チートスキルはやっぱり反則っぽい!?
チート! 033 迷宮都市ヘキサ3
回廊迷宮の5層にてグレートオークの群れを発見したシロー、スノー、アズハ、ジーナの4人は静かに戦闘準備にはいる。
スノーはシローとクルルが作った装備をその身に纏い水竜の摩弓を構えるとシローの指示を待つ。
ジーナは後衛であるシローとスノーの遠距離攻撃によってこちらに気付いたグレートオークの群れが突撃してくるのを想定し大盾と槍を構える。
戦闘時には遊撃手として近接ダメージ源となるアズハは両手に短剣を構え自分たちに向かって猪突猛進してくるであろうグレートオークを迎え撃つ準備を整える。
「さて、殺ろうか。俺のファイアランスに合わせてスノーは矢を放ってくれ。ジーナはオークどもが射程に入ったらヘイトを稼いでくれ。アズハは捕まらないようにだけ気を付けるように」
「「「了解しました!」」」
3人の返事を聞きシローがファイアランスを射出する。
「ファイアランス!」
通常のファイアランスは赤とオレンジが混ざったような色なのだが、シローのファイアランスは青白い炎の槍でありその射出スピードは音速に迫ろうかというほどである。
更にその射程は明らかに異常で500mをゆうに超えるのだが、今回の獲物であるグレートオークまでは100mもないので外す事は考えていない。
シローのファイアランス射出に呼応するようにスノーも引き絞っていた弦から指を離し矢を射る。
スノーが射った矢はクルルお手製の矢であり着弾時に爆発するのが特徴で通常の矢に比べ数倍の殺傷能力があるものだ。
この爆発する矢をスノーは一度に3本射っており、何も知らずボケーっと立っているグレートオークに今まさに着弾しようとしていた。
3本の矢を一度に射るだけでも高等技術なのだが、それを100mほど離れたグレートオーク3体に狙いたがわず命中させるのは更に難しい。
だが、スノーには3本の矢を命中させる自信があったし、シローたちもスノーが外すとは考えていないのだ。
最初の着弾はシローのファイアランスであり、寸分狂わずグレートオークの胸に突き刺さったかと思えば、グレートオークの分厚い胸板を貫通しその後方にいた数体のグレートオークを巻き添えにしていた。
そして最後には数mに渡り青白い火炎を放出し4体のグレートオークを焼き尽くした。
次の着弾はスノーが射った矢で、シローのファイアランスのような貫通力はないが、着弾時に爆発を起こすのでその爆発で数体のグレートオークが被害を受け吹き飛ばされる。
グレートオークといえば体長3mほどの体でその体重は200Kgを超える巨体なのだが、そのグレートオークを木の葉のように吹き飛ばした爆発は一切の手加減がない。
その爆発が続けて3ヶ所から起こるのだからグレートオークたちはたまったものではないだろう。
運よく無傷や軽傷だったグレートオークは次弾を発射しようとしているシローとスノー、それにその2人を守るように盾を構えるジーナに敵意の籠った視線を向ける。
「ブモォォォォォォォォォォッ!」
1体のグレートオークがシローたちを指さし雄叫びをあげる。
その雄叫びに呼応するかのように生き残ったグレートオークたちはシローたちに向かって走り出す。
その数未だ30を数え、数の不利は絶望的な状況ながらシローをはじめとしたパーティーメンバーは脅えることなく、逆に獲物を狩る猛禽類のようにグレートオークの群れを見つめるのだった。
シローはファイアランスの次射を行い迫りくるグレートオーク数体を消し去り、スノーも同様に次弾を射ると3ヶ所で爆発が起こり10体前後のグレートオークを屠る。
鬼のようなシローとスノーの攻撃を生き残りやっとのことでジーナの前まで辿りついたグレートオークは既に10体を切り、敵のヘイトを上げる盾系アーツの『ヘイトコレクト』を発動させると、射程内に存在したグレートオークたちはジーナに殺到する。
ジーナの『ヘイトコレクト』の運用はシローを唸らせるほどで、10体ほどいたグレートオークは漏れなくジーナに向かっている。
その隙を見逃さないのが遊撃手たるアズハであり、アズハのスピードを生かした必殺の連撃を受けたグレートオークは分厚い皮膚を切り裂かれ血飛沫をあげて意識を刈り取られる。
最初は40体以上もいたグレートオークもジーナに接敵する時には10体にも満たず、更に接敵後1分もしない内にたった1体にまで撃ち減らされていた。
「これで最後だっ!」
シローは拳をグレートオークの腹部に突き出した。
その瞬間、グレートオークの体は木っ端微塵に爆散するのだった。
「シロー殿、最後は派手に決めましたな」
「ああ、やっと俺の戦闘スタイルが固まってきたからね。この【闘神武技】を自分ものにする為にもっと実戦を積まないとね」
シローは自立してより剣(刀)を主武器として使ってきたが、自分の戦闘スタイルとして違和感を感じていた。
そして自分の戦闘スタイルを確立するために【剣士】だけではなく、【槍士】や【斧士】、その他にも多くのスキルを試したが、シックリくるスキルはなかった。
魔法については違和感がなく使えた事から自分と魔法は相性が良いのだろう、しかしシローは後衛職ではなく前衛職の方が自分の気質に合っているとも考えた。
そして前世の短い人生を考えた時、ナイフを持って山に入ったはよいが途中でナイフが折れてしまいそれからは自分の体を使ってサバイバルを生き残った事を思い出した。
何日も熟考した結果が魔法と格闘を合わせたスキルだったのだ。
だが、既存のスキルには魔法と格闘を組み合わせたスキルはなく【ステータスマイスター】では望むスキルを入手できなかったので最後の手段である【チート】君を発動させたのだった。
そしてできたのが【闘神武技】である。
この【闘神武技】はユニークスキルに属し、その能力は極めて強力なものである。
@闘神武技
魔力、気力、神力を纏い立ち塞がる敵を撃ち滅ぼす!
武器など不要!使うは自らの肉体のみ!
努力の対価としてのみレベルが上がるのだ!
STR増(極)、VIT増(大)、AGI増(大)、DEX増(大)、INT増(大)、MND増(中)。
このスキルを得てシローは歓喜した。
何故ならシローが神から与えられた【チート】という強力なスキルの副作用として努力してもスキルを取得することもレベルを上げることもできなかったのだが、この説明にある『努力の対価としてのみレベルが上がるのだ!』を読んで歓喜しないわけがない。
(あ~、これで俺も普通の冒険者のようにスキルのレベル上げができるんだな・・・)
虚ろな目で遠くを見つめるシローが居た。
あの日以来、スノーは非常に不愉快な思いをする事が増えた。
それは事ある毎にスノーを待ち伏せする金髪のストーカーによるものである。
スノーが露店で買い物をしている時、冒険者ギルドで依頼を確認している時、街中でショッピングをしている時、街から出て家に帰ろうとしている時、どこから湧いて出るのかと思うほど神出鬼没のストーカーである。
その名をアキム・ベットーネ。
だが、アキムはスノーの近くに近づく事はできてもスノーに指一本触れる事は許されなかった。
そう、物理的にできなかったのだ。
その理由はアズハとジーナである。
アズハがアキムの気配を察知すると、特攻してくるアキムをジーナが壁となり防ぐのだ。
シローが常にスノーと迷宮に潜っていればシローが壁となるのだが、相変わらずマジックアイテムの作成に没頭する事が多くシローの代わりにジーナが盾となっているのだ。
それでもアキムは凝りもせずスノーのストーカーを諦めない。
そんな状況が既に2ヶ月も続いており、流石のスノーもウンザリしていた。
「もう何なんですか、貴方はっ!」
「私はアキム・ベットーネ! 『紅蓮の魔術師』であり魔導師の称号を冠する貴公子である!」
「貴公子の使い方を間違えていませんか? この魔導王国セトマには貴族は存在しませんから!」
スノーは溜息混じりに吐き捨てるように呟く。
最早何を言っても無駄だと思うほどのアキムの奇行に怒りを通り越して呆れるばかりである。
「何故だっ?! 何故スノーは私のピュアな心が分からないのだ?!」
「だからピュアな心ってなんですか? 貴方の心が純粋かどうかより私に付き纏うのを止めてくださいっ! それと私の名を呼ばないでください!」
絶対零度の視線でアキムを否定するスノー。
アキムはジーナの守りを掻い潜り何とかスノーに近づこうと試み尽く阻まれる。
「くっ、こうなったらっ!」
いきなり魔術を発動しようとして詠唱に入るアキムだったが、その隙を見逃さずジーナのシールドバッシュが炸裂しアキムの意識を刈り取るのだった。
「まったくどうしたらストーカーを止めて貰えるのでしょうか?」
「それは無理じゃないですか?」
「うむ、アズハ殿のいう通りだ。あの者には他者の声など聞こえていないのであろう」
拠点にしている最早簡易家とは言えない家に帰りついた3人は今日のアキムの奇行を思い起こし辟易としていた。
「ストーカーを消滅させるか!」
その場にクルルを連れて現れたシローがアキムを物理的に消し去ろうと提案する。
「それではシロー様が犯罪者になってしまいます」
「それはいけません!」
「うむ、シロー殿が犯罪者になっては私も困るな」
「ご主人様を煩わすなんてギルティなのです!」
スノー、アズハ、ジーナはシローが犯罪者になるのを避けるべきと否定的であるが、クルルは過激に反応する。
「俺なら全然問題ないけどな? てか、そのストーカーが魔術を使ってこようとした時に消し去れば正当防衛が成立するぞ?」
もっと過激な考え方をするシローであった。
「あ~、あと迷宮都市ヘキサにも3ヶ月ほどいたし別の街に行くのもいいかもな? マジックアイテムの作成もここじゃないとできないわけじゃないし」
「そうですね、シロー様の目的も色々な土地を旅する事でしたし別の街へ移るのもよいですね」
「ご主人様が良いならアズハに不満はありません!」
「ふむ、何か逃げるようで気に入らんが、逃げるが勝ちという諺もあるし良いかもな?」
「ギルティなのです!」
何やら不穏な発言もあったが、こうして旅立つ事が多数決で決定したのである。
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