戦国生産無双伝!
53話
ロイド歴三八八九年一月上旬
今年も開催するカモン家恒例の大宴会!
今年も妻子を伴い昼は妻子メインの食事会を行う。前回とは違うのは相撲や弓、そして鉄砲の腕を競わせる御前試合を開催したことだ。参加者は25歳未満の腕自慢だ。
最初は弓の腕を競う。
鉄砲隊が勇名を馳せているカモン家とは言え、弓隊も粒ぞろいだ。
中心を一〇〇点、その外側を五〇点と外に行くほど徐々に点数が低くなる丸い的矢を射ってもらい合計点数を競い合う。
ただし、制限時間は三十秒でその間なら何本の矢を射ようとも構わない。
優勝者には俺が創った複合弓を贈る。
この複合弓は以前討伐した熊の魔物の牙やミズホ鋼(ハニカム構造)を使ってカーボンナノチューブでコーティングしている特殊複合弓だ。世界に一つしかない特別製の弓なのだ。
弓の部はニ強だった。
イチノスケ・カガミ、一九歳の若者と元奴隷で俺が作った育成施設で育ち独り立ちする前にハガヤマ家に養子として入っているカゲロウ・ハガヤマと言う二十歳の若者が同点だったので同点決勝をおこなった結果、たった一度のミスが響きイチノスケが勝利したのだ。
「二人とも見事であった、今後も良き好敵手として切磋琢磨することを望む」
「「有り難き幸せ!」」
優勝者のイチノスケには複合弓と知行一〇〇石を与え、カゲロウには五〇石、他に優秀な成績を残した者に三〇石づつを与える。皆喜んでいた。
鉄砲の部が始まる。
何故かソウコまで出場している。【狙撃手】であるソウコが出場すれば優勝も夢ではないと思う。
一四〇メートル離れた場所に弓の時と同じ的が置かれる。
弓と違うのは射撃回数が五回と決まっており、その五回の射撃の合計点数で競う。
出場者は二二人でその内の一人がソウコだ。
射撃は六人づつで行う。最初の組の最高点は一九〇点(五〇・三〇・三〇・五〇・三〇点の合計)だった。
二組目が入場し銃を構える。この組にはソウコも居り銃を構えている。
パン、パン、パン、パン、パンと五回の連射。いや、これ連射の競技じゃないのですが?
結果は一〇〇点・一〇〇点・一〇〇点・五〇点・一〇〇点の合計四五〇点だった。
あんな早い連射で中心を外したのはたったの1回だけ。それも五〇点を取っているのでミスらしいミスとも言えないだろう。この点数なら鉄砲の部はソウコの優勝だろう。
と思っていた時もあった。
何と五〇〇点満点を叩き出した者がいたのだ。
その一七歳の若者はフジタロウ・トミオカと言う名で……どこかで聞いたことがある名前だ。そんなフジタロウはアワウミの国人衆であるトミオカ家の三男だ。
トミオカ……鉄砲……そうか、富岡藤太郎、前世では国友衆だったはずで鉄砲の名手だった男がそんな名前だったはずで『フジタロウ』と『とうたろう』の違いはあれど漢字の読み違いのような差だ。
ここに来て前世と関係がある人物が何人も登場してくるな。何かあるのか?……考えても分からないことだ。
しかし鉄砲の名手が家臣の中に居たのは嬉しい誤算だ。しかもソウコに勝つほどの名手だ。
これでまた鉄砲隊の指揮を任せられる者を見つけたぞ。
「フジタロウ、見事であった!今後も励めよ!」
「は、有り難きお言葉!」
フジタロウにも最新式のライフルを与え弓の部と同様に一〇〇石を与える。ソウコには何もないがフジタロウやソウコ以外にも良い腕を持った者がいたのでそれぞれ三〇石を与える。
その後の相撲大会は激しいぶつかり合いや張り手の応酬で決勝に残った二人の内一人は顔を腫らしていた。そしてもう一人も右手を負傷していたようで決勝戦は顔を腫らした若者の勝利で終わった。
顔を腫らした優勝者はジンザエモン・ミヤベ。準優勝者はマスヒデ・ガンモ、今はイゼの国に領地替えで移ったが元はアワウミの国人だったガンモ家の次男だ。
優勝したジンザエモンにはミズホ鋼を使った槍と一〇〇石を、マスヒデには五〇石、準決勝で敗退した二人にそれぞれ三〇石を与える。
「見事!今後の活躍に期待する!」
「はっ!」
この後は食事会となる。妻子用に酒ではなく果物のジュースや美味しい緑茶などを出す。
そしてこれでもかと言うほどの料理を用意して家臣や妻子を歓待する。
彼らが居るので俺もここまで来られたのだ、年に一度くらい大盤振る舞いをしても良いだろうと言うことでお土産も用意した。
昨年はワイングラスを贈ったので今年は純金の祝盃を贈ることにした。
大量の金を使って俺が作った祝盃だが、今のカモン家には大した出費ではない。
寧ろこの程度のことで家臣の妻たちの心を掴めるのであれば安い物だ。
妻たちは昨年に続いての貴重な品を受け取り感無量といった感じで帰っていく。
そして始まった夜の部。
毎年大盃に入った酒を飲み干すのでは能がない、と言うことで今年はビンゴ大会にしてみた。これなら下戸や酒に弱い者でもチャンスがあると思うのだよ。
先ずは皆に酒が行き渡るのを待ち家臣代表としてキザエモンが乾杯の挨拶をする。
「———————昨年はイゼ、スマ、キエの三ヶ国を切り取り———————では、盃をお手に……乾杯!」
『乾杯!』
キザエモンの長い話が終わりやっと乾杯となった。
乾杯の後は家臣たちがカモンの義父殿、俺、そしてシュテンの順に酒を注いで回る。
今年の大宴会には昨年元服したシュテンも参加しているのだ。
俺は相変わらず酔わない。義父殿は家臣たちの酒を飲んで寝てしまった。シュテンは意外にも頑張って皆の酒を飲みほしても意識を保っている。
「シュテンもいける口だな」
「兄上ほどでは御座いませんよ」
俺の場合は酒精を抜いて飲んでいるからね、バレなきゃ良いのだよ!
そして始まったビンゴ大会!
皆にビンゴカードを渡し俺とシュテンで箱に入って見えないボールを一個ずつ取り出すと言うシステムです。
ビンゴ大会の最初のビンゴはレイザン・ドウドウだ。旧ハッカク家の家臣で今はイゼ方面の有力者の一人だ。レイザンにはミズホ鋼の太刀を贈る。
次のビンゴは二人出た。一人は旧イシキ家の家臣で三〇〇石の玄米扶持のロクロウ・キウラ。もう一人はサヘイ・アオキでイゼの国出身だ。二人には六鋼板当世具足を贈った。
そして参加賞としてワインを全員に贈る。
こうして盛況の内に大宴会は終了を迎えるのだった。
ロイド歴三八八九年一月上旬
早朝からたたき起こされた俺の前にはアズ姫とソウコ、そしてカナ姫が雁首を揃えていた。
「こんな早朝に如何したのだ?」
「兄上、ソウコは決めまして御座います!」
ん?決めたって何を決めたのだ?
「何を決めたと言うのだ?」
俺はアズ姫とカナ姫の顔を伺うようにソウコに問う。二人はただにこやかにソウコを見ている。
取り敢えず俺は寝起きだったので侍女が用意してくれたお茶でも飲んで目覚めのモーニングティーと洒落こみますか。緑茶だけどね、香りと後味は良いのだよ。
「ソウコはフジタロウ殿の妻になります!」
「ブッ!」
俺は口に含んだ緑茶を盛大に噴き出した。
「つ、つ、つ、つまって……妻か?」
「他にありませんが?」
「……」
アズ姫を見ると俺がお茶を噴き出して畳の上を濡らしたのでそれを「あらあら」と言いながら拭っている。どうやらアズ姫はソウコからこの件を事前に聞いていたようだ。アズ姫だけではない、カナ姫も間違いなく知っていた顔だ。
整理しろ、何でソウコはいきなりこんなことを言い出したのだ?
って、分かり切っていることだな、ソウコは自分より優秀な銃使いしか認めないようなことを以前言っていたよな。
はぁ、フジタロウならソウコの要望通りだが、それで良いのか?恐らく顔を合わせたのも昨日の競技会場が初めてじゃないのか?
「殿、ソウコ殿の気持ちを汲んで頂けないでしょうか」
「アズ姫はソウコとフジタロウのことを知っているのか?」
「昨日、競技会の後に聞きました。ソウコ殿がその気になったのですしフジタロウ殿も将来有望な若者ですから私は応援しました」
「カナ姫もか?」
てか、この三人はそんなに仲が良いのか?ソウコとアズ姫は分かっていたが、カナ姫まで……
「こう言うことは直感が大事なのです」
そう頷くカナ姫。
何となくだが言うことは分かる。しかし唐突だな。
「分かった……と、言うかフジタロウは何と?」
「まだ何も」
そこからか。まぁ、フジタロウは良い。フジタロウにしてみれば良い話だし、これで出世街道を進めるのだから。
しかし問題があるのは……キシンだよな……そう言えばフジタロウは妻帯者なのか?もしくは許嫁がいないだろうな?調査をさせないとな。
「分かった。ソウコがフジタロウの妻に成りたいのであれば俺は反対しない。フジタロウの身辺調査をしてからトミオカの家に申し込むことにしよう」
「兄上、有難うございます!」
「そう言うのは父上を説得してからだな」
「……」
キシンを説得しないと話を進めるわけにはいかない。シュテンの元服のことにソウコの嫁入り、更にはオダとの婚姻同盟、あとはイゼ、スマ、キエの論功交渉か、頭が痛い。
キシンには何て言おうかな……
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