戦国生産無双伝!

なんじゃもんじゃ

001_神様

 


 まいった。
 今まで俺は普通に道路を歩いていたはずなんだ。なのに今は一面真っ白な空間に佇んでいて頬をかいている。
 まさかとは思うけどこれって、あれだよね?


「ようこそ、貴方は選ばれてここに来ました」


 急に声が聞こえたので振り向いたら、そこには……何もいなかった。
 普通はトテモ綺麗な金髪お姉さんだったり、ロリ巨乳幼女だったりがいて俺を異世界に送るだとか、力を与えるだとか、世界を救って欲しいとか、言ってくる予定だったんだけどな。


「私の姿を見たいのですか?」


 そりゃ~見たいさ、声から想像すると綺麗どころのお姉さんでしょ? どんな綺麗なお姉さんが俺を異世界に送るのか、その顔を拝んでおくのも悪くないと思う。


「では、振り向いて下さい」


 声の誘導に従ってもう一度振り向くと、そこには……何でオッサンなんだよっ! 声は女性だったろ!


「姿はどの様にも変えられますし、声も同様ですよ」


 オッサンが若い女性の声で話す姿は俺の精神に圧倒的な不快感と負担を掛けたようだ。俺は嫌な汗が体中の毛穴から噴き出す感覚を覚えた。


「……わかりました、これでよいでしょうか?」


 オッサンの姿に靄がかかったと思ったら、数秒後にはその靄が晴れて女性の姿に変わった元オッサンが佇んでいた。
 ……せめて若いお姉さんにしてくれないかな? なんでオバサンに姿を変えたんだ? 俺への嫌がらせ? それとも実は若い人の姿にはなれないの?


「姿や声などはどうでもよいでしょ? 今は貴方の今後について話をする時なのですから」


 考えたんだけど、俺って声を出して話してないよね? もしかしてお約束の考えていることが読み取れるってやつ? それなら先に言っておいて欲しかったな。


「ここでは声など何の意味もないのです」


 然様ですか。では本題をどうぞ。どうせ異世界行きでしょ? 力は何をくれるの?


「……貴方には異世界に行っていただきます」


 うん、分かっていたよ。それでどんな力をくれるの?


「これを」


 俺の目の前に本が落ちてきた。そう、物理的にしっかりドサッと音を立てて真っ白な床に落ちたんだ。
 危なっ! もうチョットで足の甲に直撃するところだったよ。それに普通はこういうのを俺が受け取るのが定番じゃない? 何で床に落とすのかな?


「貴方に与える力は貴方自身で選んでもらいます。この空間では時間の概念がありませんので好きなだけ時間をかけてユックリと選んでもらって結構です」


 俺からの苦情はスルーされたようだ。
 ……選べる力は幾つ?


「貴方に与える力は一つです。ですからよく考えて選んでください」


 え~、一つだけなの~? もうちょっとくれてもいいじゃないですか~。


「……」


 また無視されたようだ。
 俺はズッシリと重く六法全書のような分厚い本を拾い上げた。
 この厚さの本を読み切るのにどれだけの時間が掛かるのかと辟易してしまう。
 立ったままでこれを読み切る自身はないな、できれば机を椅子を用意してほしかったよ。
 そんなことを考えていたら、俺の前に机と椅子が現れた。便利ですね。
 でももう少しクッションのきいた椅子が良かったな。座り心地が悪いのよ。
 ……改善はされなかった。贅沢は許されないようだ。


 何々、『職業大全集』。どうやら俺がこれから行く世界には『職業』という概念がありその職業によって人の潜在能力と言うべき『力』が与えられるそうだ。
 そして『職業』にはレベルが存在しており、レベルが上がれば能力が上がると言うものだった。
 ザッと数ページを斜め読みしたが職業には【剣士】とか【魔法使い】なんてものから【将軍】や【皇帝】なんてものまである。


 ねぇ、俺がこれから行く世界のことを教えてもらえる? それと俺に何をしてほしいのか、『力』以外にどんな条件が俺に適用されるかも教えてほしいな~なんて思っているんだけど。


「これから貴方に行ってもらう世界は貴方が今まで存在していた世界で言うところの中世頃の文明レベルです。但し魔法と魔物が存在する世界でもあります。多くの地域で貴族制度が根付いています」


 予想通りの世界なんだね。


「貴方が行くだけで私の目的は達せられますので私から貴方に望むことはありません。好きなように生きてもらって構いません。また、貴方には送られる先の言語知識を与えますし、送られた直後にしばらくは暮らせるだけの金銭も与えます」


 他には?


「それだけです」


 え?


「何かご不満でも?」


 不満も不満、大不満ですよ。金が貰えるってのは有り難いけど、知人もいないし家もない。
 そして何より魔物がいるってことは命の価値が低い。そんな異世界に放り出されるのにたったそれだけなの? 随分と不親切な異世界転移ですね。


「それでは他に何が必要なのでしょうか?」


 異世界に送られた後、しばらく暮らせるなんて言わずにせめて貴族の子供ってことにしてくれてもいいだろうし、ハーレム体質にしてくれたっていいし、幸運体質でも良いよね?
 簡単に命を取られかねない異世界に行くんだから職業を選ばせてもらうだけじゃなくて他にもメリットがないと「はい、そうですか」とは言えないよね?


「……貴方を向こうの世界で両親が存在する子供として送る場合は生まれ変わって貰うことになります。またハーレム体質は無理ですが転生であれば運を上昇させることは可能です」


 転生になるのか……姿は変わってしまうよね?


「転生の場合は両親の因子を受け継いだ容姿になります」


 両親は選べるの?


「こちらで適当な候補から無作為に選ぶことになります。勿論、貴族という条件は反映します」


 親切なのか不親切なのか微妙なラインだ。
 今、一番最初に考えるべきなのは、俺は転生するべきなのか、それとも転送で済ますべきか、これによって選択する『職業』も変わってくるだろう。転生なら運も上がるからせめて転生先の両親や経済状況、そして両親を取り巻く状況が分かれば決断できるのだけどな。


「それでは転生した場合の貴方の両親と経済状況などの情報を与えましょう」


 え? できるの?


「一度選ばれた転生先の変更はいたしかねますが、転生ではなく転移を選ぶことは可能です」


 是非お願いしますっ!


「……貴方の転生先はワ国のアズマ家です。貴方はアズマ家の長男として生まれることになります。父親はミズホという地域の一部を統治している貴族で官位はミズホ国守です。ミズホ地域は平野部が多く穀物の収穫量も多い裕福な地域です。そしてミズホ内では豊かな土地を巡って争いが絶え間なく続いていますが、幸か不幸かアズマ家の治める土地は山間部が多くあまり豊かではない為、そういった理由で攻められることは少なく自分から戦いに行かなければあまり戦争に巻き込まれることのない土地ですね」


 まさかの日本モドキのネーミング! しかも国守なのに一部しか領有していない戦国時代であり、下剋上の乱世!
 それに日本モドキの世界感だと考えると、このアズマ家は貴族と言うよりは武家と言った方が正しいのかな?
 それで一部地域なのは理解しましたけど、国力っていうか兵力はあるの?


「保有兵数は少ないです。ミズホ地域を治める勢力がアズマ家を含めて4家あります。保有兵力比は4:3:2:1ですがアズマ家は『1』の勢力です。しかも四捨五入で繰り上げている『1』です」


 正に下剋上ですねっ! 下剋上半端ないッス!
 最弱勢力のアズマ家が戦乱に巻き込まれたら生き残れる可能性は?


「私からは何とも……」


 せめて俺が成人するまでは戦火に巻き込まれないようにできないの?


「貴方の運を上昇させますので、戦火に巻き込まれない可能性は上がると思いますが、何とも言えません」


 それって子供の頃に死ぬ可能性もあるってことですよね? 選択肢にするには条件が悪すぎるな。
 戦力が全体の一割もないのは、かなり不利な状況だと思う。
 さて、どうしたものか?


「但し、貴方の父親となるアズマ家当主、キシン・アズマに代が替わってからは戦に負けたことはありません。戦上手として勇名を馳せているようです。母親も名家の出ですから場合によっては援助もあり得るでしょう」


 少しは光明がさしたって処かな?
 どうしたものか……子供の頃に死ぬ可能性もある貴族の子供か、孤立無援の転移か、考えどころだ。
 ……職業は一度選んだら変更はできないの?


「これから貴方の行く世界では生まれつき職業を持っている者と、生まれつき職業を持っていない者がいます。職業を持っていなくても生活している間に持つこともありますが、それはあまり多くはありませんし、職業は一度持つと滅多なことでは他の職業には転職できません。多くの者は一生職業を持たず生きておりますので職業を持っているだけでも生きるのにかなり有利な場合が多いですね」


 ほうほう、つまり俺は転生すれば生まれつき、転移でも転移時点で職業を持っているから無職の人よりは有利だと?


「そうです」


 

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