戦国生産無双伝!

なんじゃもんじゃ

50話

 


 ロイド歴三八八八年一一月下旬


「殿! クロサキ殿より早馬が!」


 む、早馬だと?
 キザエモンにはキョウサの守りを任せている。つまりキョウサで何かあったと言うことだ。それとも嘉東城に居るアズ姫やタケワカ、それにソウコに何かあったのか?


 俺は書状を受け取ると無雑作に開ける。
 その書状にはアサクマ家が陸路でアワウミと海路でキョウサに兵を出したと言うものだった。
 俺が居ないキョウサとアワウミを攻める。それはつまりニシバタケの援護と俺の資金を支える交易を封じると言う意味合いがある。
 もう直ぐ冬になるので雪深いオチゼンの国を治めるアサクマは動かないと判断していたが、このタイミングで動くか……意表を突く良い策だが、それは自分自身の首を絞めることになるのだと理解させてやる。


 しかし嘉東城に残してきたアズ姫とソウコをアワウミに移しておけば良かったかな……いや、嘉東城にはこれでもかと言うほど防御力を上げておいたのだ、他の城よりも遥に堅城だし攻撃力だって最強だ。
 それでも心配だ……アズ姫たちに何かあったら俺はアサクマ家どころかニシバタケ家も根絶やしにしてしまうだろう。例え王が停戦の調停をしようと決してその手を緩めないだろう。


 翌日、キザエモンからの早馬がまたやってきた。
 内容はキョウサに向かっていたアサクマ家の艦隊はヘル・シップを中心とした第三艦隊によって駆逐したとのことだ。
 残るは陸路でアワウミの北部に侵攻してきた二万の兵だが、これはキザエモンと北アワウミの国人衆軍の二万と対峙しているとあった。
 アサクマ軍に関しては足止めさえしておけば来月にも引きあげていだろうから無理をせず持久戦に持ち込めと指示を出している。


「アサクマもニシバタケが滅んでは当家に対処できないと、尻に火が付いたと言うところでしょうな」
「ああ、俺がアサクマに何の対処もせずに出陣したと思っていないだろうが、アサクマは動きが悪すぎる。俺ならキエのニシバタケが動いた時に同時に動くがな、それとできればヒノコウジとも共闘するがな」
「左様、ヒノコウジ、そしてオダを取り込めばカモン包囲網の重みが増しますな。しかしアサクマはヒノコウジや成り上がりのオダと一時的な同盟と言えど、手を結ぶと言う考えがなかったようですな」
「表面上は北との調整が出来ておりますが、万が一を考えて戦力を当家に集中できないのも頂けませんな」


 シゲアキとコウベエは我がカモン家に敵対するのに面子に拘り、更に全力で当たれないアサクマの対応の悪さを指摘する。俺としてはそうならない方が有り難いしそれは家臣たちも同様の意見だろう。
 そしてシゲアキはこれでアサクマを討つ名目ができたと内心で喜んでいるようだ。コウベエも来年はアサクマ攻めをと考えているのだろう。


「さて、ニシバタケの方を片付けるとするか」


 霧河城は名門ニシバタケ家の居城に相応しい城郭を持っている。だから力攻めでは味方兵の被害が馬鹿にならない。しかし俺には爆破大弩があり、城門や城壁内への攻撃手段を持っている。
 戦端はこの爆破大弩による大量破壊によって開かれる。先ずは櫓や城門を破壊する。破壊した城門を通りダンベエが歩兵を率いて雪崩れ込む。その後中筒隊を送り、敵の郭を落としていく。
 しかし流石は霧河城と言うべきか、朝から攻め始めたが夕方になっても陥落はしなかった。各郭を守る守兵もよく戦っていると言うべきだろう。
 この霧河城が落ちればニシバタケに臣従する国人衆も此方に寝返り易くなるし、何より当主が城を枕に討ち死にする勢いらしいから、そのまま討ち死にして貰えばあと腐れがなくて良いとも思うが、そうすると主家の敵討ちだと国人衆が纏まることも考えられるので考え物だ。


 城攻めは陽が落ち暗くなっても続行した。残るは一の郭だけとなっており、これもそろそろ落ちるだろう。
 伝令がひっきりなしに最前線と本陣を行き来する。誰々が誰々を討ったとか誰々が怪我をしたとか誰々を捕縛したとか伝令も大変だ。
 横ではシュテンが少し暇そうにしている。


「リクマ、ソナタに前線の軍監を命じる」
「承知致しました!」
「シュテンはリクマを補佐だ」
「……は、はい!行ってまいります!」


 軍監は軍を統率する権限を与えられていないが軍を監察する役目なのでどの場にも立ち会う権限を持っている。つまり実戦は行わず味方の将兵が命令違反をしていないかなどを監察するのが仕事である。その報告は俺にすることになるのだ。


「シュテン、リクマの傍を離れるでないぞ」
「はい!」


 一の郭付近はまだ危険だがそれ以外は粗方掃討している。全く危険がないわけではないが、ここまで連れて来たのだからシュテンに何もさせずに終わるよりも良いだろう。
 まぁ、前線に着く前に一の郭が落ちていたと言う結果が待っていることも十分に考えられるが、それでも戦死者を見、怪我を負った者の苦しみの声を聞き、血の臭いを嗅ぎ、殺気立った空気を吸うことも勉強だ。シュテンに戦場の恐ろしさをしっかりと体感して貰おう。


 真夜中、とまでは言わないが息つく暇も与えず攻め立てたおかげでニシバタケが降伏してきた。
 何だよ、城を枕に討ち死にするんじゃなかったのかよ!と悪態をつきたい心を落ち着かせニシバタケの当主であるノリアツや一族を待つ。


「殿、思わぬところで降伏してきたニシバタケをどのように扱うおつもりでしょうや?」
「そうだな、家は残す。ノリアツが望むのであれば領地は与えぬが玄米ニ千石を与え俺に仕えさせる」
「……望まぬのであれば?」
「頭を丸めさせホウオウ家にでも預ける。その場合は一族も同様だな。それも嫌だと言うのであれば首をもらうまでだ」


 シゲアキは俺の処置が温厚過ぎ意外だという顔をする。しかしここでニシバタケを滅ぼすのは簡単だがその後の国人衆の取り込みに支障が出るだろうから嫌でも利用するしかない。
 今回はスピード重視でイゼとスマの両国を抑え、キエのニシバタケ勢を挟み撃ちにしたいのだ。


「不満か?」
「いえ、この後のことを考えればそれで宜しいかと……ただ、少納言殿の子を人質にとるのが宜しかろうと存じますが」


 少納言というのはノリアツ・ニシバタケのことだ。従五位下少納言、三ヶ国を長きに渡って治めてきた名門とは言え王家の天領やイゼ大神宮の荘園を横領し王家を蔑ろにしている事実があるので官位はあまり高くない。
 そんなことよりも人質をとるとシゲアキが提案してきたが、俺は人質などとらぬつもりだ。
 人質などとったところで人質を見捨てて俺に反旗を翻す輩はいるだろう。そうなったら俺は人質を殺さなければならないが、そんなことをしたくはない。そして裏切られた時に人質を殺さなければ俺は他の貴族たちから舐められるだろうから人質などいらないのだ。


「いや、人質は要らぬ。俺を裏切りたければ裏切れば良い」
「それで宜しいので?」
「構わぬ、それで俺に勝てると思うのであればな」


 納得したのか、何を言っても無駄だと思ったのか、分からぬがシゲアキはそれ以上何も言わなかった。
 そんな話をしていたらニシバタケ一族が本陣に引っ立てられてきたと報告があった。
 本陣として使っている寺の境内の石畳の上に座らせられたニシバタケ一族、女も子供も含めると総勢三八人だ。
 これでも一部の一族は逃げたり自分の城に立て籠もっていたりする。そういった一族は元々ノリアツに反抗的や非協力的な一族なので早々にノリアツを見放しているのだ。


 軍監に任命したリクマと補佐を命じたシュテンもニシバタケを囲む兵より俺寄りに陣取っている。シュテンの顔色が悪いようだが、戦場の惨劇を初めて目にしたのだから仕方がないだろう。
 実際にはリクマにシュテンのお守りをさせていたのでリクマもシュテンの状態を気にしているようだ。
 シュテンには酷かもしれないがここを自力で乗り越えてこそ一人前になれると思うから今は放置だ。


 捕らえたニシバタケ一族三八人の中で成人男性は五人でノリアツ以外にはノリアツの子が二人と弟が二人だ。そして未成人の男子が三人、これはノリアツの子が二人と嫡男の子が一人だ。他は女性でノリアツの妻たちが一八人と弟や子の妻が一二人となっている。
 キシンも側室が沢山いるようだが、ニシバタケも家格に比例して妻が多い。俺なんかアズ姫と最近になってツツミ家から側室を一人迎える段取りになっているだけなのに、お盛んなことで。


「無駄に時間を掛けることもあるまい。ノリアツ、ソナタは俺に仕える気があるか?扶持は玄米二〇〇〇石だ」


 一族全員が縄を打たれ石畳の上に座らされている中で、一番前に座っているのがノリアツだ。俺はそのノリアツに俺への仕官を進める。
 戦に負け降伏した時点で俺に生殺与奪権があるのは理解しているのだろう。そこで仕官すれば話は早いし、NOと言うのであれば僧にさせる。それも拒否するなら殺すことになるが、それはノリアツ次第だ。


「ふ、フザケルナ!誰が貴様の家臣などになるか!」


 一次試験は不合格と。


「ならば僧になり死んでいった家臣たちの御霊を供養して余生を過ごすか?」


 これを拒否すれば死ぬことになるぞ。答えは慎重にね。


「貴様の指示など受けぬ!」
「……ならば一族皆、死罪とする」


 俺は吐き捨てるように言うと立ち上がりその場を去ろうと足を一歩出す。


「お待ちくださいませ!」


 ノリアツは死罪と言われ呆けているので声の主は彼ではない。一族が団子になって座らされている一角に俺を射殺すほどに睨みつける少女、彼女が俺に声を掛けたようだ。
 前世の美的感覚で言うと美人と誰もがいうほどの顔立ちをした気が強そうな少女は恐らく十代後半くらいの年齢だろう。高校生程度に見える。


「何だ?」
「成人した者は兎も角、せめて未成人の者にはご慈悲を!」


 未成人と言うのは三人の幼子のことだろう。嫡男の子はまだ乳飲み子だし。


「ソナタらの主は俺が差し伸べた手を拒んだのだ、俺が妥協する理由はない」


 幾ら美人の言うことでも俺は揺らがないよ。
 女性の言葉で政を左右させては国が滅びかねないのは前世の歴史が証明しているからね。
 でも元々殺したくはなかったのだから彼女が俺を説得できるのであれば話を聞く価値があるかもね。


「父上様は冷静さを欠いている状態です。少しだけでもお時間を頂きたく、どうかお願い申し上げます!」


 視線は俺を殺してやりたいと言っているが、それでも俺に頭を下げる少女。
 ノリアツのことを父上様と言ったのだから娘か、もしくは息子の嫁だとは思う。俺の記憶では彼女はノリアツの三の姫で名をカホコと言うはずだ。


「時間は有限である。ソナタは俺に無駄な時間を要望するか?」
「か、必ずや父上様を説き伏せて見せます!ですからどうかご慈悲を!」


 ノリアツだけではなく、男たちや女たちは全員死罪と言われ真っ青な顔をしている中、彼女だけが俺をしっかりと見据える。


「説き伏せるか?」
「はい、必ずや!」


 俺は少し考える振りをする。答えは直ぐに出ているのだ。


「ふむ、ソナタ名を何と申すか?」
「カホコに御座います」


 予想通り彼女はノリアツの三の姫のカホコだった。
 気位の高いニシバタケ一族の中にあって家臣のことを思いやる心を随所にみせているので家臣には人気があると聞いている。
 そんな彼女を使うのだからノリアツの様な無能と思われる男を助ける為ではなく、もっと大きなものを守るために使ってもらおう。


「ならばイゼ、スマの国人衆をソナタが説き伏せ我が元に降らせよ。さすれば女子供の命は助けよう」
「っ!?」


 父のノリアツを説き伏せると言ったのに俺に降伏していない国人衆を説得しろと言われた彼女は驚愕なのか目を大きく見開く。
 彼女が説得すれば俺に降伏する国人も一定数は見込めるだろう。全員でなくても良いのだ、未だ俺に反抗の意志を表している国人の半分、いや、三割でも降伏させれば彼女の希望を叶えてやろう。


 

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