戦国生産無双伝!

なんじゃもんじゃ

54話

 


 ロイド歴三八八九年一月中旬


 アワウミの国を離れミズホの国の金華城に入る。
 元はマシマ家が居城としていた山城で堅城である金華城が今のアズマ家の居城となっている。
 大平城は一門衆のブゲン大叔父に与え西ミズホの差配を任せている。


 俺が金華城に入ったのは新年の挨拶を兼ねてシュテンの元服の件、ソウコの嫁入りの件、そしてオダ家との婚姻同盟の件、をキシンと膝を突き合わせて話し合うためだ。
 とは言え、シュテンの件はキシンの意とは反し既に終わらしてしまったので先ずは謝罪をすることになる。


「私の一存にてドウジマルを元服させたこと、父上、そして母上にお許し願いたく……」
「……」


 キシンはいつもと違い難しい顔を俺に向ける。母であるコウちゃんもだ。
 だがここで卑屈になる必要はない。押せ押せで行こうと思う。


「シュテンには今後一軍を与える所存」
「……一軍とな?」


 キシンが乗ってきた。


「今年はアサクマとの戦を考えております。シュテンにはそこで活躍をして貰おうと思っております」
「……アサクマとのことは修復できぬか?」
「アサクマが詫び状を出せば少なくとも戦は回避できますが、難しゅう御座いましょう」


 詫び状を出せば兵を出すつもりはないが、アサクマ家としてもカモン家に頭を下げ家名を保つと諸外国に印象付けたくはないだろう。
 とは言えキョウサやアワウミに兵を出した以上はカモン家としてもアサクマ家をそのまま放置することはできない。既にアサクマ家の港を封鎖するように指示を出しているのでアサクマ家がどう出るか注視しているところだ。


 キシンが考え込んでいるので、このままシュテンの元服の件を有耶無耶うやむやにしてしまおう。


「アサクマのことは暫く様子を見ますが、本日はソウコについて相談が御座います」
「ソウコのことだと?」


 キシンが訝しみ、コウちゃんは何のことかと表情を変える。


「……申してみよ」
「されば……ソウコを我が家臣にとつがせようと」
「なっ!」
「まぁ」


 キシンは絶句、コウちゃんは純粋に驚きを表す。
 他にここに居る者(シュテン、ソウコ、フジカネ、ブゲン大叔父)ではフジカネとブゲン大叔父も驚いていた。まぁシュテンも既にこのことは知っているし、ソウコは言い出しっぺだからね。


「ま、待て!どう言うことだっ!何を言っておる!ソウコは嫁に行かぬと豪語していたではないか!儂の傍にずーっと居るのだと!」


 前世で生息していた父親のようなことを言うなよ。「私お父さんと結婚する~」「そうか~」って親馬鹿が言っている感じだ。


「殿、御静まりをっ!」


 正気を失ったキシンをコウちゃんが諫める。居てくれて良かったよ、コウちゃん。


「ソウシン殿、その話をもそっと聞かせてくだされ」
「はい―――――」


 俺はコウちゃんに向けて話し出す。
 ソウコが銃の競技会でフジタロウ・トミオカに負けたことをはじめ俺の知っていることを掻い摘んで話した。


「それでソウシン殿はそれを了承されたのですね」
「はい」
「その婿殿のこと、ソウシン殿がしかと道筋を示して下さると?」


 ソウコの婿に相応しい待遇をとコウちゃんが鋭い目つきで俺を見る。


「先ずは我が旗本とし、折を見て城を与えるつもりです」
「そうですか、なれば宜しいでしょう」


 ふ~、ソウコの件も上手くまとまったな。


「よ、宜しくなどないわぁぁぁぁっ!」


 キシンが叫んだ。まぁ、こいつを無視してコウちゃんと話を進めたのだから無理もないか。


「殿、いきなり叫ぶとは気でも触れましたか?」


 コウちゃん辛辣だな。そう言えばまた妾が増えたと手紙で愚痴を言ってきていたな。倦怠期なのかな?
 ブゲン大叔父やフジカネも驚いているじゃないか。ソウコは兎も角、シュテンが平然としているのは意外だ。肝が据わっていることとしておこう。


 その後はキシンがゴネてコウちゃんが説得するを繰り返す。最後は「ソウコが行かず後家になって世の笑い者になっても良いのですね!?」とコウちゃんが言うと「そんな父上なんて嫌いです!」とソウコがとどめを刺す。
 結局、キシンは拗ねてしまいそれ以上話ができなかったので後日話をすることでお開きになったのだが、部屋を出ようとした時にコウちゃんに呼び止められ別室に連れていかれシュテンの元服の件でコンコンと説教をされた。
 流石コウちゃんだ、覚えていたんだね。


 翌日、オダ家との婚姻同盟について話し合う。
 これはキシンを始めブゲン大叔父、フジカネ、シュテンの一門衆だけで話し合う。
 オダ家からは一二歳のイチ姫が輿入れしてくる。こちらは誰が婿になるかと言うことだが、年齢的にはシュテンが対象となる。
 しかし俺の予想ではオダ家とはいずれ雌雄を決する戦いをすることになると思っているので軍事面でカモン家の中枢を担って貰わねばと思っているシュテンの嫁にはしたくないのが本音だ。


「四男のシロウ様では?」


 ブゲン大叔父の提案した四男のシロウはシュテンの一歳年下で妾腹の弟だ。
 母親は既に他界しているので今はコウちゃんが引き取り養育をしているが、四男で妾腹だし母親の出自も身分が低い家なので家中では重要視されていない。
 俺の弟でキシンの子だし歳も一一歳なので年齢的にはイチ姫と釣り合うが、オダ家がどう思うかが問題だ。


「シュテンならば兎も角、シロウではオダも納得せぬのではないか?」


 何れ元服すれば城の一つは与えてやろうと思うが、それはシロウの器量次第だ。
 シュテンは正妻であるコウちゃんの実子だし、俺の同腹の弟なので何かと優遇されるだろうが、シロウではそうは行かないだろう。
 ん、待てよ、考えてみたらシロウもカモン家で引き取れば良いんじゃね?幸いシロウに与える城の一つや二つくらいどうにでもなるよな……。うん、良い考えだ!そうしよう!


「なればシロウも我がカモンの分家としたく、さすれば城の一つ、能力次第では一国を任せても構いませぬ。幸いなことに父上には他に男子おのこがまだ沢山おりますし」
「う……む……カモンならば与える城地に不自由はないか……」


 俺は弟を直臣に加え、キシンは子に城を与えてやることができる。しかもオダ家のイチ姫と言えば絶世の美少女と噂の美姫だ。後はシロウの器量次第で出世も望める。


「なるほど、分家であっても十仕家であるカモン家の分家、家格も悪くありませぬし、良い案ですな」


 ブゲン大叔父は俺の案に賛成してくれた。フジオウとシュテンは黙して語らず。


「良いだろう、シロウをカモン家に……されど、シュテンに嫁が居ないのだ、オダは納得するのか?」
「ならばシュテンの嫁取りも直ぐに進めまする」
「その様な話があるのか?」


 ある。しかも一家や二家どころの話ではない。
 ブゲン大叔父が言ったように分家とは言えカモン家の分家なので下手な貴族よりもよほど家格は良い。しかも将来有望な未婚の若者なんだから縁談の話が無いわけが無いのだ。


「宮廷貴族ならオモテニジョウ家、サンジョウツカサ家、国持ちであればイジマの国のイザヨイ家、後は……ウラツジ家……」
「ん、ウラツジ?」


 シュテンに嫁をと言っている家を気分よく聞いていたキシンだが、最後のウラツジ家に反応した。


「ウラツジと言えば……」


 ブゲン大叔父も気が付いたようだ。


「あのウラツジか?」
「ええ、そのウラツジで良いかと」
「ソウシン様……」


 ウラツジ家は十仕家の家柄だがイシキ騒動の時にイシキ側に組した為に今は官位官職を剥奪され蟄居謹慎中の家だ。
 そのウラツジ家からシュテンに娘を嫁がせたいとカモンの義父殿を通じて申し入れがあった。
 元々十仕家なのでカモンの義父殿とは顔見知りであるし、飛ぶ鳥を落とす勢いのカモン家と縁続きとなり復権したいと思うのは仕方がない。
 しかもシュテンとウラツジの姫との間にできた子が男子であればその子にウラツジの家を継がせるとも言ってきているのだ。
 名門ウラツジ家の当主の父ともなればシュテンの官位官職も自然と上がろうと言うものだ。


「そのような話が持ち上がっていたのか……」
「腐っても十仕家で御座いますからな……」


 ソウシンとブゲン大叔父は今回の話にビックリだ。


「准大臣殿は何と仰っておられるのだ?」
「王がウラツジを潰さなかったのはいずれ赦す御つもりだと仰っておいでです。そして赦すのであれば次の王の即位に合わせて恩赦を与えるのが一番濃厚でしょう」
「成るほど、その時期が迫っているわけか」
「なれば今の内にウラツジを取り込むのも宜しいか……」


 キシンとブゲン大叔父はウラツジとの縁談に傾いた。
 イシキ騒動当時のウラツジの当主は既に隠居し息子が跡目を継いでいるので赦されれば数年の内に少なくとも正四位下参議あたりは固いだろう。
 そして将来は大臣職は無理でも大納言ならば目があるし、次の当主(シュテンの子)の世代であれば大臣職や関白もありえるだろう。
 ウラツジは領地を持たない家だしすぐに大臣にはなれないだろうが、十仕家に親カモンの家が増えるのは良いことだ。
 俺がいずれこのワ国を出て大陸に進むにしてもカモン家の安定に寄与する可能性は大いにある。


「されば、父上に確認したき儀がありまする」


 シュテンの嫁についても話が纏まったので話を変える。
 これは今後のアズマ家にとって非常に重要な話だ。


「父上はミズホ一国のみで満足でしょうや?」
「む!……それは……」
「我がカモンは畿内をほぼ抑えて御座います。これより後に勢力を伸ばすのであれば北陸より北上し東国を目指すか、西に進むかの二通りとなりましょう」


 俺がユーラシア大陸に出るには今のカモンでは難しい。
 何故なら勢力が中途半端なのだ。
 今の状況で俺が誰かに家督を譲り大陸を目指した場合、カモン家が弱体したと攻め込んで来たり、調略によって家臣たちが謀反を起こす可能性だってある。
 今のカモン家は寄せ集め集団なので俺と言うくさびが外れれば空中分解してもおかしくないのだ。
 だからカモンが揺らがないほどに強固な体制にしてからでなければ俺は大陸を目指せない。その為にはアズマ家のスタンスを確認する必要があるのだ。
 キシンがより大きく成りたいと思うのであればこの際だからアサクマ家を滅ぼし、アズマ家には北上してから東国を平らげて貰えばカモンは西に進み一門でワ国を支配できることになる。
 幸いにもキシンには姫も多いので他家と縁を結ぶのに不便はない。……まったく、俺も嫌な考え方をするようになってしまったな。
 それにノブナガが東を目指すと分かっているのでノブナガが大きくなるのと並行してアズマ家にも大きくなって貰えばノブナガも下手なことができないだろう。


「アズマが東を抑え、カモンが西を抑えればワ国は我ら一門により統一されましょう」


 キシンは瞑目しおし黙り、シュテンとフジカネは目を剥き驚き、ブゲン大叔父は口をポカーンと開けて呆けている。


「父上には東を目指す心づもりがありましょうや?」
「……」


 ブゲン大叔父、シュテン、フジカネの三人は未だ俺の言っていることをまとめきれていないようだが、キシンには考えがあるようだ。


「それに関してワシもソウシンに問いたい」
「何でしょう?」
「カモンは、ソウシンはワ国の……王となるつもりか?」
「「「っ!」」」


 キシンの言葉に三人がビクッと反応する。


「いいえ、私は王を望みません。寧ろ王の治世を助けるを選びます。されど今のワ国は王家の荘園を横領する者どもも多く王の権威は失墜しております故、私は王の権威を回復したいと思っております」


 王になどなったら大陸に行けないじゃないか。そんなことより俺が世界を見て回る為に王にはそれなりに権威をもってワ国を統治してもらわねば。
 そしてカモンやアズマで王のワ国統治を助けて行けばよいのだ。その頃にはタケワカも大きくなっているだろうし、タケワカがカモンの当主の器でなければシュテンにカモンを継がせても良い。


「それで、良いのだな?」
「勿論に御座います!」
「ならばアズマは東を目指そうぞ」


 俺とキシンの会話を見守っていた三人が「おぉぉぉー」と声を挙げる。
 こうしてカモンとアズマの家について一族会議が終わりを迎える。
 一族会議と言っても実質俺とキシンとブゲン大叔父しか喋っていないけどね。
 今回、フジカネは一言も喋らなかった。若輩者と控えていたのであれば良い傾向だが、話の内容が分からず口を出さなかったのであればアズマ家の世継ぎとしては物足りないどころの話ではない。
 そして自分のことが話し合われていたシュテンも言葉を発することはなかった。時々少し嬉しそうにしていたけど、シュテンはしっかりと場を弁えていたようだ。


 決まったことはシュテンの嫁はウラツジ家から迎え、早々に祝言を挙げること。
 ソウコの嫁入りは早くても来年に行い、フジタロウは俺の旗本としてから城を与えること。
 今年の春にシロウをカモン家に向かえ秋には元服させ同時にイチ姫を嫁とすること。
 アサクマ攻めにはカモン・アズマ連合軍で当たり、アズマ家は北進し東を目指す。


 

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