
「ヒノコウジ、そしてツキノコウジは十仕家で御座る。王はイシキ騒動に組した十仕家でさえ断絶にはしませんでした故、両家が滅ぶ前に助けるでしょうな」
コウベエが最後を引き継いだ。良い所を持って行くとトシマサも苦笑いだ。
しかし参ったな、こんなことであればもっと兵を少なくしておけばよかった。その分、アサクマに対するシュテンに兵を与えられたものを。
「あの者どもの思惑は分かった」
「されば和睦に応じるのでしょうや?」
王からの和睦の使者が来たら応じるしかないな。
「いや、直ちに全軍を進める。王からの使者が来る前に出来る限りの城地を奪い、兵を出したことを後悔させてやる!トシマサ、使者を放り出せ!コウベエ、全軍に進軍の指示だ!」
こうして俺は全軍を持って連合軍が入った鶴山城に軍を進軍させた。それとは別にダンベエ、エイベエの兄弟にそれぞれの軍を率いらせ、ニバの国とセツの国の城地を取らせて回らせた。
火薬や兵器の出し惜しみはせず、手向かう者は切り捨て、降伏してくる者には城地召し上げ後、玄米で召し上げた石高を与えるとした。しかし一度でも手向かえば降伏しても玄米での保障はしないことも言い聞かせる。
俺がヒノコウジの使者を追い返した四日後、王からの和睦仲裁の使者が現れた。
この土地は京の都からそれほど離れていないので思ったより遅かったと思う。どうやら戦場への使者を嫌がってと、何より俺が怒っていると伝わったのか貴族たちの腰が引けていたようだ。
まぁ、傍から見ればヒノコウジやツキノコウジが現在領有している領地は俺があの二家に与えたような物だから、その恩を忘れ俺に剣を向けたことに俺が怒っていると貴族たちが勘違いしても仕方がない。
俺としては面倒臭いので今後反抗できないようにヒノコウジの領地を減らしたかっただけだ。今更手放した国のことをとやかく言うつもりはない。
「権大納言殿、此度の戦、王が大変お心を痛めておいでなれば、矛を収めてはくれまいか」
使者としてやってきたのは俺の従兄にあたるサダトミ・コウブだ。
今年の正月に太政大臣であった先代のサダオキ・コウブが正式に隠居したので家督を継いでいる。
俺よりもかなり年上で三〇歳を少し超えた年齢に見え、容姿はインテリぽい。
俺の従兄であり、ヒノコウジとは義兄弟の間柄となる。
今回の使者としては最適の人選だが、当初この話を固辞していたそうだ。
血の繋がりのある従弟と義兄弟の間で板挟みになるのは分かっていたのだろう。
「ご苦労でござる、参議殿。されど先に兵を出したのはヒノコウジとツキノコウジで御座れば……」
王の仲裁であるので断りはせんが、素直に受ける必要もないだろう。従兄殿には悪いがすこしゴネてやろう。
「されば、停戦の条件を提示して頂ければ某ヒノコウジ、ツキノコウジと談判してまいりますれば……」
「条件、で御座るか……」
既にセツの国の半分ほどに侵攻しているし、ニバの国もヒノコウジとツキノコウジの領地を占領している。ハッキリ言えばあと数日あればセツの国全域を手中にできるだろう。
それほどダンベエとエイベエの侵攻速度は凄まじいものだ。
今頃ヒノコウジなどは布団の中で青くなっているだろうし、ツキノコウジなどは領地を失っているので青い顔処の話ではないだろう。
「我れらが落とした城地は当然のことながらお返しする気は御座いません」
「……当然で御座る」
「我が方に寝返った者どもも我が家臣とします」
「……無論」
「現在囲んでおる城地に関しては直ちに明け渡して頂きたい」
「……それは……」
「セツの国守」
「っ!」
「ニバの国守」
「っっ!」
従兄殿は真っ青な顔をしている。まぁ、虐めすぎても何だから相談して来いと送り出した。
国守など要らないが、落とした城地に現在囲んでいる城地の領有は譲る気はない。
俺は全軍に一時停戦を命じ、従兄殿の回答を待つ。
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